第3話 試す為に

「父ちゃん…母ちゃん…兄ちゃん…。カワイスギ―ル…。ごめん。俺、どうしても試したい。確かに俺の能力は弱い。どう見ても、生きていけるようなものじゃない。でも、俺、冒険者になりたいから。試したいから」


 そこは【トールシティ】


 花と果物に恵まれた、温暖で、安全な地域。ルータは3日歩いた。


 若いから疲れもしないし、若いから、ろくに眠らずともまるで汗も掻かず、300kmを歩き切る。だが、街に着けば突然に、空腹を思い出した。

 凄まじい空腹が襲ってきて、胃袋が悲鳴を上げる。

「お…ヤベ…」

 なのに、金銭は何一つと持っていない。


 揺れながら歩いて、ルータはその時、漸く倒れた。そこは、民家と民家の間。狭い路地。勝手口に繋がる階段の横に樽が置いてあって、その間を風よけに、蹲る。

 動けば腹が減るだろう。だから、静かに、息を潜めた。

「明日になったら冒険者ギルドに行こう…。仕事をすれば少しくらいのお金にはなるはずだ…。………俺の能力で、出来る仕事なら良いけど…」


 ガチャッ


 一瞬、顔の横がオレンジ色の光りに照らされる。組んだ腕に埋めた顔を向けてみると、栗毛の女が中に顔を向けている。

「じゃあ、行って来ます」と言った、すぐ後。彼女は、少年を発見する。


「君…何してんの…?」


 冒険者ランク 【NB】 【エリエノ・エルオエ】


 沈黙する少年に対して中腰になって顔を覗き込む。

「そんなところに居ると、風邪引くよ?」

「…………うん」


「……」

10歳くらい…か…。なるほど…。


「健康の秘訣を教えよう」

「…え?」

「第一に、笑顔だ。どんなに恵まれなかったとしても、笑顔を忘れていれば、幸運はやって来ない。私は、エリエノ。宜しくね?」


 ぐうぅぅぅぅぅ…


 その、獣のような腹の音に、二人が目を丸くしたが、エリエノは腰に手を当てて大きく笑う。

「あっはっはっはっはっはっはっは!!! なるほどなるほど。オーケー。おいで。何か食べさせてあげるよ」

 ルータの手を取る。そして、彼女は建物の中に連れ込んだ。するとそこには、もう一人、少女が居た。ルータよりも遥かに、みすぼらしい、鳥の羽根の髪飾りを付けた、内気そうな少女だった。

 『行ってくる』と言った手前、すぐに戻ってきたエリエノに少し驚きながらも、メイドが3人出迎えお辞儀する。

「エリエノ様。どうなさいました?」

「この子、そこで倒れててね。何か食べさせてあげてくれる?」

「……畏まりました」

「ごめんね? 今日は此処で眠って良いからね? ゆっくりして、明日になったら、冒険者ギルドにでも行けば良いよ」

「…………ありがとう」

「最高っ! その言葉からしか取れない栄養がある。冒険者甲斐があるってもんだ」


 少女と向かい合って、食事をして、同じ部屋に入れられた。だが二人の間に会話は無かった。


 そうして、夜が明ける頃、少女はベッドの上から消えていて、ルータも起床すると、エリエノが出迎えた。

「おはよう! 少年!」

「……おはよう…ございます…」

「うん! まぁまぁな返事だ」

「……あの子は」

「さぁ。朝になったらどっか行っちゃった。多分、ギルドでしょ」

「…そうなんだ」

「君も行くかい?」

「…うん。そのつもり。本当にありがとう。助かった」

「そっか。でもね。今日は止めておいた方が良いんじゃないかなーって、思うんだよね」

「? どうして?」

「此処の冒険者ギルド、今日、監査なんだよ」

「かんさって、なに?」

「分かんないか。王都から『Lクラス』冒険者が来て、ギルドの実力を試したり、指導したりすんのさ」

「……そう…なんだ…」

「ただ、その人がちょっと曲者でさ…」

「曲者?」

「厄介な人。別名【初心者潰し】。新人を見つけては、指導して、いつも新人冒険者が辞めていく」

「…………」

「監査の期間も人に寄るんだ。1週間やった人も居る」

「……相当強いんだよね」

「【Lクラス】だから当然」

「でも……」

「! へぇ…」


 彼の目は、挑戦心に溢れていた。


「どんな能力なんだろ」

「知りたい?」

「知ってるの?」

「うん」


 ワァ!!


 外で大きな歓声が沸いた。

「来た!」

「え!?」

 2階の窓を開き、ルータを抱き抱えて外に向けた。


 冒険者には『クラス』と『ランク』が存在する。

 【ノーマル】【ハイ】【エース】【スペシャル】【レジェンド】。この5つのクラスがあり、その中にそれぞれ、【H】~【A】までのランクがある。冒険者は必ず最初は【N】クラス【H】ランクから始まり、【NH冒険者】と呼ばれる。そして【NA】となれば試験を受け【NS】となり、その後1か月間の期間、次のクラスの任務を熟す事で【HH】冒険者となる。


 彼女はその、最高クラス。


 【L】クラス【H】ランク。【マリアロッテ・サリ】


 白銀の髪を靡かせて、白銀の鎧を身に纏い、白馬に跨る美女。


「異能力【爪先歩つまさきあるき】。1kmを爪先で歩き切ったそうよ?」


「……そりゃ…安易に挑まない方が身の為だね…」

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最弱能力でどれだけ出来るのか?~最底辺能力を授かったので取り合えず最強に会いに行きます~ ののせき @iouahtjn

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