第2話 それでも母は
母『ミラル』は、愛していた。息子の事を。ちょっと我儘を言っても、ちょっとバカなところがあっても、それでも産まれて来てくれた二人の子供をこよなく愛している。
「ねぇ、ドルス」
夫【ドルス】
テーブルに肘をついたまま、二人は何度も自身の顔を撫でる。
「あの子…どうやったら生きていける?」
「あんな能力…。今、歩けるだけでも奇跡だ…」
「仕事なんて…」
「あの…」
「カワイスギ―ル…」
娘 【カワイスギ―ル】、二人の声、雰囲気を気にして2階から降りてきた。だが、少女は、涙を流している。
「カワイスギ―ル。どうしたの?」
「……お兄ちゃんが居ない…」
「え!?」
「なんで!?」
だが二人が立ち上がるとほぼ同時。玄関の扉がバンッと開く。
「大変だ!!」
グランツだった。
「グランツ? どうしたの」
「今、森で『Sランク』の魔物が現れたって、警護団の連中が話してて…。それで、絶対絶対、外には出ないようにと」
「……Sランク」
【魔物】と呼ばれる生物が存在する。【魔王】の魔力によって穢れた生物は、赤い核を身体に宿し、人類に対し強い殺意を抱くようになるという。
この、魔力の濃さにより、強さは大きく変化する。【S】は、その最も上のランクに当たる。この強さになると、人間一人ではまず太刀打ちする事は出来ない。能力者が20人以上、能力の相性などを深く加味し、そして訓練し、連携し、漸く太刀打ちする事が出来るレベルだろう。だが、それでもどうかは運もある。
【A】以上の魔物もまた【異能力】を有しているからだ。
ミラルが震える。そして走る。それはルータの部屋。
もしも異能力を手にしたら、王都に向かい、冒険者になる。その【御守り】が、無くなっている。
これまで、どんなバカな事をしても許して来た。これまで、どんな我儘も可愛かった。だが、これだけは、決して許す事は出来ない。
「はぁ! はぁはぁはぁはぁはぁはぁ!!! どうしよう! どうしよう!!」
ゴォォォ!! ブォォォォ!!!
巨大な熊が大声を上げながら、少年の後ろを追い駆ける。まるで木が、紙のように切り裂かれる。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい!! 俺の能力で勝てる訳がない!! こんな雑魚能力で…こんな…最底辺な能力で!!!」
「あ…」
その時、木の根がルータの足を掛けた。宙を浮いて、背後から迫る熊を視認する。もう、間に合わない。背中から倒れた時、熊は真上からルータを襲う。
真っ白な牙を剥き出しに、大量の涎をまき散らす。
「わあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
防御のつもりで、ヤワな手のひらを前に突き出した。
バチンッ
「…あ…あれ…?」
幻覚かと思うほど、目の前には何故か、熊の姿など無くなっていた。だが、その手のひらは間違いなく、熊の液体が付着している。透明で、ねっとりとした。
『良いかルータ。この森にゃ熊が居るが、怖がることは無い。熊はな、鼻が弱点なんだ』
「なんだそっかぁ。良かったっ」
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