第9話 先生とドラゴン娘ドワーフ
「グリム! 先生との初めてのダンジョンでの実習! アナタのせいでめちゃくちゃになったよ! まだみんな戦えたのに何で逃げるなんて言ったの!」
「……」
「ひ、彦芽さんやめましょうよ」
「そ、そうだよ彦芽ちゃん」
ダンジョンの安全地帯に逃げるように駆け込んだxクラス。正輝は、何処か暗い表情をして、彦芽は、怒ったような表情でグリムを責め、光珠とセラは戸惑い、グリムは何も言わずに泣いていた。
「まあ彦芽、そう怒らない。グリムの話も聞いてあげようよ」
「う……せ、先生に言われると何も言えない。膝枕してくれるならグリムの話、聞く」
「うん、いいよ」
「先生! 好き!」
そう言い彦芽は、正輝の膝に頭をうずめ、先ほどまで悲しそうな表情であった正輝の顔は、どうしてか嬉しそうな顔であった。
「おほん! 先生、それよりあの撤退信号は聞きたいです。グリムさんの逃げるという選択は正直私も納得いっていませんので」
内に秘める光珠の意思を聞くとセラも少しだけ不満そうな顔を見せる。
言いたいことは分かる。だからこそ、これはグリムから離すべきだと正輝はグリムに話をふる。
「グリム、話してくれるかい。僕が撤退信号を出した理由」
「やだ……みんな、信じない」
ツンデレに憧れる少しふざけたグリムのいつもの言動ではなく、どこか怯えたような表情と発言。
その目は孤独で何も信じないそんな目であった。
「大丈夫。誰もグリムを信じなくても、僕は先生だ。グリムを信じる」
「う……うそ、みんな。そう言っていなくなっちゃった」
そう言いうずくまるグリムであったが、光珠は、グリムを抱きしめると優しく声をかける。
「私は勇者に憧れます。だから勇者候補の私は、グリムさんを信じます」
それにつられ、セラも恥ずかしそうに顔を背けながらもグリムに声をかける。
「私だって……グリムちゃんには、世話になっているから話は聞くよ」
「はいはーい! 先生が信じるなら、彦芽もグリムちゃんを信じるよ」
元気に手をあげる彦芽も先ほどの起こった様子は、膝枕で忘れたのか嬉しそうにグリムに声をかける。
「みんな……ありがと……ぐす。はなす……」
優しいクラスに囲まれたグリムはぽつぽつと話し出す。
「私……昔から、人以外が、何をしゃべっているかがずっと分かる……の」
「えっと、それは……動物とお話ができるという事ですか?」
理解が追い付かない光珠がグリムに聞くとグリムは苦しそうに返す。
「うん……動物や、お花……それに……ダンジョンにいるモンスターの声も全部聞こえる。何を言っているか分かるの。これは魔法とかじゃない」
「ま、待って! モンスターと会話ができるって! モンスターには、知能があまりないって、それに動物だって同じ。言葉が分かる訳……」
セラも驚き聞き返してしまう。
モンスター、亜人や異種族の多くなったこの世界での亜人と動物の区別は、言葉をしゃべり、理性や知性が一定基準ある種族のことであり、モンスターや動物は、それに達していないことを言うのだが、グリムには、全ての動、モンスターが何を伝えたいのかがわかってしまう、それは事実であった。
「言葉……なのかな。生き物の意思で何が言いたいかがわかるというか……感覚で分かる感じなの。それで私は、昔から変な子って言われてイジメられて……友達は、動物しかいなかった。動物は私をいじめない。けど人間は私をいじめる。ダンジョンもそう、みんな襲ってくるからモンスターを殺すけど、私には、聞こえるの……モンスターの恨み言が、初めて殺した時の恨み言が……『なんで、ぼくをころすノ』って言葉が」
そこまで言いグリムは震える。それを見て、彦芽は、正輝の膝から頭を話し、綺麗な背筋で大きな岩に座りグリムを見る。
「……彦芽、分かんないけどさ、グリムちゃんは、なんで、モンスターの声が聞こえるのに、モンスターを殺すこの学校に入ったの? このクラスで言うのもホントは良くないけど、xは、一般科への編入は、手厚いフォローがあるし、今からでも殺しとは無縁になれるのに……」
「彦芽さん! それは、あまりに酷な提案です!」
彦芽の疑問は、誰もが思っていたが口に出さなかった言葉であった。
デリカシーにかける発言に光珠は、怒ったように声を荒げるが、彦芽は動じず、座っていたから大岩から降りてグリムに向かってゆっくりと歩く。
「だってそうじゃん。別にダン専は、魔物を殺してダンジョンを攻略して人類の平和を守るすべを学ぶ学校。いやな言い方に変えれば生徒に生き物の殺しを教える血の匂いが染みついて取れない学校だよ。そんな殺しを学ぶ学校になんで、なんで、グリムちゃんはいるのかな? 私わかんないよ? グリムちゃん」
「ひっ……」
脅すようにグリムの小さく知事困った両肩を握りグリムの目を無理やり見る彦芽。
グリムを脅すような態度にたまらず光珠は、彦芽を引きはがす。
「彦芽さん! アナタは! 人には言いたくないことだって」
「あはは、なに? 喧嘩なら買うけど? 言いたくない事? 言えない時点で後ろめたい事なんだよ、それは。その後ろめたい隠し通し続ける覚悟がない子は、居ないほうが良い」
「ちょと二人も! 喧嘩はやめなって!」
「おとうさん……を、さがしたい」
彦芽と光珠が喧嘩になりそうになり、セラが止めようとした瞬間、グリムはそうつぶやく。
グリムの父親。
正輝は、グリムは、孤児であるとを正輝は、知っていたが、口ぶりからしてグリムが、父親について知っているようであった。
今までは生徒の決めたことを優先するため空気に徹していた正輝は口を継いだしてしまう。
「お、お父さん? 確かグリムは……」
「お父さんは、その……ドラゴンの格好をしているの……」
「んな! ドラゴンだって! ドラゴンとドワーフ族じゃ子どもは……」
モンスターと人間や亜人は、体の構造からして全く違う。
正輝も旅の際に竜との小作りを試してみたいとティたんに聞いてみたが無駄だからやめろと言われ、あきらめていたのだがグリムは続ける。
「いや、その、私、ダンジョンで保護されるまで、竜に育てられていたんだ……けど私は、ダンジョンを探索していた人に見つけられ、お父さんとは離れ離れになってしまって」
衝撃の事実。
昔、まだ正輝が魔王として首脳長をしていた頃である。ダンジョンで育った子供が保護されたニュースを聞いたことはあった。
「でも人間の大人はみんな私を同じ生き物を見るようには見てくれなくて、まるで実験動物のように扱われた……」
その少女が、その後、孤児院に入れられながら、様々な研究者がその少女について生きてきたか調べると言う名目で目を覆いたくなるような実験を幾度も施し、その実験は、魔王であった正輝の耳の届き、その実験計画を解体するまで続いていた。
グリムの話したことも同じであり、正輝は自分の無力さを痛感した。
「人間って何なの! モンスターって何なの! 私には全く同じに見える!」
「「「……」」」
一同は黙ってしまう。
あまりにむなしい話であった。
父であるドラゴンと暮らし、人間に保護されたと思ったら、実験動物のように扱われていた。
これでは、人間とモンスターに何の差があるのか分からなくなってきてしまった。
「ごめんな……グリム」
「な、なんで先生が謝るの!」
「ごめん……俺が……俺たち人間がグリムを苦しめ続けて」
「……せ、先生が謝っても何も変わらない。それに謝ってほしい訳じゃない」
正輝は、たまらずグリムを抱きしめ謝る。
自分が、至らないから。自分が無力で苦しんだグリムに謝ることしかできなかった。
こうしてこの日の授業は、終わったのであった。
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