ふぉー・わん

 わしゃわしゃわしゃわしゃ……


 ソファーに座った佐藤さんに全身もみくちゃにされ、とにかく撫でられまくる。嫌な気分にはならないので、されるがままに撫でられ続けていた。


「うーん、大丈夫そう……かな?」


 未だわしゃわしゃ撫で回しながら少し不安そうにそう呟く佐藤さん。何の話だろう、と首を傾げて見せると、佐藤さんにも意図が伝わったらしくフッと笑った。


「今日、サキちゃんの体調が良さそうなら買い物に連れて行こうかと思ってな。流石に飼う子を決めないままでは買えない物もあったし。」


「キャン!」


 僕は元気だよ、という意味を込めて一つ鳴くと、佐藤さんはそれを汲み取ってくれたようだった。


「分かった。だが無理はするんじゃあないぞ?」


「キャンキャン!」


 大丈夫! という気持ちを込めて鳴くと、佐藤さんはヨシヨシと頭を撫でてから『じゃあ出掛ける準備をしてくるな』と僕を床に下ろした。





──楓真side


 出掛けるにあたり、まだサキちゃんの首輪やリードを買っていないことを思い出した。


 それならさて、どうやってサキちゃんを外に連れて行くかと思案する。まぁ、結果的に抱っこくらいしか思いつかなかったのだが。


 と言うことで、慣れないながらサキちゃんを抱っこして外に出る。


 近隣にペットショップも動物病院もある場所に家を構えたので──もちろん、いずれ動物を飼った時の為に、だ──移動は楽なのだが、たくさん買い物をすることを考慮して車で行くつもりだ。


 駐車場までの短い距離を歩き、昨日の雨が嘘のようにカラッと晴れた陽の光を浴びながら『散歩をしたら気持ちいいだろうな』だなんて考えていた。


 そしてそれは俺の腕の中にいるサキちゃんも感じていたらしく、ポカポカの陽を浴びて気持ちよさそうに目を細めていた。


 あまりの可愛さに、サキちゃんを眺める俺の目も細くなってしまうのは必然と言うもので。


 後部座席にサキちゃんを乗せて一撫でしてから、己も運転席に乗り込み数分車を走らせると、件のペットショップに到着した。


 ペットも乗せられるカートにサキちゃんをちょこんと乗せてやると、こちらを見たり、進行方向を眺めたりと楽しそうにしていた。


 対して俺は、買うものを選別しながらサキちゃんを眺めるというとても忙しく、しかしとても幸せな時間を過ごしていく。


…………


「うーむ……」


 買う物も粗方カゴに入れたところで、俺はある商品の前で立ち止まっていた。そう、首輪とリードだ。


 サキちゃんは今ポメラニアンの姿をしているが、元々は人間らしい。そんな子に犬である証のような首輪を付けても良いものか、付けない方が良いのか。それで悩んでいた。


「クゥン?」


 サキちゃんはそんな俺を見て『どしたの?』と言いたげに首を傾げた。そうだ、本人に聞いてしまえば良いのか。


「サキちゃんに首輪を付けるか否か、悩んでいたんだ。付けることに抵抗感はあるんじゃないかって……」


「わふ……」


 俺のその気遣いに対して呆れたようにサキちゃんは息を漏らし、その後キョロキョロ辺りを見回し始めた。そしてあっちあっちとその御御足で奥の方を指差した。


「……? そっちに何かあるのか?」


 カラカラとカートを押してその方へ七、八歩進む。するとその時サキちゃんはワンと一つ鳴く。


 ちょんちょんと一つの首輪を指差し、キラキラした目を向けてくるサキちゃん。それは赤茶色のちょっとオシャレな首輪だった。それを付ける抵抗感は少ない、と見て良いのだろうか。


「これが良いのか?」


「ワオン!」


 嬉しそうに尻尾を振りながらそう鳴くサキちゃん。本人が良いと言うなら、それにしない選択肢はないだろう。


「じゃあ、これにしようか。」


 とりあえずこれで必要最低限の物は全部カゴに入った……かな。もう一度指差し確認をして、会計へと向かう。


…………


 家に帰ってきて真っ先にサキちゃんは買ってきた物が入っている袋に突進した。


 そしてその袋の中を漁り、首輪を探し当てた。トテトテとそれを咥えて俺の元へやって来たサキちゃんは、それを俺の手中に置く。


「キャン!」


 そして早く付けろ、と催促するように鳴いた。そんなところも可愛いなんて、無敵よな。だなんて内心デレデレしながらそれを付けてやる。


「フンガフンガ」


 すると、どうだ可愛かろう! と言っていそうなドヤ顔を披露するサキちゃん。


 ああその仕草も本当に可愛い。内心サキちゃんの可愛さにデロデロに溶けながら、それを表情には出さないように引き締める。サキちゃんに気持ち悪がられたら生きていけないからな。

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