第5話 先生とギャンブラーの価値観

 翌日のxクラス、開いた穴は、修理された教室で正輝は、黒板にチョークで歴史の授業で大事なことを書いていた。


「百九十九年前、元異世界大戦は、ダンジョンの発生とともに行われた。その際、最初の兵器は、銃や魔法でお互いに致命傷であったが、勇者の発見の一つである平和実現機構……ピースメーカーこれにより、元から地球にあった世界、元世界の銃器とこの世界に転移してきた異世界の魔法が致命的な殺傷能力がなくなったのがきっかけで戦争は終戦したのが百年年後……その時の条約をなんていうか覚えている人はいますか」


近代史の授業は、今の人間と他種族が住まう地球において大切にされている教科の一つ。

百年に及ぶ戦争を終結させ、今後同じ過ち、差別をなくすための大切な授業。

正輝は生徒への質問を交え授業を飽きさせないようにしていたのだが……。


「はい先生!」

「はい、彦芽元気が良いのは良いが少しは落ち着いて手をあげようか」

「了解~。ちなみに答えは、先生愛していますです!」

「違います。正解は元異平和条約で……彦芽は、不満そうな顔をしない」

「ぶーぶー!」


授業をしている時の正輝は真剣そのもので、普段の多種族に対するセクハラも鳴りを潜めており、スマホからその姿を見ていたティたんは、感心していた。


「ちなみに世界を平和にした勇者の名前は……」

「はい! 勇者様の名前はアーサーシグムンド・スサノオです!」

「光珠、勇者は、特別な魔法で名前を世界から完全抹消いるから不詳。ただ、いたというのは事実とされている。想像でモノを言わない事」

「うぅ……私の考えた最高の勇者の名前なのに」


歴史の授業に新たな偉人の名前を作るのはいかがなものなのだろうか。

彦芽は、成績が悪い。そして、光珠は、真面目だが要領が良くないのか成績は平均。この二人は、結果はともあれ授業態度は、意欲的で好印象なのだが問題はグリムとセラであった。


「つまりホッジ予測は……あ、別に数学に興味なんてないんだから! 興味津々で授業そっちのけなのは秘密よ!」

「グリム、今は、近代史の授業で」

「知っているわ! 別に勘違いしていたわけじゃないんだから、勘違いしないで!」


グリムは、数学の授業の時に歴史の教科書を出し、歴史の授業の際に数学の教科書を出し勉強する。それも指定の教科書ではなく専門書。元魔王として知力も高かった正輝ですら意味が分からない。


「がぁぁぁぁぁぁ! い、いかさまだ! ノーカン! 絶対ノーカン! せ、先生! お願いお金貸して!」

「今日になってスマホを何台没収した……もう五台目だろう。授業を聞いて欲しいのだが」


そして、セラに関しては授業そっちのけでオンラインカジノに夢中であり、放課後までスマホを没収しても、次の瞬間には別のスマホを取り出し、オンラインカジノに戻る。

そもそも勉強に興味が無かったのだ。


「はぁ? 先生、私たちはダンジョン専門学校の生徒だよ。一般教養なんて将来使わないのだから勉強する意味なんてない。それとも先生も他の先生と同じで私たちを普通学校に編入させるつもり?」

「……」


突然セラの雰囲気が変わる。その顔は、保護されたばかりの野良猫のように表情が鋭い。


「ほら無言。そう言う事だよ」

「「!」」


勉強に真剣な彦芽や光珠は、怒って席を立とうとするが正輝が手で止める。そしてどこかずれているがしっかりと勉強に向き合っているグリムは、府ワンそうにあたりを見回す。それに対して違いセラはどこか諦めた目で正輝を見る。


「ううん、違うよ。そうやって考えがあったうえでしっかりと反抗して意見を言うって事は、はっきりした信念があるってこと。僕は、セラの信念や目的を応援したい」

「応援って……私みたいな出来損ないに信念なんてないよ。ただ反抗がしたい歳なだけ」

「そっか……でもサポート職から一年出来損ないと言われながら転科しない。その行為には信念を感じるけどね」

「良く言いますよ……先生。ごめん、悪いけど気分が悪いから、保健室行くわ」

「うん、分かった。僕は、いつでも生徒を待っているからね」

「バカらしい……」


そう言い、セラは、教室を出て行ってしまうが正輝は、笑って見送る。

セラが教室を去った後、重い雰囲気を破ったのは、グリムであった。


「せ、先生! 別に心配はしていないわ! だ、大丈夫?」

「ありがとうグリム。心配してくれて。ただ、教科書は、みんなと同じのを持とうね」

「い、いやだし! 分かったけど」


そう言いグリムが席に座ると彦芽は、少し深刻そうに手をあげ、いつものような元気な表情がそこには全くなかった。


「その先生……セラちゃんを誤解しないであげて。あの子は別に悪い子じゃないの」

「うん知っている」

「し、知っているって……わ、私はクラスのこと知りません。その、先生。差し支えなければ、教えてもらえることがあれば教えて欲しいです」


昨日からクラスに編入した光珠は、訳が分からず説明を求める。正輝は、プライベートな事情であったが、他の人に話してもいい範囲で、話し出す。


「セラは、元々、生まれつき目が悪くて体があまり強くなくてね。普通科出れば頭もいいし、きっといい成績を残したと思うのだけど……エルフは、元々身体能力が高く目もいい種族で家族からはずっと腫れもの扱いだったんだ。そんなセラは、家族の意向を完全に無視して、この学校に入学していてね。家族の願いもあって普通科に転科するようお願いをされているんだ」


エルフ族、森人と呼ばれるほど、森で過ごすことを愛する種族。アトランティスに出ている都会のエルフは、そうでもないのだが、森に住むエルフは、親の仕事と同じ仕事をする文化が残っており、セラの家族は昔から森で狩人をする一族。

そんな家庭から生まれたセラは、勘当同然でアトランティスに捨てられた。そして両親への嫌味なのか、彼女は、エルフの狩人とやることがほとんど一緒なサポート職にいるのだ。

それを聞いた両親は猛烈に反対しているらしいが、学校として本人の意思を無視するわけもなく、今に至る。そのことを話すと光珠の表情は少し険しいものであった。


「なんですかそれ? 絶対に変です。勝手に追い出して、勝手に人の人生に干渉するなんて絶対におかしいです」

「エルフも悪くない……別に肯定したいわけでもないけど……責めないであげて」

「まあ……エルフにだって文化や価値観があって、それを一方的に私たちの価値観で否定するのは良くないけど。そこから抜け出すためには、自分でも頑張らないといけないから」

「けど、価値観は、決して人を縛るものじゃない!」


価値観。

人間族しかいなかった頃の地球から価値観が変わり多くの多様性が生まれた。

その多様性に各種族は困惑しながらも手を取り合い暮らしている。一般教養は、そう言った多くの価値観を理解するためにも必要なことであり、基本となる。

だから、正輝は一般教養を決して馬鹿にはしない。しかし相手はまだ子ども、それをしっかり導くのは先生である自分の仕事であった。


「みんなの価値観聞いたよ。それぞれ正解。むしろ不正解なんてない。かくいう僕の価値観は、全ての種族を愛でて可愛がりながら愛にあふれた世界を作る!」

「言っていることは平和的なのに、先生が言うとセクハラ発言にしか聞こえない」


呆れる光珠。


「彦芽は、先生を独占したいから嫌!」


なぜここまで好かれているかは分からないがあまりい顔をしない彦芽。


「先生の言う事、すごくいい!」


そしてツンデレ?キャラも忘れキラキラした目で正輝を見るグリム。


「あ、あはは、そう言う事」


総価値観はこの四人ですら違うのだ。全く同じ価値観考えが集まることなんてない。

そんなものがあれば……それは、感情を持った生き物たりえるのだろうか。

正輝は、そんな生徒たちに少し別の授業をすることにした。


「じゃあ今から、セラの価値観も見せてもらおう! そしてみんなで歩み寄るというのはどういうことか、授業していくよ」


「「「はい!」」」

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