第四章・それぞれの未来
それからの毎日は、まるで魔法にかかったようだった。柚希と過ごす時間は学生時代とは違い、大人としての新しい関係を築く日々だった。
ある日、俺たちは桜の並木道を歩いていた。春の風が吹き、散りゆく桜が舞う中で、柚希がふと立ち止まる。
「匠、覚えてる?高校の卒業式の後、この並木道を一緒に歩いたこと。」
「もちろん。お前が急に『別れる』って言った日だろ。」
柚希は少し笑い、桜の花びらをつまんで言った。
「あの時は怖かったの。匠にとって、私が重荷になっちゃうんじゃないかって。遠く離れたら、いつか嫌われちゃうんじゃないかって思ったんだ。」
「そんなことあるわけないだろ。」
「うん。今ならそう思える。でも、あの時は怖くて仕方なかったんだよ。」
俺は桜の花びらを見つめながら、彼女にそっと手を差し出した。
「柚希、もう怖がらなくていい。俺はお前のそばにいるから。」
彼女は小さく頷き、手を握り返してくれた。その手は少し震えていたけれど、温かかった。
その後も俺たちはゆっくりと関係を育み続けた。喧嘩もするし、悩むこともある。それでも、お互いに向き合い続けるという選択肢を捨てることはなかった。
そして数年後、桜の花が再び咲く季節に、俺は彼女に一生分の覚悟を込めた言葉を伝えた。
「柚希、俺と結婚してくれ。」
彼女は涙ぐみながら頷き、言った。
「はい。」
桜吹雪の中で交わしたその約束は、過去も未来もすべて包み込むほどの温かさを持っていた。
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