第6話 先生と機関銃
「……ッ!」
窓のない射撃場。
授業中であり使用者も少ない演習場、ダンジョンを攻略する生徒たちには必須の場所なのであり、そこに一人モシン・ナガンの古いモデルを持ったセラは、悔しそうな顔をしていた。
「もう一回!」
ボルトアクションをして弾倉を装填するセラは、的に向かって一発をするのだが、その弾は、全く見当違いの方向に飛んでいく。
「……負けない」
もう一度弾倉を装填、的を狙うセラであった結果は同じくその弾が的に当たることはなかった。
「え、嘘でしょう……あの距離で当てられないのは流石にヤバくない?」
「やめなって、xの子でしょう……分からないのよ。ぷぷぷ」
近くで同じように練習していた生徒の笑い声が聞こえる。
笑われるのだって知っている。セラは、自分は、生まれつき目が悪く、体も思うように動かない。魔法で視力回復をしようとしたこともあったが生まれついたものを治すことはできず、両親にも一族にも馬鹿にされた。
けれど許せなかった。負けたくなんてなかった。
「笑うなら笑ったって良い……理解なんてされなくていい。最後は、必ず頑張りが報われるんだ。そこで笑っていればいい」
そうしてセラはまた一発、銃を発砲するのだが、また当たらない。
「なんで……なんで私ばっかり……」
何をやってもうまく行かない。
意地で入ったダンジョン専門学校。そこで学ぶ魔法であれば自分のハンデを克服できたかもしれないそう思ったのに気が付いたら落ちこぼれのクラス。
クラスのみんなは好きだ。けど悔しいのも本当だ。見返してやりたい。
そんな時であった、セラの横で同じ銃を構えた正輝が、ノールックで銃を放ち、その弾は、的の中心を完全に射抜いた。
「セラ、銃は、おもちゃじゃない。こいつは殺しの武器であり、仲間を守るための武器だ。感情をぶつけていたら当たるものも当たらない。君は、その銃を握ってどう思うどうして握るんだい」
「なんですか先生。嫌味ですか」
「違うって、僕は、いつでも生徒を待っている。だからセラの答えを待つよ。分からなければ教えるし、嫌なら待っているし。けど僕は、君の答えが聞きたい」
「そうですか……なら、あの的に私が当てたらご飯奢ってください」
「いいよ」
セラは、自分の愛銃をどう思うのか。
考えたことはなかった。けれど負けたくないそのために銃を握り続けていた。
誰かを倒すためとか、守るために銃を握ったことなどなかった。
ただ勝ちたいそれだけであった。
セラは、弾倉を装填し的を狙う。そして破裂音と弾が的をはずれた時の高い金属がはねた音が鳴る。
「だからなんで! 当たらないの!」
「……え、えっと、セラさん。まずは銃を持つときは、落ち着くことが大事です」
「み、光珠ちゃん」
光珠がデザートイーグルを握ると深刻呼吸をして数発を連射。的にすべての弾が当たると嬉しそうに光珠は笑う。
「ね、弾って人の気持ちをそのまま投影するからまずは落ち着くと良いんです」
「別に私はいたって落ち着いて……」
そう反論しようとしたセラであったがその反論は途中でかき消された。
「えーい!」
ドガンと言う破裂音。彦芽がボーリングの弾をまるで小石を投げるようにオーバースローで投げ、的とその周りの者が完全に粉砕されていた。
「ひ、彦芽ちゃん! ここは射撃場だよ! それは銃ではなく投てきでは!」
「あはは! 気にしない! 気にしたら負けだよ! 私は、ヒーラー職だけど前衛をやっているし、私は、別に今の自分を馬鹿にされても悔しくない。もっと自分勝手でで良いんじゃないのかしら?」
「え、えっと……」
戸惑っているセラであったがまだ二人は、マシであった。
「別に慰めになんて来てないんだからね! 銃を撃ちたいだけなんだからあぁぁぁぁ」
突然エンジンの爆音が響き爆走し、射撃場の壁を突き破る自動運転の機関銃付き装甲車。その上に乗り爽快に機関銃を撃ちまくるグリム。
後ろから騒がしい声が聞こえ、その中にエルバの声が聞こえたような気がした正輝であったが、今は考えないようにした。
「別に逃げてないし……先生どうしよう」
困ったように先生に助けを求めるグリム。グリムなりの応援であったのだろうが、明らかに正式に拝借したわけではない装甲車。生徒会も追ってきているだろう。
「お、おバカ! グリムのおバカ! こうなったら……」
『……了承。エルバの足止めをいたします。生徒さんにかまってばかりで私にかまってくれない正輝様へのストレスをエルバにぶつけてきます』
こっそりとティたんに頼み、生徒会を足止めしてもらう正輝。
そんなクラスのみんなを見て、セラは、困ったように笑う。
「な、なにさ、みんなして私に……うぅん見ていて」
「やっちまえ! セラアァァァァ!」
正輝の声援にセラは銃を構える。
「は、はい!」
セラは考える、自分が銃を握る理由を。
セラは深呼吸をして息を整える。
セラは、失敗を気にしない。
セラは、視野を広げるもっと自由に打つ。
「……」
遠くが見えない。それなら。
セラは銃口を的ではなく、手元にあるグリムが射撃場に突撃した際に出た瓦礫に向ける。
「バフ魔法……弾性付与……付与時間……設定」
弾性付与の魔法。対象に一定の時間跳ねる性質を与える魔法。あまり使い勝手のいい魔法でないがそれを使いセラは、銃弾に弾性を与え、そして銃を撃った。
キンキンと弾は跳弾し、弾性があるからか、跳ねるたびに弾は加速していき……弾は的の端ではあるが確実に的に当たったのであった。
「え……うそ」
撃った本人すら信じられていないのか生徒たちはみんなでポカンとするが正輝は、理解した。
遠くが見えないのであれば、近くに射撃して跳弾を計算すればいい。それであれば遠くを見る必要もない。
セラも完全に理解して打ったわけではないが、そうするべきと考え試してみたのだろう。
そして結果はまごうことなき命中であった。
「ほら当たった。答え、見つかったかな?」
「わかんない……けど、先生?」
「なんだい?」
正輝がセラの頭をなでると、セラは、嬉しそうに笑一瞬顔が緩むが拗ねた子どものように正輝を睨み、口をとがらせる。
「私の勝ちだよ。ちゃんとご飯奢ってくださいね?」
「それはもちろん。おーい、みんな、今日はご飯僕が奢るけど何が食べたい?」
正輝は、その笑顔にしっかり答える。
セラは自分の価値観に気がついてはいないだろう。しかし正輝には、彼女が何をもって銃を握るのか、なぜこの学校にこだわるのかが。
「やりました! 流石セラさんです!」
「うーん先生とならどこでも楽しいから任せまーす!」
「肉なんて食べたくないんだから!別に勘違いしないで! 焼肉食べたいだけなんだから!」
三人がセラを囲むとセラは嬉しそうに笑って宣言する。
「なはは、私が先生に勝ったんだよ! 凄いでしょう!」
そう、セラの価値観は、負けたくない。根っからの負けず嫌い、それも筋金入りの負けず嫌いである。
家族には、無理と見放され、同級生からは馬鹿にされ、それでも道を外れず、ずっと努力をし続ける彼女の努力を正輝は、嬉しそうに見守った。
「……何か忘れているような。いいか」
正輝はこうして生徒を連れ焼肉を奢ったのだが、後日生徒会長たちを足止めしていたティたんが、忘れられていたと恨み言を吐き、すごく怖い目で睨まれていたのはまた別の話であった。
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