第三章・再び始まる春

「私も別れたくなかったんだ。」


柚希の言葉が、四年前に止まっていた時間の歯車を回し始める。だけど、俺はすぐに返事をすることができなかった。言葉が見つからなかったのだ。


「そっか……。」

間抜けな返事しか出てこない自分が情けない。でも、そんな俺を見ても柚希は怒りもしなければ、呆れる様子もなかった。ただ、どこか寂しげに笑っていた。


「でも、今さらだよね。お互い、もう新しい生活があるし。」


彼女の口から「今さら」という言葉を聞いて、胸が締め付けられた。だけど、俺は気づいた。このまま見送れば、また後悔だけが積み重なっていくことに。


「いや、今さらじゃない。」

気づいたら、俺はそう口にしていた。


「柚希、俺はお前のことが好きだった。いや、今も好きだ。別れるなんて言われて、納得できるわけがなかった。でも、言い返せなかった自分が悔しかった。もう二度と同じ思いはしたくないんだ。」


言葉を吐き出しながら、自分の心臓の鼓動がどんどん速くなっていくのが分かる。柚希は驚いた表情で俺を見つめていた。でも、次の瞬間、彼女は目を伏せ、小さく息を吐いた。


「……匠って、本当に不器用だよね。」

顔を上げた彼女は、涙ぐんだ瞳で微笑んでいた。その笑顔を見た瞬間、俺は確信した。


「柚希、もう一度やり直そう。今度は俺がちゃんと向き合う。」


彼女は何秒も何秒も黙った後、小さく頷いた。


「うん……。今度はちゃんと、本音で話そう。」

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