05

 久しぶりに、懐かしい夢を見た。

 彼はいつも大きな樹の下で寝ていて、俗世で見聞きした様々な話を教えてくれた。燃えた森が生き返るのは人の一生分ほどかかると聞いた時、私は彼にも何故生き物は死ぬのか聞いた。彼は誤魔化さずに「死は万人に降り注ぐ、最も公平な愛だから」と答える。じゃあ神は私たちを愛してないのかと聞くと、彼は__

「なんだ、もう目が覚めたのか? もう少し寝ていても」

「貴方だったんですね」

 振り返り、男__改革者ルキフェルは微笑む。記憶の中の美しい天使と重なり、分かっていても胸が震えた。背中の聖痕も記憶の彼と違わない。

「どうして魔族なんかに……」

「話したいことが沢山あるって言ってただろ? オレも、話したいことが沢山あるんだ」

 座って向き合う二人の様子を見に幼獣がころころと転がってきた。怪我はもう治ったようで元気に尻尾を振っている。撫でようと頭に手を伸ばし__黒く艶やかな鱗が目に入り手を止める。よく見れば頭に小さな角が二本生えている。脳裏に浮かぶ凶暴なシルエットを目の前の幼獣に照らし合わせて恐る恐るルキフェルを見ると、やっと気が付いたかと言わんばかりにニヤニヤと笑っていた。冷や汗が流れる。

「あの、もしかしてこの子って……」

「魔王の幼体さ。今はまだこんなちんちくりんだが、きっとすぐに大きくなる」

「キュア!?」

 ちんちくりんとはなんだと幼獣はルキフェルの足を蹴るがバランスを崩し背中から倒れる。何とも言えない視線に晒され、恥ずかしいのかルーシーの背中に隠れた。

「成程、だから意思疎通が出来るほど知能が高かったのですね」

「ぷっ、そんな気を使わなくても」

「ん"ん"!……それで、まだ質問の回答を聞いていませんよ」

「ああ、どこから話せばいいかな」

 意味のない幾何学模様を掘り、ルキフェルは顎に手を当てる。

「単刀直入に言うと、先生を殺そうとしたんだ」

「は?」

「全部嘘だったんだ。先生は神の化身じゃないし__オレらも天使なんかじゃない」


 一方その頃、地上では__

「アンタ、最近働きづめだったんでしょ。 いい加減休みなさいよ」

「そっちこそ……」

 朝日を浴びて土埃で薄汚れた白い服が照らされる。ルーシーが消えてからというもの、二人は周囲の心配の声をよそに一晩中聖騎士を連れ森の中を探して回っていた。

「ねえ、ルーシーが消えたのって……やっぱり、アイツの仕業かしら」

 昨日の魔族の襲撃を思い出し、取り逃がした魔族の顔を思い浮かべてバールは呟く。遊ぶように魔法を放ってきて弄ばれた挙句逃げられた屈辱が沸々と込み上げてくる。

「どうだろうな」

 怒りに燃え上がるバールとは対照的にミハイルはあの時と変らず平然としている。

「例えそうだとしても、奴は手負いだ。ルーシーなら大丈夫だろう」

「ふーん……アンタ、ちゃんとあの子のこと評価してるんじゃない」

「どういう意味だ」

 余裕のない鋭い目つきにバールは「べつにー?」と肩をすくめた。何故かミハイルはルーシーのことになると意固地になり、争いごとから遠ざけようとする。てっきり戦闘面での信頼がないものと思っていたが、そうでもないらしい。

 それから暫くして、視界を晴らすため木を切り倒そうとするミハイルを必死に止めていると夫妻が慌てた様子で駆けつけてきた。"二人の"天使が少年を連れて帰ってきたらしい。

 顔を見合わせ、二人は急いでスクロールを掴んだ。

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