第3話 偏見を生むメディア—海外の成功事例と日本の課題

メディアの報道姿勢が精神疾患への偏見を生む一因となっていることは、これまで述べてきた通りです。しかし、報道の在り方を変えることで、偏見を緩和し、社会にポジティブな影響をもたらす事例もあります。今回は、海外の成功事例を紹介しながら、日本での課題と改善の可能性について考えます。


イギリスの「Time to Change」キャンペーン


イギリスでは、精神疾患に対する偏見を減らすための国を挙げた取り組みとして「Time to Change」キャンペーンが行われました。このキャンペーンは、政府や非営利団体が協力して進めており、メディアへの働きかけを重点的に行いました。具体的には、以下のような取り組みが成功の鍵となりました:

1. メディアガイドラインの制定

ジャーナリストやテレビ制作者向けに、「精神疾患を持つ人々を偏見的に扱わない」報道ガイドラインを作成。センセーショナルな表現を避け、診断名を必要以上に強調しないよう求めました。

2. 当事者の声を発信

キャンペーンでは、精神疾患を抱える当事者の体験談を積極的にメディアに取り上げました。病気と共に生きる日常や治療の成果を伝えることで、「精神疾患=危険」というイメージを払拭し、多くの人々が共感を持つきっかけを作りました。

3. 効果的な広告の活用

精神疾患に関する偏見や誤解を問い直す内容のテレビ広告やポスターを制作。視聴者や市民に、精神疾患について正しく理解する重要性を訴えました。


これらの取り組みの結果、キャンペーン開始後10年間で、精神疾患を持つ人々に対する偏見が大幅に減少し、社会の受容度が向上したと報告されています。


スウェーデンの報道基準と社会の成熟度


スウェーデンでは、メディアにおける倫理基準が非常に高く、事件報道で精神疾患の有無を安易に結びつけることはほとんどありません。また、精神疾患を抱える人々の人権を尊重する報道が徹底されています。例えば:

• 精神疾患の診断名や治療歴は、事件に直接関係がない場合には一切報じない。

• 被害者や加害者のプライバシーが守られるよう配慮し、感情的な内容ではなく、事実に基づいた報道を心がける。


スウェーデンでは、こうした報道基準が社会全体の成熟度を支え、精神疾患に対する偏見を減らす役割を果たしています。


日本の課題と改善の方向性


対照的に、日本では以下のような課題が残っています:

1. センセーショナルな報道

精神疾患を抱える人が加害者である場合、その診断名が過度に強調され、視聴者に誤解を与える表現が目立ちます。これにより、視聴者の間に「精神疾患=危険」という固定観念が植え付けられています。

2. 当事者の声の不足

精神疾患を持つ当事者がメディアに登場し、自らの経験を語る場が少ないため、偏見を払拭する機会が限られています。

3. 正しい知識の普及不足

学校や職場で精神疾患について学ぶ機会が乏しく、メディアを通じた情報が偏見の主な情報源となっています。


これを改善するためには、日本でも海外の成功事例を参考にした取り組みが必要です。具体的には:

• 報道ガイドラインの導入

メディア業界全体で、精神疾患を正しく扱うためのガイドラインを制定する。これにより、無責任な発言や偏見を助長する報道を防ぐ。

• 当事者の声の拡大

精神疾患を抱える人々が、自分たちの経験や思いを安心して発信できる環境を整備する。

• 啓発キャンペーンの実施

テレビやインターネットで、精神疾患に対する正しい知識や偏見の実態を伝える広報活動を行う。


私たちにできること


メディアの報道姿勢を変えることは容易ではありませんが、視聴者として「情報を鵜呑みにしない」姿勢を持つことはできます。また、個人がSNSやブログを通じて、偏見に対抗する発信を行うことも効果的です。


次回は、当事者の声や支援の重要性について、海外の取り組みを参考に深掘りします。精神疾患への偏見を減らすヒントを一緒に探っていきましょう。

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