第14話 誤解を与えた?

 夕方仕事が終わるころいつものようにユーリ様が現れた。


 彼は毎日のようにリリーシェの所に来る。


 「ユーリ様また今日もいらっしゃったんですか」


 リリーシェは呆れたように言うとうつむく。


 リリーシェは最近ユーリのあまりの超完成形の美貌が暑苦しく感じるのだ。


 男は当分お腹いっぱいと思っているのに無駄にいい男のユーリがリリーシェの作業を覗き込んで来たり、完成したネックレスを手に取って褒めちぎると妙にどきどきしてしまう。


 これは単に顔がよすぎるからおかしな気分になるに違いないのだろうけど…もう、いい加減毎日来るのはやめてほしいと思っている。


 だが、そんな事は口が裂けても言えるはずもない。


 そんなリリーシェだが、工房の同僚は異性と言う気持ちではなく単に仕事の先輩と思っているので全くと言っていいほどおかしな気持ちにはならないから不思議だ。



 「リリーシェ、ユーリ様はお前が気になるんだよ」


 シルベスタさんがからかう。


 「違う。俺はリリーシェの加工の技術が見たいから…これは今この街で最も重要な案件だろう?」


 ユーリは慌てて否定する。


 「まあ、そうですけど…そう言えばユーリ様。リリーシェの書いたデザイン見てみます。これがまたすごいんですよ」


 トラッドはまるで自分の事のようにリリーシェが書いたデザイン画を見せる。


 「これ、全部リリーシェが?」


 ユーリ様の銀髪が揺らめき双眸を細めてリリーシェを見た。


 (また、そんな顔して…心臓に悪いですからユーリ様。それも全部日本ではありきたりな物です。別に私の才能がどうとか言うものじゃないんですから…)


 と思いつつも…


 「あっ、まあ、そうですけど…でも、違うんです」


 「何が違うんだ?リリーシェが考えたんだろう?だってこんなの見たこともないぞ」


 「そうですけど…」


 リリーシェは尻すぼみに小さくなる。


 「とにかくこんな才能があるとわかればリリーシェには十分身辺には注意してもらった方がいいと思う。そうだろうトラッド」


 「ええ、そうですね。リリーシェ、出掛けるときはひとりでは行くなよ。誰かと一緒の方がいい。万が一と言うこともあるかも知れないからな」


 「トラッドさん、そんな、大袈裟ですって。デザイン画の事だって知ってるのはこの工房の人だけですし…私なんかまだぺいぺいの駆け出し者なんですから」


 リリーシェが書いたデザインは元いた日本では珍しくもない。


 例えばハートのペンダントのトップや、円形の中にカットした宝石をぶら下げるもの。指輪と指輪を交差させたトップのネックレスに動物をモチーフにしたペンダント、それから薔薇の花をアレンジした銀のイヤリングに宝石を円柱形やブロックのようにしたイヤリングなんかもあったと思う。



 「ばかな事を。リリーシェ、君は癒しの力も持っているしこんな素晴らしい才能もある。この国ではそんな俗人が誘拐されて売られる事だってあるんだ。リスロート帝国に入って来る外国人は雑多だ。どこの国に売られたかなんて調べようがないんだぞ!」


 ユーリは酷く真剣にリリーシェに説明した。


 「すみませんでした。私の認識不足でした。これからは気をつけます。あっ、そう言えば仕事が終わったら行くところがあるんですけど…」


 リリーシェは気まずそうに言った。


 トラッドがすぐに言う。


 「わかってるなリリーシェ。一人では行くなよ。でもなぁ、俺も今日約束があるからな…」


 「俺がついて行こう」


 すぐにユーリがそう言った。


 「ユーリ様が?」


 「俺では不足か?」


 「いえ、そういう訳では‥ただ、行くのは診療所ですよ。いいんですか?そんなところに高貴な人が行くなんて…」


 「この国に身分制度はないぞ。俺は一般人と同じ扱いだ。心配するな」


 「はぁ、じゃあいいですけど」


 (ったく。断わるわけにもいかないんですよね…なんなの?これじゃ私ってピュアリータ国と同じみたいじゃない。せっかく自由を満喫できると思ってたのに…ああ、迷惑。それに私の事何だかすごく才能あるとか思ってますよね?そんなんじゃないんですよユーリ様…)


 リリーシェはこの無駄に顔のいいユーリと一緒に出掛けることになった。


 「はぁぁぁぁぁ…」無駄に大きなため息が出た。



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