第8話 先生と向き不向き

「はい、どーん!」

「キャ! ひ、彦芽! ちゃんとポジション守ってよ! 別に!はしてないけど! きゃあ! 殺す! 殺せないけど! ……おええぇぇぇぇぇ!」

「きゃあ! せ、セラさん! ちゃんと狙ってください!」

「ごめーん! 今度は乱数調整するよ」


 周りのことを考えず力いっぱい暴れる彦芽、周りのゴブリン型モンスターが爆散し、タンクであるはずのグリムはその光景を見て、思いっきりゲロを吐く。

隙を縫って中衛に迫って来たゴブリンを止めようとする光珠であったが、後衛のセラが撃った弾が反射し光珠に降り注ぐ。


『状況把握、カオスです。……出ましょうか』

「いや、ティたんが出たら実習の意味がない……のだけど」

「ぎゃあぁぁぁぁ! せ、セラさん! さっきから私ばっかり狙っていませんか!」

「うーん……ランダムショットだからな……光珠ちゃーん! 君、びっくりするほど運が悪いね! ほい!」

「も、もう少し正確に狙って下さーい! ぎゃあ! て、天井が落ちてきた!」


光珠に降り注ぐ銃弾と岩盤の雨。

不運な体質を存分に発揮し、セラの跳弾射撃がなぜか狙ったかのようにすべて光珠を狙い、光珠は、実力を発揮することができない状態。


「こ、こないで! え? ここはまずい……うんうん! ひ、彦芽、逃げよ! ここは安全! 別にただ! 超危険なんだからね」

「あーはははは、回復魔法展開! 過剰摂取(オーバードーズ) さあやるぞ! ちゅどーん! ばーん!」

「だ、だから逃げようって!」


そして前衛のグリムは、逃げ腰になり彦芽に提案をするが彦芽は何が楽しいのか両手をゴブリンやスライムの肉片まみれにし、話を聞かずに前進する。


「……うーん、セラはまだ跳弾予測が甘いな。光珠は、周りとの連携がまだとれていないし、彦芽は、あの回復魔法……狂騒効果でもあるのか完全にキマッてる。グリムは……」


カオスな状況に正輝は、冷静に各人の実力を評価していたのだがグリムの評価を出そうとした時、ティたんが正輝を遮った。


『正輝様、グリムについては少し答えを出すのを待ってくれませんか』

「ティたん? どしたん? 話聞こうか?」

『下心丸出しなナンパ男は嫌いです。話しませんよ』

「ご、ごめんって! で、ホントどうしたのさ。授業中に出てくるなんて珍しい」

『グリムがモンスターとしゃべっています』

「いやいや、そんな魔法、全盛期の僕だって見たことないよ」


魔王時代の正輝は、全知にして白痴、全能にして無能の魔王。矛盾した二つの異名を持つ正輝でも聞いたことのない魔法。

しかし、ティたんは、いたって真剣であった。


『では、感覚共有の魔法を行います』

「ちょ! ティたん!」


正輝は、ティたんの発動した魔法に巻き込まれ、グリムの感じる五感が強制的に正輝に流れてきた。


『に、にげロ、ここあぶ……』


モンスターがグリムに話しかける。

その言葉は、人間の使う言葉と全く同じであったが、その瞬間、彦芽がゴブリンに思いっきり殴りかかる。


「はいどーん!」

『痛い、痛い! 羽根折レ天使、コワ……』


そしてスライムも彦芽を見て逃げようとするが、暴力の塊である彦芽はそんなのお構いなしにスライムを肉片に変える。


「だ、だから! 彦芽もう逃げようよ! み、光珠たちも早く! せ、先生!」


グリムがそう言って後ろに目を向けるとそこには、岩盤や銃弾を避けながら、持っていた日本刀で楽しそうにゴブリンを切る光珠であった。


『こ、子どもハにがさないと……ぎゃあ!』

『はは……カタキ! と……え……!』


大きなゴブリンを倒した光珠に小さなゴブリンが襲い掛かるが、瞬間光珠に向かって飛んでいた銃弾が小さなゴブリンの脳天に直撃し息絶える。


「よ、ようやく倒せ! ひゃあ! せ、セラさん助かりました」

「ふいい! やっと倒せた! 先生! 当たった! すごいでしょう! せ、先生?」


そして撃ち殺した小さなゴブリンを見て満面の笑みで笑うセラ。

その光景を見て、グリムは、冷や汗をかく。


「な、なんで……みんな。みんな生きているのに何で……」


そして一気に襲う悪寒に正輝は慌てて、ティたんの魔法を解除する。

そして、魔法解除後ティいたんは、どこか悲しそうに正輝を諭す。

結論で言えば、グリムにはモンスターの声が言葉として認識していること。これは魔法ではなく生まれつきの才能であり、ダンジョン探索者においては、呪いあるという事。

うまくティいたんの言葉を理解できない正輝であったが、最後の言葉だけはしっかりと聞き取れた。


『グリムにダンジョン探索者は、壊滅的に向いていません。一般科への転科、真剣に考えてあげてください。あの子のためです』

「……ティたん。それは無理だよ。それは、僕が許さない」


そう言い、正輝は、撤退のための信号弾を放ったのであった。

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