第4話 当事者の声と支援—海外の取り組みが示す未来
精神疾患に対する偏見を減らすためには、当事者自身が声を上げること、そしてそれを社会が受け入れる姿勢が重要です。しかし、多くの国では、当事者が偏見や差別を恐れて沈黙してしまう現状があります。海外では、こうした状況を改善するために当事者の声を社会に届ける取り組みが進められています。今回は、その具体例と、日本でも参考にできるポイントについて考えます。
オーストラリアの「Mental Health First Aid(メンタルヘルス応急手当)」
オーストラリア発の「Mental Health First Aid」プログラムは、精神疾患を持つ人々への理解と支援を広めるための教育活動です。このプログラムでは、地域社会の一般市民が精神疾患の初期兆候を理解し、適切に対応する方法を学びます。
主な特徴:
1. 当事者の声を重視した教育
精神疾患を持つ当事者の体験談が教材に取り入れられ、病気の本質や日常生活での課題を具体的に学べます。これにより、参加者は病気への恐怖心や偏見を軽減し、当事者を支援する方法を身につけます。
2. 地域全体で支援ネットワークを形成
プログラムを受講した市民が、日常生活で精神疾患を持つ人々を支える「応急手当の担い手」となり、地域社会全体で支援の輪を広げています。
この取り組みは、精神疾患に対する偏見を減らし、当事者が安心して支援を受けられる環境を作り出しています。日本でも、このような地域密着型の教育が普及すれば、社会全体の理解が深まる可能性があります。
アメリカの当事者中心の取り組み
アメリカでは、当事者が自分の経験を語る「ピアサポート(当事者支援)」が広がっています。この活動は、精神疾患を抱える人々が互いに支え合うことで、社会的孤立を防ぎ、偏見を減らす効果があります。
具体的な取り組み例:
1. 「NAMI(全米精神疾患同盟)」のピアプログラム
NAMIでは、精神疾患を持つ人が講師となり、自分の回復のプロセスや体験を共有するプログラムを提供しています。この活動は、参加者だけでなく講師自身の自己肯定感を高める効果もあります。
2. 当事者によるSNS発信
アメリカでは、当事者がSNSを活用して自分の経験や治療プロセスを発信する文化が広がっています。これにより、精神疾患に対する誤解を解消し、同じ悩みを持つ人々に勇気を与えています。
スコットランドの「See Me」キャンペーン
スコットランドで行われている「See Me」キャンペーンは、精神疾患に対する偏見をなくすために、当事者の声を社会に広める活動です。このキャンペーンでは、次のような取り組みが行われています:
1. 当事者が主役となる広告
テレビやインターネットで、精神疾患を抱える当事者が自分の生活や病気との向き合い方を語る広告を制作。視聴者に偏見を問い直すメッセージを届けています。
2. 職場や学校での啓発活動
職場や学校で当事者が体験を共有する機会を作り、精神疾患を正しく理解する文化を育てています。
これらの活動の成果として、精神疾患に対する偏見が徐々に減少し、社会全体の受容度が向上したと報告されています。
日本への示唆
日本でも、当事者の声を社会に届けるために、以下のような取り組みが考えられます:
1. ピアサポートの普及
当事者同士が支え合い、自分の経験を共有する場を増やすことで、社会的孤立を防ぎます。これには、NPOや地域の支援団体の協力が欠かせません。
2. SNSやブログの活用
日本でも、当事者が自分の経験を発信しやすい環境を整えることが重要です。特に、匿名性が保たれるインターネットは、初めての発信に最適です。
3. メディアの協力
テレビやインターネットで、当事者が日常生活や治療の過程を語る機会を増やし、精神疾患に対するポジティブなイメージを広めます。
私たちにできること
偏見をなくすためには、当事者が声を上げるだけでなく、私たち一人ひとりがその声に耳を傾ける姿勢が大切です。そして、当事者が発信した情報を積極的に共有し、偏見を減らす運動に参加することが、社会を変える第一歩になるでしょう。
次回は、これまでの議論を踏まえて、偏見を超えて未来を築くために私たちができることを提案します。共に考え、行動するきっかけを見つけましょう。
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