03
ふわりと鼻をくすぐる独特な香りに目を覚ます。頭上には暗闇が広がっており、水の滴る音が反響し響いている。洞窟の中にいるみたいだ。
(落とし穴……いや、あの一瞬の浮遊感は転移? どこかに飛ばされたのかも)
取り合えず身体を起こそうと地面に手をつくと、なにか冷たくて硬いものに触れた。視線を向けると、まん丸の黄金色の瞳と目が合う。
「うわあ!?」
「キュイッ!?」
慌てて飛び退くと相手も自分の声に驚いたのか小さな体をバタつかせてころころと転がっていく。魔獣の幼体だろうか。警戒はされているが、敵意はなさそうだ。
しかしここに少年がいる可能性を考えると、生かしておくのは危険だ……。
短剣を召喚すると、手が濡れていることに気付いた。血だ。最初に感じた独特な香りはこの血の香りだろう。よく見ると幼獣の体中にある痛々しい傷跡から血が流れている。
脳裏をよぎったのは、いつしか
「……ええと、もし。そこのあなた」
「?」
短剣を仕舞い話しかけると、戸惑ったように幼獣は首を傾げた。まさか言葉が通じるとは思っておらず自然と笑みがこぼれる。
「良ければ私に、その傷を診せてくれませんか?」
ゆっくりとポーチからガーゼを取り出して見せると、幼獣は暫くの間迷うように私とガーゼを見比べる。根気強く待っていると、幼獣は恐る恐るこちらに近付いてきた。信頼を裏切らないようゆっくりと優しくガーゼで傷口を覆い止血する。呻く幼獣に「大丈夫」と声をかけ続けるとやがて落ち着いたのか、抱き上げてみても抵抗はされなかった。
「実は私、人間の子供を探しに来たんです。何か、ご存知でしょうか」
「ウキュ?」
首を傾げる幼獣に「ですよねえ……」と情けない声が零れる。
音の反響からして空間は水平方向に伸びていると思われるが、少年と出口が存在しているとは限らない。「迷子になったらその場から動いちゃダメよ!」と言う脳内のバールをかき消しルーシーは幼獣を抱え歩を進めた。
すると、何を思ったのか幼獣は腕の中から抜け出し反対方向に駆けていった。黒くて小さな体は目を離せばすぐに消えてしまいそうだ。慌てて後を追いかけると温かい光が見えてきた。焚火を囲うようにして、探し人である少年と__魔族の男が眠っている。息を呑むと、ゆっくりと男は目を開けた。陰のある妖艶な眼差しに見つめられる。
「あれ、天使様……?」
緊迫した空気を破った少年の声に動揺を呑み込み、ルーシーは笑みを浮かべて少年に向き合った。
「はい。ダニエルさん、貴方を助けに参りました」
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