第12話 リスロート帝国について

 ~こちらはリスロート帝国の宮殿内~



 リスロート帝国の宮殿は王都ヴァイアナの北側の小高い丘の上に位置している。


 周りはぐるりと城壁で囲まれ高い尖塔がいくつもある城だった。


 世界で一番の力を誇る竜人の治める国とあって、リスロート帝国には多くの雑多な人種が住み交易もさかんで繁栄を極めている。


 そもそもこの国には貴族制度がないのでこの国を統治しているのは竜帝とその側近や国政をつかさどる行政官たちだ。


 その地位は竜人もいれば俗人もいる。


 ユーリの祖父に当たる竜帝フレバー・キャリスは他の国と同じく国王と同じように重要案件の最終決断を行う。


 行政に関わる執務は主に息子のジェス(ユーリの父)が宰相としてその任に当たっていてユーリは主に行政関係の仕事をしているし、双子の兄ウルムは竜騎士隊の隊長をしている。


 ジェスもウルムも銀髪で紺碧色の瞳の持ち主でジェスと妻セシーリアとは番同士だった。


 ウルムはまだ結婚していない。



 宰相の執務室にはユーリの兄であるウルムがやって来て父である宰相に話をしていた。


 「実はユーリの事ですが…」


 「なんだウルム。ユーリに何かあったか?」


 「いえ、特に変わったところはないのですが、気になることが起きまして…実はピュアリータ国からあのリリーシェがやって来たんです」


 「リリーシェが?それで」


 ジェスは弾かれたように立ち上がる。


 それもそのはずふたりは番同士なのだ。


 4年前リリーシェが王都の学園に留学してくるとすぐにユーリの様子がおかしくなった。


 ユーリは番の匂いを感知したと王都を毎日探し回りついに学園にいたリリーシェを見つけた。


 だが、リリーシェは俗人で番の認識は出来ないらしく初めて出会ったユーリに好意を抱くことはなかった。


 ユーリは何とかリリーシェに好意を抱いてもらおうと生徒として学園の3年生になりすまし何かとリリーシェの世話をやいた。


 そのかいあってふたりはお互い梳き合うようになり結婚の約束にまでこぎつけた。


 ユーリがリリーシェに口づけをした瞬間、ユーリは意識を失い倒れた。


 ユーリは宮殿に運び込まれ医師の手当てを受けるが全く意識が戻ることがなく、ジェスはあらゆる手段を講じた。


 そしてやっとわかったのが呪いと言う結果だった。


 元々竜人には白竜人。青竜人。赤竜人。黒竜人がいたが長い年月の間に白と青は同一となり赤と黒も同一となった。


 青竜人の先祖はキャリス家。赤竜人の先祖はヴェネリオ家だと言われている。


 他にもたくさんの家があるが特に力のあるのはこの二つと言える。


 互いは竜帝を輩出する優秀な竜人がいていつからか互いを敵とみなすようになる。




 曾祖父の代は赤竜人であるオックス・ヴェネリオが竜帝になっていてその弟にレックスと言うものがいた。


 彼にはローズと言う妻がいたが番ではなかった。


 ある日ローズの番が現れた。それがルクシオ・キャリスだった。


 ふたりは惹かれ合い焦がれとうとう駆け落ちをする。


 だが、それに烈火のごとく怒ったのがレックスだった。


 彼はふたりを探し出し殺してしまう。


 そして二度とキャリス家にヴェネリオの家の者が奪われる事のないようその為の呪いをかけて自らも命を絶ってしまう。


 だが、今まではそんな呪いの事など誰も信じていなかった。きっとヴェネリオ家とキャリス家の間に番が存在しなかったからだろう。


 よくよく調べるとリリーシェの祖母がヴェネリオ家の竜人の血を引いている事が分かった。


 何とか呪いを解く方法を探したが無理だった。


 仕方なくユーリには番を無効化にしてしまう番殺しを使うことになった。


 そのせいでユーリがリリーシェに出会って倒れるまでの期間の記憶を失くす事になったがユーリは意識を取り戻し何とか元気になったのだ。


 だから竜人の間ではユーリにこの話は絶対に知られてはならないと箝口令が敷かれている。



 リリーシェは最初ユーリ殺害未遂の容疑で捕らえられた。


 彼女は拘束されかなりきつい取り調べを受けた。無理もないだろう。竜帝の孫が意識不明に陥ったのだ。


 それでもやっと呪いが発動したらしいとわかり、リリーシェの疑いは晴れた。


 リリーシェは身体的にも精神的にもかなり弱っていた。そのためウルムの竜力を分け与えた。


 そのうえでユーリの記憶や取り調べなどの記憶を消す作業が行われた。そして番など絶対に存在しないんだと記憶に摺りこませ、この期間は流行り病にかかったと記憶をすり替えた。


 そしてリリーシェは無事学園を卒業してピュアリータ国に帰ったはずだった。


 なのにどうして?


 「どうやらリリーシェには竜人の力が作用して癒しの力が現れたらしくピュアリータ国の王太子と婚約していたのですが、妹に王太子を取られたらしく…」


 「まさか、王族が脳力のある女性を手放したのか?」


 ジェスは怪訝顔をする。


 「どうやら王太子の番らしいのです…ですが国王はリリーシェを連れ戻すよう指示を出しましたのですぐにピュアリータ国の者が来ると思います」


 「ああ、そうだろうな。それにしてもリリーシェにはやはりヴェネリオ家の血が流れていたからなんだろうな。ひょっとしてもっと竜人としての才能が開花するかもしれんな…何せお前の力を分けたんだ」



 竜人の血は濃い。いくつも年代を超えても一度混じった竜血はずっと引き継がれていくのだ。


 「そうですね。こんなことになるとはあの時考えも及びませんでしたが…」


 ウルムが想定外だと言うように顔をしかめる。


 「まあ、あの時は緊急事態だったからな。仕方がなかった」


 「ええ…リリーシェについてはこれからしばらくは様子を見ていた方がいいかと」


 「ああ、それよりユーリは変わりないのか?番殺しを使ったとはいえ、そもそもあれは番を失った竜人に使うもの。ユーリにはまだ番がいるんだ。どんな反応が出るかわからない…」


 ジェスは執務机を指先でコツコツ叩く。これはジェスの癖で考え事をする時自然と出る癖なのだ。


 「はい、それより‥」


 「なんだ?」


 「ええ、それがリリーシェには宝石彫刻師の才能があるそうでユーリは興味を示しています。あっ、でも、それはリリーシェに好意を寄せているという感じではありません」


 「そうか。まあ、しばらく様子を見るしかないだろうな」


 「はい、見張りをつけます」


 「ああ、もしおかしな事があったらすぐにリリーシェと離せ!いいなウルム!」


 「はい、心得ています」


 ふたりはそう言い合うと大きなため息が出たのだった。


 呪いはまだ解けたわけではないのだ。



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