06
「ここに帰ってくるのは久しぶりだなあ」
神殿を見上げ、ルキフェルは眩しそうに目を細めた。すれ違う聖騎士たちを横目に、天使然とした彼を見上げる。本当に誰も彼が魔族だということに気付いていないみたいだ。
「でも本当に良かったのか? 君、先生のこと大好きだろう」
「……もう、決めたことなので」
扉を開けると、先生が窓の外を見つめ立っている。ルーシーに気付くといつもの優しい笑みを浮かべて温かく迎え入れた。
「お帰りなさい、ルーシー。随分と遅かったですね」
「……」
すぐ目の前で立ち止まり、ルーシーは背負っていた袋を降ろした。もぞもぞと中で何かが動いている。
「これは何ですか?」
「お土産です。きっと先生なら喜んで下さると思いまして」
そう言って袋の端を掴みひっくり返すと、黒い幼獣が転がって出てきた。目を見張る先生を見上げ、ルーシーは微笑む。
「素晴らしい……!」
恍惚に瞳が歪み、先生はルーシーを抱きしめた。
「よく使命を果たしました、ルーシー。流石は私の子です」
「だって、異端者は__神に歯向かう者は、裁かなければなりませんもの」
鈍い音を立て、短剣が先生の胸を貫く。無意味な液体が傷口から溢れた。
「ルー、シー……? なぜ」
「神に逆らわない、人間に救いの手を、異端者は即刻断罪__全部貴方が教えてくれたんですよ」
「ルーシー!」
「ちょっと、やだなにこれ。なにしてんの!?」
勢いよく扉が開け放たれ、ミハイルとバールが顔を出す。先生の胸を突き刺す彼女に剣を抜くがどこからともなく現れたルキフェルに行く先を塞がれる。
「貴方が魔族と定めた者は、ただの保有魔力量の優れた人間でした。貴方が異端者だと切り捨てた者は皆、偏見を鵜吞みにせず平和を夢見て魔族と交流していた者でした」
「やめ、ろっ……! 私はただ、貴方たちのために」
「悪人は常に自分を正義の立場に置くため、自己矛盾を抱え屁理屈をこねる__貴方の道徳は、もう信じられません」
「やめてくれッ!!! ルーシー!」
深く差し込んだ短剣を引き抜き、ミハイルが止めに入るよりも早く先生の顔目掛けて振り下ろす。
「さようなら、先生__愛してる」
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