第3話 先生と自称勇者光珠。魔王先生は、狐吸いに夢中です
「やあ、光珠さっきぶりだね。スーハ―。すぅぅぅぅ」
「こういうのってもっと理想的な出会い方をするはずじゃないですか」
「あ、えっと……。初瀬先生、私のしっぽをモフモフするのは……ひゃん吸わないでください!」
エルバにくれぐれも魔王であることをバレるなと念押しされた正輝は、職員室にきて手続きを終え、同僚である狐の獣人族である同僚の先生である妲己の大きな尻尾を吸っていると生徒会につられて半べそになっていた光珠が連れてこられていた。
「すーはーすーはー。で、光珠。僕の妲己先生タイムになにをしに来たんだい」
「……な、なんですかその時間。私だって、先生のおかげで……ついに……先生のクラスになってしまったんですよ」
ため息をつく光珠であった。正輝が妲己のしっぽをかいでいることに関しては、気にしないようにした。
「ああ、妲己線先生に聞いた。僕の担任する落第クラスだよね。午後の授業から、クンカ、自己紹介含めて顔合わせは、午後と聞いたけど……うーん。白樺の香り」
「え、えっと初瀬先生。わ、私が説明するので、ひゃん! ほ、本当にしっぽをもふるのはやめてくださぁぁい!」
落第クラス。
正輝が担任するクラスで、ダンジョン探索に向かない生徒を集め一般学校への編入を促すクラス。そんなクラスを担当するというのは事前にエルバに聞いていた正輝であったが、光珠の動きはむしろダンジョン向きではないのだろうかと不思議に思っていた。
「くんか……でも、光珠はダンジョン向きの動きを」
「……雨下野さんは、その、ダンジョン攻略の成績は優秀なのですが、今まで一度も学期別の実力試験に出たことが無いのです。小テストや実習の成績は確かに優秀ですが実力試験に一度も出たことが無いとなると学校としてもこの結果を出さないといけないのです。それに今日、受けるはずだった特別実力テストも……結果として初瀬先生の件もあり、結果今日より、落第クラス……xクラスへ雨下野さんの編入が決定した次第です」
「……やだ、光珠。見た目によらず不良?」
妲己の話を聞いて、少し引いてしまう正輝であったが光珠は全力で否定をする。
「違います! これは勇者の宿命です!」
「中二病?」
「高校二年生です! 私は、勇者として常に人助けを……」
そこまで言おうとして妲己は、やれやれとため息をつく。
「何が人助けですか。一度目のテストは、おばあさんを助けていたら、それが某国の要人で、暗殺者との戦闘に巻き込まれた。二度目は、けがをした生き物が人を魔法少女に変え、おのが種の繁栄のため戦わせる第一種害獣生物キャスパリーグで魔法少女との戦争になった。三度目は、熱を出したと言いアイドルライブで目撃……そして今回は先生を助けるためとはいえ、街での違法戦闘……正直退学にならないのが不思議です」
「う……さ、三回目も私のドッペルゲンガーが発生して……」
「まあ、主張が全部本当でしたら、雨下野さんは、死ぬほど運が悪いです」
運が悪い。それも驚くほどの運の悪さ、それに対して光珠は、抵抗する。
「う、運は、悪くないです! 福引では、ポケットテッシュスレイヤーとして……」
「はずれじゃん!」
「あ、あはははー」
驚くほどの運の悪さがバレそうになったのか気まずそうに目を逸らす光珠に妲己はため息をつく。
「……はぁ……とにかく、私は一教師としてxクラスの子には普通の人生を送ってもらえるように初瀬先生には動いて……ひゃあ! せ、先生! し、しっぽをわしゃわしゃとしないで!」
「うーん。それは大人である我々のエゴですよ、妲己先生。どうです今夜、もっと教育について議論を……」
「え、エゴの前にセクハラです! ひーん! し、尻尾の毛が生え代わりの季節なのであ、あんまり……」
「ブラッシングさせてください!」
「先生!」
正輝の行為を見て信用がない光珠はつい大きな声で正輝を呼んでしまい、正輝も真面目な顔になり、光珠を見る。
「なら聞くけれど。光珠。君は何になりたい?」
「勇者になりたいです! 言葉ではなく本物の勇者にです!」
「勇者ねえ……」
ダンジョンが世界にできたばかりの混迷期、ダンジョンモンスターは、ダンジョンから外に出て地球にいる生き物の命を一方的に奪っていった。そんな中、一人の何の特徴もない人間族の少年はダンジョンを完全に攻略しダンジョンの封じ込めに成功。
その後、ダンジョンの封印は続き、世界は混迷期から抜けた。
そして、世界の混迷期から発展に向けた少年は、敬意を持ち、人からは勇者と呼ばれた。
そんな歴史の勇者に目を輝かせる少女。
正輝は、光珠の覚悟を確認するため少し厳しいことを言う。
「ダンジョンの発生対策が施された今、キミは、どうやって勇者になるというのかい」
「やり方なんて分かりません。ですが、当時の勇者様だって、どうやってダンジョンを攻略するのかが分からない中攻略をしました! 答えとは、教わるものではなく、見つける物です。なのでその回答に対する答えは、簡単です。模索中!」
「……全くこの子は……ひゃん! せ、先生!」
「……すぅぅぅぅぅぅぅぅ」
正輝は、呆れる妲己のしっぽを一吸いし、顔を話すと光珠に手を差し出す。
「いいだろう。僕が光珠を勇者になれるように導いて見せよう」
「せ、先生」
夢を否定しない。
それが多事多難なことでも、光珠の目に宿る光が本物と見た正輝は光珠に手を差し伸べる。
「ふう、そう言う事だ。僕は、自分の生徒が目指す夢を否定しない。させない。だからどうだろうxのみんなで頑張って他の先生や生徒を見返してみないかい?」
全身全霊、心からの言葉を放った正輝であったが、光珠はドン引きした顔で正輝を見下した。
「しっぽの抜け毛まみれな顔でかっこいいことを言ってもただの変態ですよ。先生」
「安心してくれ、僕の趣味は人間族のつややかな肌や髪にも興味がある。握手しよう」
「あの話聞いていました? アナタは完全に今、変態で、信用なんてできません」
「変態で何が悪い! 僕は、今から、自分のクラスに行って全員をもふるが、他意はない。趣味を突き通せる僕が、君たちが目指す憧れの姿にして見せる」
そう宣言する正輝に少し他の教師と違うような気がした光珠であるが、完全に今の行動の変態性のおかげでさっぱりと信用はできないが、その意思だけは本当のような気がして、正輝の手を取る。
「よろしくお願いします。先生。改めて私は、雨下野光珠二年生で、前衛を担当しています」
「よろしくね……。ううん、やはり人間族の肌触りは、最高だな」
「……最低です」
光珠の手を握ると愛おしそうに頬ずりをする正輝を見て光珠はドン引きをしていた。
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