第30話:悪魔のロシアンルーレット

「お、おい……これで良いんだよな!?俺様死にたくねえぞ!」

 ラーヴァの脳天に弾丸をぶち込んだ後、金髪の男は西棟の方に怯え混じりの大声で話しかける。

「ポゥポゥポゥ……ポーッポポポ!!」

 西棟五階から高笑いが聞こえてくる。

「……殺しはしないよグロッケン!あぁ……やりました我が不知火様よ!貴方を侮辱した悪を討ちまし」

 ボッ

「へ?」

 ボガッ

「ギャ」

「グロッケン!?何が……。」

 ビュン!

 真犯人の前に現れたのは頭から血を流したラーヴァだ。足の炎を起動し突っ込んできた!

「はっ……」

 真犯人は咄嗟に右腕を出し防御姿勢を取る!

 ゴ ツ ン ! ジ ュ ア ア ア !

 ラーヴァの額はとてつもない熱量を持っている!頭突きを受けたところ特に熱に耐性のない真犯人の右腕はあっさりと溶け落ちた!

「ぐあああっ!?な、何故!?」

「自分でも……分からない……!今考える事は……お前を殺す事だけだ!!」

 ラーヴァの額から落ちる血はそのまま硬い材料で作られた建物を溶かし下の階まで滴り落ちていく!

 (まさか……知恵熱!?いや今は原理はどうでもいいか!)

「うああっ」ばっ

「うおらああああ!!」

 真犯人は逃げ去ろうと廊下を全力で走る!ラーヴァはそれを追いかける!

「くっ」ダンダン!

 真犯人が撃つ弾はまるで当たらない!

「能力はどうした!?」

 「不味い能力の譲渡を忘れていた……!こっちの銃に戻さなくては!」カランカラン

「逃 が す か !」

「よしっリロード完了……あっ」

既に眼前にはラーヴァが迫っていた!

「ゔおおっ!」ダダダダダダダン!

 真犯人は残った右足で跳びたち怪我をしたはずの左手を上げ七発全てを撃つ!狙いは胸だ!

「フン!」

 ラーヴァは空中で体操座りの体勢を取り頭と足の双方で胸を守る!そして全弾溶かしきった!

 ビス

「ゔっ」

「アホめ……何!?」

 ビュアッ

 一方真犯人は胸に一発反動を食らってしまう!しかし目的はむしろそれだった!真犯人は発射の衝撃と胸に飛んできた弾丸のエネルギーで後ろに飛んだのだ!

 (野郎なんか鎧かなんか着込んでやがるな!)

 ヒュー……ガンガラガーン!

五階のある部屋に飛んだ真犯人!物に激突してその動きは止まったようだ!ラーヴァもそこへ急行する!

「さあもう逃げ場はないぞ……!」

「頼む助けてくれ!」 「死にたくないの!嫌なの!」

「!?」

 その部屋にいたのは黒髪の男と茶髪の女だ。そしてラーヴァは驚愕した。なんと双方右腕が無いのである!

「た……助けてくれ!この女に監禁されてたんだ!しかも今自分のフェイクにする為右腕まで……!」

「逆なの!サミュがされたの!あの後この人に後ろから薬を嗅がされて……起きたらここにいたの!」

「落ち着け!どっちも一旦落ち着け!」

「これが落ち着けるか!」 「サミュ悪くないの〜!」

「黙るのが遅かった方を焼く!」

「「!」」

 ……シーン……

辺りは静まり返る。

「お前らまず……銃を蹴っ飛ばして撃てないようにしろ。」

 二人は懐から銃を左手で取り出すとそれをラーヴァの方へ転がす。

 「頼む……。僕じゃ無いんだ……。」

「分かってるそれを証明するんだ。」

「さっきの記憶読む術使うのはどうなのね?」

「それをしようとして撃たれたからな……。しかし自分より冷静じゃない奴見ると冷静になるって本当なんだな、もう今ので大分頭もクールダウンしてきたよ……。」

 しばらく沈黙が続く。

 (くそ……今ので引っかかんないか……。相手も冷静だ……。確実なその瞬間を狙ってる……。記憶読まれるのが自分が先にしても後にしてもその方が至近距離だもんな……。それに不意打ちにもなるし……。どうしたものか……。)

 「み、右腕から血が止まらないんだ!とりあえず止血だけでも……。」

(あいつの性格からして……。……やるしか無いか!)

「おいお前ら。この組織のトップになってる不知火って奴どう思う?」

「立派な御方です。」「凄い人なのね!この惑星一の金持ち『エンウォン』さんよりもお金持ちなのね!」

「へぇ〜……金持ち……。そっか成程なぁ……。道理で。じゃあお前らAEA反地球同盟は金で買収されたって事か。」

「……!」

「この星の各地で皆苦しめられてたのに。不知火とかいうゲスに良いもんと特権与えられて尻尾振っちゃったんだ。しかし他所の惑星買って好き勝手しようなんて……つまんねえ成金趣味だ……」

「死ねええええ!!」もぞもぞ ばっ!

「お前がショットか!」

黒髪の男は左手を皮膚に突っ込む!どうやら今目に見えていた姿まで偽装だったようだ!真犯人は本物の肌と偽物の肌の間、うなじのあたりにもう一つ銃を隠し持っていた!

「焼き殺す!」ばっ

「ふんっ」がしっ

「嫌ああ!!」

 ショットは茶髪の女の髪を掴み自分の前に立てかける!戦いに関係の無い女の盾はラーヴァを牽制するのに十分だった!ラーヴァはショットの左の二の腕を少し炙るだけで攻撃を中断させられた!

「ぐっ……。」

「金髪の様にこの女に銃を渡さなかったのはこうする為だ!さあ選んで貰うぜ!自分か!女か!」

「女じゃないのね!サミュっていうのね!」

「黙れ。」

 ゴッ!

「え」がくっ

「はぁ!?」

 ショットは銃で茶髪の女の頭を叩き失神させた。

「私の不知火様の魅力は金なんかじゃねえんだよボケが。人生出直して来い。」

「何してる!?」

「まだ生きてるよ多分。人質の価値はあるだろ?」

「……。」

 お互い動かない状況が続いた。ラーヴァは軽蔑の表情を浮かべながらも話を振る。

「不知火は金だけじゃないって……何をされたんだ?」

「ん?聞きたい?私もさ。最初は気に食わなかったんだよ。不知火様の事。今にして思えば愚か極まりないんだけどね……。」

「父親の件で何かあったのか?」

「話が早いね。……正直言ってさ、私らのこの血継呪術、個人で戦うにはぶっちゃけ強くないでしょ?」

「……まあ確かにな。狙った部位に必ず当たるけど一発は対象が自分になる弾丸……運が悪けりゃ俺と赤眉にブチギレた最初の二発で自分の脳天撃ち抜いてたんだろ?」

「まあね。」

「そういや血継呪術って自然発生するものなのか?」

「いや。先祖の一人が一生かけて呪術に取り組んだ結果、汎用的な術から分化して進化したものらしいよ。だから初代はこの術を望んで生み出したってわけ。」

「……デメリットを負うほど強くなるとかそんなんか?」

「それもあるけど、命を軽んじる人だったんだろうね初代は。私の家系はさ、ここ北方大陸じゃ一番の暗殺一族だったのさ。」

「……!」

「さっき金髪を使った例から分かるようにこの術が最も効果を発揮するのは白兵戦では無く敵で無いと思われた人物を利用した不意打ち、暗殺さ。今まで銃を持った事の無い女子供でも引き金を引けば七分の六でターゲットを仕留められるからね。孤児や浮浪者等金に困った人間に話を持ちかけて、鉄砲玉として使い、場合によっちゃ七発全て使い切る様に指示してタダ働きさせる……。あっ弾薬代かかってるからタダではないか。ポポ!そんな事もしてたみたいさ。」

「糞みたいな一族だな。お前銃撃つの下手くそだなとさっき思ったが、そういう運営で儲けてたなら納得だが。」

「そうだね。仮に術を発動していなかったとしてもそれは相当高名な呪術師や聖術師でないと外からは分からない……。家で銃を持ったら即ち反乱の意があると判断されるからね。私達は銃以外での護身術を習ったよ。私の場合はナイフだね。んえっ」

 ショットはわざとらしく長い舌を出して自慢のナイフを見せびらかす。女の腕を切り落としたのもこれだろう。

「そんな家庭に育ったお前がどう不知火と繋がるんだ?」

「ああ、話を戻そうか。家では父さんは本当に変わり者だった。婿として来たわけでないのに私に愛情を沢山注いでくれて……終いには私を連れてあの家から脱出させてくれたんだよ。」

「今まで大人しく従ってたのに急に逃げ出したってのは相当お前が可愛くなってしまったんだろうな。」

「そうだね。優しい父さん……。」

「ただ……追手とか来なかったのか?」

「……父さんは追手との戦いで、自分の頭を撃ち抜いて植物状態になったよ。更に今までウチを贔屓にして敵を殺して回り成り上がった連中も後々から一族が怖くなったんだろうね。一族は誰でも使える新技術……符術で武装した人間に家ごと焼き払われ半壊、先に抜け出した私達はやっかみで尚更追われる身となったわけさ。AEA反地球同盟に入ったのは何が何でも金が欲しかったし力さえ有れば入れると聞いて私の能力が活かせる場だと思ったからさ。それで目立って昏倒した父さんが狙われた。……そんな時だった。あの御方が来たのは。」

「不知火か。」

「そう。不知火様は父と母の助けを得られなくなり精神的に疲弊しAEA反地球同盟を抜けようとしていた私に声をかけてくださった!」

 《……止めないで下さい!私には酒も女も必要ない……!》

 《みたいですね。では貴方は何が欲しいのでしょうか?ぼくに是非とも教えていただきたい……。貴方の力になりたいんです。》

 《意味がわからない……!私があなたに何してあげたっていうんですか!?》

 《何も。だからこそです。ぼくは皆さんと仲良くなりたいのですよ。》

 《じゃあ……治せるんですか?植物状態の私の父を。》

 《……ええ。約束しましょう。》

不知火様は私の父を植物状態から救ってくれた。そして私達に新たな家を与え更にパトロールの任務を与えさせ、父とその周辺を保護するのを仕事にさせてくれた……!それにこの七発一度に装填出来るこの銃を組織の標準装備にしてくれた。銃で個人が特定されにくくなるように……!」

「今の話で分かったろ?不知火様は本当に素晴らしい御方なんだ!そして不知火様に楯突くフリジットは悪魔なんだよ!」

「……分かったよ。」

「そうか。それなら降参しろ!楽に殺して」

「俺とお前は似ている。」

「……は?」 

ラーヴァは唐突に話を変えた。

 「お前が話している姿を見てそう思ったんだ。俺とお前は似ている。大好きな人の話をするのって楽しいよな。」

「ああ。」

「何となくお前の気持ちも分かったよ。お前における不知火は俺におけるフリジット先輩なんだ。」

 (自分を例にするなら先輩が先生を助けてくれたみたいなものか……そりゃ惚れ込むわな。)

「ただ父親に女あてがう感覚はちょっと理解できないけどな。」

「父さんはあの家に生まれて一度死にかけて母さんも死んでしまって……辛い事ばかりなんだ!幸せになるべきなんだ!父さんは母さんと愛し合っていた!父さんには愛し合える女が必要なんだよ!」

 (家の教育は成功してたみたいだな。充てがわれる女の気持ちなんか欠片も考えてねえ。命の価値観が常人とは違いすぎる……。)

「……。お前の立ち振舞はやっぱり不知火を意識してるのか?」

「ああそうだ!あのハ◯も不知火様から得たやり方で導いてやったのさ!」

 《僕はあいつと違って君を否定しない!どうせこの後死ぬ命だ!一緒にここで撃ってスカッとしてしまおう!》

 《ええ!?いやしかし殺人は……。》

 《こう見えて僕は結構不知火様のお気に入りなんだ!後で育毛剤の話もしといてあげるよ!》

 《そ……それなら……!》

「……ってな感じでさ!」

「ははっ 合ってた。取り敢えず人に報酬をちらつかせて相手の機嫌を取ろうとするとことかそっくりだ。」

「……!お前本当に……!」

「さてと……長話でもうだ。」

「本当か?せっかく弾丸を溶かせる程に温まった頭はすっかりクールダウンしてしまっている様だが。まあ良い、私達はお互い敬愛する人を愚弄しあった仲だ……。」

「「殺す。」」

 ばっ!

 ショットは女を盾にしつつラーヴァに銃を発砲する!銃口はあらぬ方向を向いているが彼の術の前ではそんな事は些細な問題だ!

「どうも今のてめえは腕を上げられないみたいだな!これで終わりだ!」

 弾丸はラーヴァのすっかり露出した頭蓋骨に迫る!

「……お前のおかげで成長できたよ。ありがとうな。」すっ

ラーヴァは二の腕を撃ち抜かれたはずの右腕を上げ頭を熱する!

 ジュッ!

「何!?」

 そして左手で遠隔の炎を出しショットに当てた!

 ジ ュ ア ア ア !

「痛った……。お前よく平然としてられたなこれ。そこは素直に凄いよ。」

 (ま……まさか私のやり方が!?)

「不思議に思ったんだ……相手も左腕を負傷してるのは変わらないのに何で腕を上げて撃てるんだろうって。それでお前をじっと観察して調べてみたんだよ。はは……まさか自分で傷口をいじるのが正解とはな……!」

 ラーヴァは気づいたのだ!ショットはウイッグを捨てて変装する際千切れた筋繊維を紐のように結んでいた事に!

「あ゙……あ゙あ゙……。」

 燃えるショットの頭。

「い゙ぐぎいいいっ!!」

 ショットは残りの弾丸を撃っていく!狙いは頭のままだ!

バンバンバン!

「何発撃っても効かな……」

 (いやまさかこいつの狙いは……!)

 バン ドシューン!

 通算五発目の弾丸はショットの頭を撃ち抜いた!ショットは頭を上に向け吹き出す血を大いにかぶる!

「ふい〜……鎮火鎮火……。」

「なっ……!?」

銃の訓練はしていないが撃たれた時の訓練はしていたようだ。延髄のある脳幹以外の部分を貫くようにショットは自ら弾丸に突っ込んだのだ!ラーヴァは遠隔の炎で再びショットを焼こうとする!

「ういっ」ぐいっ

「ちっ」

 ショットはラーヴァの炎が特定座標を指定して出すシステムで有る事に気が付いた様で女の頭を持っていって攻撃を邪魔する。そして女の服の中から弾薬を盗むと用済みと言わんばかりに女を押し飛ばした。

「リロード……!安心しな。延髄直撃回避これはそう何度も使える技じゃねえ……。即死しないだけで普通に出血で死ぬしな。ただ……不知火様の脅威たるてめえを殺さないと気が済まないだけだ。」

「そうか。来な。どこに来ても防ぎきってお前を殺してやる……!」

ラーヴァは防御を重視し遠隔の炎はまだ出さない。最後の狙いさえ分かれば後は消化試合だからだ。

「撃つ場所は……。ここに決めた!」ダンダンダン!

(来た!)

 ショットの狙いは……。変わらず頭だった!

「は……?」

 ラーヴァはもちろんそれを防ぐ。ショットは三発撃ち終えると力尽きた様に倒れ込む。もはや余力は残っていないようだ。

「……何の目的だ?今のは……。」

「……鉛。」

「へ……?」くらっ

 ラーヴァは目眩を覚える。

「鉛中毒……!液体になった鉛がお前を内側から蝕んでいるだろうよ……!ポポ……これで相討ちだ!」

 ショットは右足を振り上げる。右腕を失い荒治療で無理矢理動かしていた左腕も言う事を聞かなくなっていたショットなりのガッツポーズなのだろう。

 「畜……生……!」

 ラーヴァはその場に膝をつき倒れ込む。意識も段々と遠のいてきた。このまま気絶したら最後目覚めるのは地獄だろう。

 パリーン!

 「「!?」」

 ……そんな部屋の窓を割り入ってきたのは四人組の男女だった!

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