第15話 診療所までの道のりは長かった
リリーシェは仕事を終えると急いで服を着替えた。
一応ユーリと言う竜帝の孫と出かけるので持っている中でまともなワンピースを着ると赤色の髪を下ろして櫛で梳いてポニーテールのように後ろで結んだ。
腰の辺りまであるリリーシェの髪が少し光沢のある青いワンピースにまとわりついた。
(そうだ。お金)
リリーシェの思った通りカルダさんに相談したらお金の前借りは快くしてくれた。
カルダさんは「リーシェカットの独占使用料の一部と思ってくれればいいから」と言われた。
明日にでも正式に契約書をかわそうと話をされた。
少し心苦しい気もするがこの世界にはないものだから、特許権とか言われることもないし、それにこれからの生活の事もあるのでまあいいかと思った。
「お待たせしましたユーリ様」
「リリーシェ…」
ユーリが声を詰まらせる。
「何かおかしかったでしょうか?あっ、やっぱり着替えて「いや、違うんだ。あまりに綺麗だったから、いや、その…すまん。こんな事不謹慎だな。さあ、行こうか」はい」
目的地を目指してふたり歩き始める。
通りに出るともう空は茜色に染まり始めていた。
空気が朱色を纏ったように周りの景色が赤く染まる。
リリーシェの赤い髪が風で巻きあがる。
「きゃぁ!」
髪は一瞬で朱色で染まり燃え上がるように輝きを増してそれは幻想的な色合いになっていた。
「リリーシェ…君は…まるで赤竜みたいだ」
ユーリがつぶやいた。
「えっ?赤竜?私ってそんな野性的に見えるんですか?やだ、どうしよう」
リリーシェは動揺して目を見開くと立ち止まった。
ユーリは銀髪をわしゃわしゃ掻きまわしながら焦って言う。
「ちがっ!赤竜とか青竜は竜人に取ったら最高の誉め言葉だ。すごく美しい竜って言う意味で、いや、リリーシェが竜みたいとかそう言うんじゃなくて…俺は女性と、その…付き合いなどしたことがないから、君がすごくきれいだって言いたかっただけで…すまん。傷つけたか?」
「いえ、言いたいことはわかりました。あっ、もう…ユーリ様髪くしゃくしゃですから」
リリーシェはおかしくなってユーリに手を差し伸べる。
頭ふたつ分高いユーリの頭には背伸びしなければ届かず、ぐっと背伸びしてくしゃくしゃになった髪の毛を手で整える。
するとユーリが少しひざをおってリリーシェがやりやすいように低くなる。
「ユーリ様って髪結ばないんですか?あっ、別にそのままでもいいんですけどね」
「そんなの女みたいじゃないか?」
「いえ、そんなことないと思いますけど」
「そうか…それよりなぜ診療所に行くんだ?」
「知り合いが診療所にいて…いえ、知り合いの娘婿さんがけがをしたらしくってお見舞いに」
「男の見舞いか?」
ユーリの顔が怪訝になる。
リリーシェは眉間にしわを寄せる。
(はっ?勘違いですから。そんなんじゃありませんから)
「いえ、知り合いの娘さんの旦那さんです」
「それって他人って事だろう?」
「まあ、そうですけど」
「リリーシェって変わってるな。それでどんな用?」
「少しでも怪我が治せればと思って」
「疲れてるのに他人の怪我を治しに?」
「もう、ユーリ様!嫌なら帰ってもらっていいですけど」
「いや、そういう意味じゃないんだ。ただ、君は優しいんだなと思って」
「いけませんか?」
「いや、いいんだ。ほら、あそこじゃないか?」
(もう、ユーリ様。邪魔なんですけど…帰ってくれないかな)
そんな事を言っているうちに聞いていた診療所に着いた。
アンナさんはまだ来ていなかったので入り口で尋ねてみる。
「あの…あっ、名前聞くのを忘れてました。アンナさんの娘婿さんで馬車で怪我をした人っていうのは?」
「アンナさんの娘婿?誰でしょう?」
「この数日馬車で怪我をした男性は?」
「そんな方はここにはいませんけど」
看護師が首をひねる。
「わかりました。連れが来るはずですのでその人に聞いてみます」
「そうなんですか。ええ、それがいいですね」
看護師はほっとして中に入って行った。
「名前も聞いていないのか?」
「はい」
ものすごく気まずい空気が漂っていた。
(アンナさん早く来て下さいよぉ~)
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