第22話:女だけの島

あれから二日経ち現在は六月七日。ラーヴァ達は船でバカンスを楽しんでいたところだった。

「うああああ!!また負けた〜……。」

「ラーヴァ君良くも悪くも勝負しすぎだよ!」

「だって四だぞ!?二と三以外勝てるんだぞ!?勝負するに決まってるだろ!」

「ではコインは没収しますね。」

「ああああ……くそっ あっ そうだ俺必勝法聞いたんだった!二倍ベット!こうしてればいつかは勝てる……はず!」

「ンマ〜バカなガキ!おうお前残りのコイン言ってみろや!あとその理論何回使えるんだいボクゥ?」

「ギャンブうるさい!見てろよ!ギャンブルしておきながら勝負の心を忘れたお前にな!この前みたいな圧倒的な逆転をだな……あ゙っ!」

「ではコインは没収しますね。」

「めっ メグメグ^~」

「ら、ラーヴァ君のために言うけど私のコインは貸してあげないからね!」

「うわあああ裏切り者ぉぉぉ!!」

 (ラーヴァ君はここでギャンブル断ちさせないとダメだ……。)

 対人のギャンブルをする二人。一方フリジットは符術師のファットと甲板で話をしていた。

「符術生成!『硝石・漬物ピクルスメイカー』!」

 巨大な符術札は形を変えガラスの漬物石になる!

「おお〜!岩型は大きくてやっぱり迫力あるな!」

「でしょ〜。しかもただの石じゃないよ〜。接している野菜のpHを電気の力で測ってるんだもの。食べ頃のpHになったかどうか確認可能なんだよ。」

「うおお……!浸かりすぎを防げるんだな!これなら漬物をあんまりやってこなかった人でも安心だな!」

「まあ僕はあの塩辛くなっちゃった奴も好きなんだけどね〜。」

「まあ薄いよりは濃いほうが良いよな!運動したあとなんかは特に!」

「ゔっ 特に悪意のない言葉がデブの僕に刺さる〜……。あっ 島が見えてきたね。皆さんが目指す島ってあれ〜?」

 ファットが指差す先にはゴツゴツとした岩肌が露出した大きな島だ。島の中心には二千メートル近い山脈が走っている。

「……いや。あれじゃ無いぞ!おれ達が目指すビニロン共和国は平地ばかりで山なんて殆ど無いからな!」

「……あんな島あったっけ?十年航海してるし昔ここらに来た事あるけど知らないなあ……。」

「確かに世界地図にもあんな島載ってないな……。あれ?というか……何か段々近付いてないか!?」

 ザ ザ ザ ザ ザ !

「明らかに横方向だけじゃなくて奥行方向にも動いてるね……。」

「符術生成!『氷像・眼鏡スィンアイススコープ』!」

 フリジットは硝子の島で拾った産業用符術札で氷の双眼鏡を作り島の詳細を確認する。

 よく見ると岩肌で蠢く物が見えた。しかしそれは人でも獣でも無い!岩……ひいては島そのものだ!岩は銃口の様な形になりこちら側を撃ち抜かんと標準を合わせ始めている。

「皆!!敵襲だ!!」

 フリジットは船内に響き渡る大声を出す。

「「「!?」」」

「敵……!?先輩の声だ!」

「もしかして海賊とか!?」

《戦っちゃ駄目だ!!》

「フリジットさん分かってないようですね!この船はギャンブに乗っ取られこそしましたが最新鋭で……」

《島が襲ってきている!!皆室内に逃げろ!!岩の砲丸が飛んでくるぞおおお!!》

「……え?島……?」

「まさか今度の地球人って……そんなデカブツなのかよ!」

 ド ガ ガ ガ ガ ガ ガ ガ ー ン !

 グ ラ グ ラ グ ラ ……

 ワァァァァ!!

「嫌だ〜!死にたくな〜い!」 「何だよもおお!」

 どうやら船の上部を撃ち抜かれたらしい。船は激しく揺れる!

「ンマ〜じかよ!一体どうすりゃ……。」

「あ!お前の呪術でこの船を所有物にすれば良いんじゃないか!?俺達と船長のとこ行くぞ!」

「お、おう!」

 ラーヴァ達が遊戯室から出ていく最中にも岩の砲丸が飛んできている!高度を少しずつ落としているのか今度は船の左側の壁面を削り取った様だ!

「うおああっ!」ぐらっ

「体幹弱すぎだろギャンブお前!」

「一緒に歩こっ!」

「悪い!助かるぜメグメグちゃん!」

 ラーヴァ達は操舵室に着いた。既に天井を打ち抜かれている。船長と操舵手はそれでも憶せず島からの逃亡を図っている。

「船長!船の保護の為ギャンブに再度船を渡してください!」

「くっ……仕方ないね!じゃんけんで良いね!?」

「あっ おう!」

「皆!!やっぱり甲板へ出てくれ〜!!敵がやり方を変えてきた!!」

「良かった!先輩無事だったんですね!」

「ラーヴァ君!皆を甲板へ避難させてくれ!敵が水平投射から斜方投射へ切り替えてきた!船内にいるとかえって避けられない!」

「はい!」

 ド ボ ボ ボ ボ ー ン !

 ザ ア ア ア ア ア ア ……

 船の全長を優に超す水しぶきが上がり船に降り注ぐ!もし岩の砲丸が一つでもまともに当たったなら沈没は避けられないだろう!

「ッッッ〜!」

「じゃんけんポン!ああまた負けた!」

「いや最初から何出すか言えばいいだろ馬鹿!皆さん上へ!上へ上がってくださ〜い!!」

「ポン!よし来た!血継呪術同意を以て不条理をドラッグダウンマイフィールド!船内保護開始ぃ!」

「おれが弾道を予測する!皆一箇所に集まるんだ!!」

 ブ ク ク ク ッ

 岩と土砂の砲丸が銃口に詰められる。

「来る!」

 ド シ ュ ー ン ! ヒ ュ ウ ウ ウ ……

「先輩!人を集めました!」

「ありがとう!皆もっと船の中心へ!!操舵手さん!もっと船を右へ!」

「まあオレの術に任せとけば大丈夫だと思うけどな!」

ド ゴ ゴ ゴ ゴ ! メ キ ャ メ キ ャ メ キ ャ メ キ ャ !

 船は左側を撃ち抜かれ底までえぐり抜かれる!

「オイ!絶対何じゃねえのかよ!運命すらも捻じ曲げるって……」

「知らねえ!オレだって自分の術が破られたのは初めてだ!今凄いアイデンティティを否定された気分になってる!」

「しょうがないよ……島そのものなんて規格外すぎるもの……!」

「まあ何にせよ人死が出なかったのはラッキーだったな!船長さんこの船は……。」

「一番近い島に向かってるよ!ただまだ遠いね!相手は数撃ちゃ当たるの精神で海にも攻撃をばら撒いてきてるし避難ボートをここで出すのは得策じゃないかな!この船もまだ上手いこと動力源は生きてるみたいだし!」

 船にいる者達はその船首の先を見据える。確かに島が見えてきているが到着には後数分ほどかかりそうだ!

「今までのペース的に後一回は食らいそうだな……!」

 ゴ リ ゴ リ ゴ リ ……

「何だよ今度は!」

「わわっ 不味いここは暗礁地帯だ〜!」

「「「!」」」

 船は暗礁のある地帯に来てしまったようだ!

「まじかよ……!乗り上げたらもう死ぬしか無いぞこれ!」

「いや……でも今のだけだ!意外とスルスル進むぞ!」

「はぁ……はぁ……あいつに破られても暗礁如きにやられるオレの術じゃないみたいだな!」

「さっきの岩の砲丸やあの島が動いたことによる地殻への影響で暗礁が壊されたりズレたりしてるのかもな!それも含めての運命操作か……!」

「ああ多分そうだ!そうに違いねえ!」

 ブ ク ク ク ッ

「最後の攻撃だ!」

 ド シ ュ ー ン !

「どうだい!?フリジットさん!」

「問題ないぞ!このペースなら全部船尾すら掠めず落ちる……」

「あっ」

 フリジットは視線を下にやった。彼の目には弧を描いて自分達へ向かって来る微小角度による斜方投射の砲丸が見えた!

「殆ど水平に来る!最後の最後で甲板と高さを合わせてきた!」

「なっ」 「ひいいい!」 「今からじゃ地下に逃げ切れない!?」

「ラーヴァ君!床を燃やし尽くすんだ!」

「! はいっ!船長も操舵手さんも降りてください!」

「破片で足が飛んだらすみません……!煌牙竜殺爆炎掌!狐火!!」

 ボ ッ ガ ー ン !

 ラーヴァは船の床を爆破し船員達を地下に避難させる!船長達もそこに飛び込んでいく!

「先輩!」

「ウオオオオ!!」

 フリジットは船尾から急いで走る!既にそのバックには岩の砲丸が迫っている!

(助けに行きたいが行って旋回して戻るじゃ先輩も俺も間に合わない!となれば……!)

「間に合え!炎賦ぅぅぅぅぅ!!」

 ボヒュッ

「!うおりゃあああ!!」

バ キ ャ バ キ ャ バ キ ャ ズザーッボ ビ ュ ウ ッ !

 フリジットは間一髪のところで床の穴へスライディングを決め生き延びた!岩の砲丸は船の甲板を抉り取っていく!ブリッジが折れ海に落ちていく音も聞こえてきた!

「はあっ……はあっ……。」

「先輩!良かった!」

「フリジットさん無事だったんだね!」

「船員に告ぐ!衝撃に備えよ!この船はもうじき島近辺の浅瀬に突っ込む!」

「「「!」」」

 ゴ リ ゴ リ ゴ リ ゴ リ ……

「うおおっ」

「でも大丈夫だな!こんな砂如きにお前の術は負けない……!」

「ああ!行けえこのまま突っ込めえ!」

 ゴ……リリ……

「止まった!」 「助かったのか!?」 「もう怖いの嫌だ〜……。」

「俺が顔を出します!」

 ラーヴァは床に開けた大穴から顔を出す。

「島だ……!」

 船は島に到着していた!

「はっ あいつは……。」

 他の島の破壊は避けたいと思っているのか島の怪物は視認できる距離にはいるが何も飛ばしてこない。ラーヴァ達は生き延びたのだ!

「皆!やったぜ!俺達助かったんだ!」

 ウオオオ!!

 船員達はラーヴァに連れられ皆島に上陸した。

「集合〜!一列に並び人数を数えろ!」

「1!」「2!」「3!」「4!」……

「二人共見て!さっきの砲丸……島に当たったみたい!」

「……えげつないな……。」

 島の地面は砲丸が通った所がそのままきれいにくり抜かれていた。砲丸は島の地面とその下のサンゴ礁を貫いた後海に落ちていったようだ。穴の出口まで海水が流入してきて噴水の様に辺りの砂浜へ水を注いでいる。

「あれだけ遠くからこれだけのスピードと質量を持った物を射出出来るって……一体どれだけのエネルギーを持ってるんだ!?」

「飛ばしていた岩もただの岩かどうか怪しいですね……。あんな勢いで突っ込んだら岩でも普通砕け散るんじゃ無いでしょうか……。」

「硬い竜鱗と一体化したものなのかもね!」

「……どうやって倒せば良いんでしょうね……これ……。」

「この島でおれ達はさらに強くならなくちゃな!」

「皆さん!人数確認が終わりました!」

 三人にマリオが話しかけてくる。

「皆無事だったか!?」

「はい!おかげさまで何とか!」

「良かったぞ!」

「そういえば船長、船長はこの島に見覚えあったりしますか……?」

「あるよ。低地が広がる広大な島……ここは東方諸島最大の島でビニロン共和国があった所さ!」

「おお!何だかんだ目的地に着いたんですね!」

「ならここの何処かにカーツァラッテ君も居るはずだね!」

「本当かメグメグ!よしよし一縷の望みが見えてきたな!」

「それならここは無人島じゃないな!現地の人達とも合流して話を聞きに行こう!」

 ざっざっ……

「おっ 早速現地の方か!?」

 ラーヴァ達の前に現れたのは珊瑚色の髪で短髪の人物だった。男物の半袖の服に海パンを着ている。しかし一方でその服は胸の辺りで盛り上がっており、男性とも女性とも判別できない見た目だ。

(これはビークさんタイプか……?)

「手前様方はこの島に流れ着いてしまったのでしょうか?」

 声を聞いてラーヴァ達はその人物が女性である事を確信した。

「そうだよ〜!」

「女性だったのか……!あの、よければ街へ案内してくれませんか?」

 女はしばらくラーヴァ達を何度か視線を往復させて見ていたが、笑みを浮かべラーヴァの願いに応えた。

「はい。ついてきて下さい!」

「ありがとうございます!皆行くぜ〜!」

「「「お〜!」」」

 ラーヴァ達は女に連れられ街へ向かう。

「あの船って何用ですか?」

「漁業用の船ですよ。この辺りは北方大陸から流れる寒流と中央大陸から流れる暖流がぶつかるところで色んな種類の魚が大量に獲れるのです。」

「はえ〜……。俺のいた西方諸島とは真反対に有るからいまいちここらへんの事知らなくて……。ありがとうございます。」

「いえいえ。」

「中央大陸出身の二人としてはどうですか?」 

「う〜ん……シルク帝国は中央大陸でも西側にあって東方諸島は凄く遠いから魚は貴重だったな〜!たまの贅沢で父さんが『引潮鯛』を買ってきてくれたんだ!」

「引潮鯛なんて名前なのに引潮の時に取れた個体は鮮度が悪くて美味しくないんだよね〜!あれって潮の流れに逆らおうとしちゃうせいで引潮の時打ち上げられるからって由来なんだっけ? 」

「その通りだ!でも潮の流れに逆らうだけの筋肉があってなおかつ筋肉の引き締めが良いからな!満潮の時に取れた個体はプリップリで美味しいんだ!」

「フリジットさんは焼く派?煮る派?私は煮る派!」

「煮るのも良いよな!でも俺は焼く派だ!塩焼きにすると涎が止まらないからな!」

「匂いだけで絶対美味しい奴だって分かっちゃうよね!そうだ!ここでのあれこれが済んだら私が調理するよ!」

「あの二人とも……あう……。」

 思いの外高速で話をするフリジットとメグメグについて行けないラーヴァ。

「それなら尾頭つきで頼むぞ!実は頭は食べた事が無くてな!挑戦してみたいんだ!」

「頭も美味しいのに!今まで食べた事無かったの!?……もしかして目が合うの怖かったり……?」

「昔はな……。母さんに代わりに食べてもらってたぞ……。」

「やだ可愛い……♡じゃあラーヴァ君も含めて二人で初体験だね♡腕によりをかけちゃうよ!」

 (ラーヴァ君!ラーヴァ君!)

 メグメグがツッコミ待ちと言わんばかりに視線を向けてくる。 

「えっ 俺?あっ 言い方考えろよメグメグ!」

「ごめんなさ〜い!あっ でもよく考えたらラーヴァ君私のご飯もう食べてくれないんだった……。」

「えっ!?ああそういえば……。」

「勿体ないなあ……凄く美味しいのになあ……。」

「栄養価も豊富なんだぞラーヴァ君!」

「いや自分で……魚を捌ける自信は無いな……。」

「そうだ現地で取れたのなら刺し身にしても良いよね!」

「刺し身……楽しみだぞ!」

「あああ!俺も食べる俺も食べる!でももう異物混入させるなよ!次やったらほんとに絶交だからな!」

「はいは〜い二名様御予約入りました〜!楽しみにしててね〜!」

「手前様。そのような話をここでするのはやめていただけないでしょうか。」

「えっ あっごめんなさい!」

「すまない!」

「そうだ何一つまだ解決してないんだった!すっかり頭が食の話題に乗っ取られてたぜ……!」

「いえ、手前も食べたくなってしまいますので……。」

「何だそんな事か!新規予約入りました!良いよ!一緒に食べよう〜!」

「あの……僕達も……。」 「オレにも食わせてくれ〜!」 「食べたいな〜食べたいな〜!」

「皆も!?大宴会になりそうだねこれは!」

 その場にいる全員がすっかり食の話題に夢中になっていた。たった一人ラーヴァを除いて。

(あれ?あんな怪物が近くにいるのに平然と漁業をやってるのか?それにさっきから……。)

 ラーヴァはすれ違う人々を眺める。女、女、女、女。先程から女としか会わない。何か奇妙だ。

「あの……もしかして今街とか村総出で漁に行ってる感じですか?何だか男性に会わないんですが……。」

「!」

 女はラーヴァを睨むように見下ろす。恐らく睨むつもりは無いのだろうが核心を突かれた為に笑顔を保つ事が出来なかったのであろう。

「いえ……。ですが事情があって男性の方はいません。」

(男性だけが狙われている……?)

「皆さん。街に着きました。」

ラーヴァ達は街に到着した。 

「ここまでありがとう!助かったぞ!」

「いえ、皆さんは当分一つの場所で匿おうと思っているので、そこまで手前に着いてきて頂きたいです。」

「そうなのか!分かったぞ!それにしても何だか面白いなここは!石の柱が大量に生えてるぞ!」

「それに黒い線で繋がれてますね!」

「そうだなマリオ君!何に使ってるんだろうな?」

「あっ 鳥さんが止まったよ!可愛い〜♡」

「鳥さんの休憩スペースなのか?風情があって良いな!」

 男は新鮮なのだろうか。街の景観を楽しむフリジット達の周りには自然と島の女達が集まってくる。

「船乗りさんかな?精悍な人が多くていいわ〜♡」

「彼らをここまで生かしてくれた神に感謝〜♡」

「何ヶ月持つかな……?」

(やっぱり女性しかいない……しかも全員短髪で半袖ズボンだ!皆同じ服装なのは少年自警団みたいだ……。あの怪物……推定地球人に何かされた後なのか?それに……何だか言動がおかしい……。)

「あの赤髪の子私好みだなあ♡後で融通きかせてもらおっ♡」

「ッッッ!」

 ラーヴァは一人の女の発言に嫌悪感を煽られ、その女へつい反射的に自身の思いを表情で吐露した。

「わっ!気づかれてるよ!イケるんじゃない?」

「小さめだから気付かなかったけど同い年位かな?反抗的な表情……これはいけませんな〜はやく食べてあげなきゃぶへへへへ……。」

《だって皆可愛いんだもの♡僕が食べてやらないと勿体ないじゃあないかあ♡》 

「〜ッ!!」

 まるで電車で痴漢された時の様だ。自身に向けられるどす黒い劣情への嫌悪と恐怖が頭を真っ白にしてかえって何も声が出なくなってしまう。それに加えラーヴァは女の言葉によって凄惨たる過去を思い出さずにはいられなかった。

 すっ

「ひっ」

 ラーヴァに優しく触れる手が二つ。フリジットとメグメグのものだ。

「あっ……ああっ 二人共……。」

「ラーヴァ君顔色悪いぞ!大丈夫か!?」

「私が言えた事じゃ無いけど皆中々に欲求不満みたいだね……。でも安心して!私達がついてるよラーヴァ君!」

「……ああ!」

 何とか平静を取り戻したラーヴァ。そんな時先頭にいた女が止まった。目的地に着いた様だ。

「こちらはかつて使われていた議事堂です。ここにあの怪物……『島竜 小鳥遊 孤高亜たかなし ここあ』から逃げ延びた方々の避難所を作っています。どうぞお入りください。ですが……。」

「?」

「お姉さんはここに行かずとも我々の中に紛れていれば大丈夫でしょう。男性ばかりの避難所に女性が一人居るというのもお互い気苦労が大きいでしょうから、お姉さんはここに残ってください。」

「「!」」

「そうはいかないよ!私はこの二人と一緒に三人で旅してるの!地球人から皆を解放するための旅をね!私だけ別だと作戦会議できないでしょ!だからお願い!私も入らせて!」

「……分かりました。行きましょうか。」

 かつかつ……

「そういえば共和国って王様がいないんですか?先輩!」

「ああいないぞ!基本的に国民による投票等で選ばれた大統領っていう優れた人が元首になるからな!」

「駄目な王のせいで国が駄目になる……みたいなのが起きにくい仕様なんですね!」

「そういう事だな!」

「まあ大統領は既に小鳥遊によって殺害されてしまいましたが……。」

「……すまないぞ。配慮が足りなかった……。」

「いえ、大丈夫です。皆さんが私達を助けて下さるのですよね?」

「ああ!」 「任せてくれ!」 「勿論だよ!」

「なあオイ、一つ質問いいか?古傷を抉るようで申し訳ないんだがよ。」

「何ですか?手前に答えられる事でしたら何でも……」

 ギャンブが女に質問する。

「大統領って男だったか?」

「「「!」」」

「……はい。男性でしたね。」

「ンマ〜さか……だけどよ……オレ達の行き先って……」

「彼女に殺されない為に匿うのです!私達は彼女に従っている訳ではないですから安心してください!」

「お、おう……。」

「む、着きましたね。この一本道の先に避難所が有ります。」

 女に案内された道は狭く、一人ずつしか入れなかった。長い一本道はラーヴァ、フリジットそして多数の船員達で埋まりマリオを含む二人の船員とメグメグは入ることが出来なかった。

「……?私達は入れないのかな?奥でつっかえてる?」

「うんっ!荷物検査が有るからねっ!」

「「「!」」」

 背後から別の女達が現れた。

「そうなんですね。とても厳重ですね……。」

「危険な物を持ち込まれたら困りますからね〜。」

 じり……じり……

「タダでの居候は辛く思います!我々はここで何か手伝える仕事は有りますでしょうか!」

「あるのです!この後早速仕事して貰うのです!」

 じり……じり……

「仕事ってさ……それ要するに……。」

 バシュッ!

 女達がナイフと妙な短い棒を手に襲いかかってきた!

「あわわっ」

「二人共下がって!」

 メグメグはその両手で三人の内二人の女を掴み生命力を吸い上げる。

「ふあっ!?」 「まずい……のです……」

 どさどさっ

「後一人!」

「二人共御苦労さんっ!これで決まりだねっ!」どかっ

 最後の一人がメグメグに飛びつく。

「ナイフじゃ私は殺せないよ!」

「だろうねっ!」カチッ

 バリバリバリバリ!

「んえっ!?」

 最後の一人が突き付けてきたのはナイフでなく短い棒の方だった。先端に取り付けられた電極の間からは電気が流れる。これはいわゆるスタンガンだ!

「う……」がくっ

 メグメグはその場で膝をつく。

「あっ……ああっ」 「なぜ故こんな事を……!」

「それにしても今回は豊作だねっ!一列じゃ収まりきらない位オスがいるんだからさっ!」

「さ……させないよ!」

 しかし彼女は全身の麻痺を治し立ち上がってくる!

「う〜ん……君は面倒臭いなっ!」

 二人の戦いが始まった。一方後ろで起こっている事など露知らずラーヴァ達は一列に並んで待っていた。既に半裸になり皆バスケットに服や荷物を入れ、それを持っている。

「次の方どうぞ〜!」

「ンジャ〜お先に!」ガチャッ

 バタン!

「次は俺達ですね先輩!」

「……そうだな!」

「先輩?何か悩んでますか?……やっぱり島の男性の事ですか?……恐らく殺されてますよね、これ……。」

「……だろうな。今度の地球人もとんでもない悪党だ。その件もそうなんだが……。」

「?」

「おれの符術札ってもしかして全部没収になるのかな……と思ってな。」

「ああそうか確かに……!さっきあの人が荷物検査だって言ってましたもんね。取りあえず一旦言う通りにして、後からあいつを倒す為に返してもらいましょうか。流石にすぐ捨てるなんてしないでしょうし!」

「そうだな!」

「次の方どうぞ〜!」

「行ってくるぞ!」ガチャッ

「はい!」

 バタン!

「じゃあ荷物検査をお願……」

「眠っちゃえ!」

「!?」がしっ

 バチチチチ

 フリジットは反射的に荷物を離しスタンガン片手に突っ込んでくる女の手首を掴む。

「電気!?何をしているんだ!?」

「うそっ 今の避ける!?」

 フリジットは女の手首を離し距離を取る。彼は部屋の奥の隅に気絶させられている船員達の姿を見た!

「何が狙いかは分からないが……敵ってことで良いのか!?」

「くそっ 黙れ!大人しく奴隷になりやがれ!」

「うおっ」さっ

 フリジットは突っ込んでくる女を避ける。一人が勢い余って壊したドアの先にはさらなる部屋が広がっていた。

「あ……あ……」 「逃げて……」

 そこには衰弱した全裸の男性が首輪に繋がれていた!

「……!まさか……男性が島からいなくなったから……!?」

「ぺゃっ 何今更!内心期待しててここまで来たんでしょ?大人しく捕まってよ!」

バゴーン!

「「「!?」」」 「ラーヴァ君!」

「お前先輩に何をしたあああ!!」

 ラーヴァは扉を爆発させ女達を次々殴り倒す!

「やりすぎだろ!やめろよ少年!」

「何がやりすぎだ!?先輩も俺もお前らも!こいつらに一生使い潰されるところだったんだぞ!?言ってる場合じゃないだろうが!」

「符術解放!『冷却・放出コールドウェーブ』!」

 ヒョガッ パキパキパキパキ……

「わあっ!?」 「何これ!?」

 フリジットは女達の足を凍らせる。

「ふぅ……これで取り敢えずは安全だな!」

「何があったっ!?」 「捕えろ!危険だー!」 「最初から狙ってたのかコンニャロメ!」

 後ろの方でメグメグ達と戦っていた女も船員達に捕らえられた様だ。

「後ろからも!?……まさか街ぐるみでこんな事してるとは……たまったもんじゃないですね先輩!」

「ああ!……よしっ これでもう自由だぞ!」

「助かりました……」 「全身が痛くて歩けない……。」

「取りあえずこれを羽織っていてくれ!おれ達で支える!ゆっくり行こう!」

 ラーヴァ達は気絶した船員達や衰弱した男性達を運んで議事堂の外に向かう。

「メグメグ!後ろの二人をありがとうな!」

「うん!前の皆は大丈夫だった!?」

「大丈夫だ!そうだ!この人達の治療をお願い出来ないか?」

「うん!」

 メグメグは衰弱した男性達の治療を開始する。

「とはいえ今ので島民を敵に回してしまったな……。この先どうしたものか……。」

「まあ最悪この議事堂を本当に避難所にして立て籠もりましょう!」

 フリジットを励ますラーヴァ。

「それは出来ないわ。オスどもあなた達はここで死ぬもの。」

 ……それに応えたのは聞いたことの無い、凍る様な女の声だった。

「「!!」」ばっ!

 議事堂の出入口にいたラーヴァとフリジットはすぐさまバックステップで距離を取る。

 メリメリメリ ボ ゴ ー ン !

「いちいち壊さねえと何もできねえのかよデカブツが!」

 出入り口を豪快に破壊し広げたのは先程の声の主かと思われる生物だ。岩の蟻という表現が最もしっくりくるその生物は体長十メートルを優に超えている。蟻との最大の違いは触覚の代わりに竜らしい禍々しい上曲がりの角がついている事位だ。

「作戦の為にわざとやったのよ。私はやり場のない破壊衝動を抱えるオス欠陥生物とは違うんだから。」

「ジャニエルのところの小型ドラゴンとはまた違うみたいだな!」

「分身体ですらこのデカさかよ……!」

「劣等殲滅。死に絶えろオス女性の下位互換ども。」

 小鳥遊は岩の健脚で床を踏み抜きながら迫ってくる!

「炎天旋回螺旋斬!」

 ガキィン!

「硬い!全く刃が通らない!」

 ラーヴァは弾かれ空中に飛ばされる!

「私の体は岩に微生物ドラゴンハートが練り混ぜられた物。通常の岩そして通常の龍鱗よりも遥かに硬度が上。」

「まだまだ!前方豪炎噴!狐火!」

 ラーヴァは彼女の腹部を目がけ空中で彼女の方向を向いた瞬間に炎の攻撃を仕掛ける!

「ハアアアア!!」

 ボ ヒ ュ ウ ウ ウ ! ジュウウ……

「まあまあ熱いわね。溶けないけど。」

「くそったれがーっ!」 

「そのオスらしい醜い吠え面晒して死に絶えろ。『凝酸ギサン』。」

「ここだ!符術解放!『凍結・放射コントラクトブリザード』!!」ビュオオオオ!

 腹の先から酸を噴出しようとする小鳥遊にフリジットは強烈な冷気を浴びせる!

「竜の弱点の冷気なら……!」

 シュウウウウ……

「ちっ……女性の尻に触れるなクソオス性犯罪者が。」

「なっ 先輩の一撃でも仕留めきれない!?」

 酸の放出は止められたが至近距離からの一撃でも致命傷を与える事は出来なかった!

 (岩が練り込まれているせいで微生物ドラゴンハートへの冷気が一部阻害されているのか!?)

「構わない!ラーヴァ君!殴り込むぞ!」

「はいっ!もう一回!炎天旋回螺旋斬だ!」

「させるわけ無いでしょ。」

 小鳥遊は体の向きを曲げラーヴァの斬撃を回避しようとする。

「ウオオッ!」ドンッ!

 フリジットはその巨体でタックルを仕掛けそれを止めようとする!

 ぐぐぐ……

「唯一の取り柄である力でも負け……オスあなた達がゴミである証明が済んだわね。哀れ。」

(力だけならこの前の西園寺さんより上だ!止め……きれな……。)

 バチーン!

「ぐあああっ!」

 フリジットは弾き飛ばされ壁に激突する!

「うおおおお!!」

「思ったより速いわね。」

 しかし体の向きを戻しきれなかった小鳥遊にラーヴァの斬撃が届く!

「き……切れる!」

「一度熱してから急冷する事で分子の密度が違う所を作ったんだ!それにより硬い龍鱗が割れて脆弱になる!」

「流石先輩!このまま……!いけええええ!!」

ズ バ ン !

 ラーヴァは彼女の腹部を切断した!

「長時間の活動は不可能になったわね。まあオスども不快害虫潰して遊びますか。」

「何だよまだ……!」

 腹を失った状態でも小鳥遊はすぐには死なない!そのまま彼女は船員達や衰弱した怪我人のいるところへ向かっていく! 

「させるか!ロケットアーム!」ボヒュン!

 かぷっ

「なっ」

 小鳥遊は口でフリジットのロケットアームを止めてみせた!

「返すわ。機械なのに汗臭いし。」ぷっ

 ド シ ュ ウ ッ !

「がっ」

 フリジットはロケットアームを自身の胸部に返された!ミアの鎧が攻撃を防いだものの内臓への衝撃は免れない!

「先輩っ!」

「まずは島民達を誘惑したオス二匹邪悪性器生物から殺すわ。」

「うわあ!」 「僕らが誘ったわけじゃ……。」

「……ってあれ?議事堂に入ったらしい女性がいない……。」

 ド ス ッ !

 メグメグは狩りをする様に高く跳ね上がり彼女の欠損部位の断面を手刀で突き刺す!

「生命力は貰うよ!」

「そんなとこに居たのね。貴方は野蛮で未熟で劣ったアホのオスども女性のなり損ないに騙されてるの。私は女性である貴方の味方。こんな事はやめて。」

「何さそれ……」キュウウ……

「ゔゔっ゙!?」

 メグメグは右手を口元にあてる。嘔吐する直前の様な苦悶の表情を浮かべている。

「どうしたメグメグ!?」

「生命力が多すぎる……今の私では……吸いきれない……。」

(嘘だろ……?エネルギー補給に重要な蟻の腹部を斬り落としたんだぞ!?)

「違う。それは同胞を傷つける事への拒否反応。貴方は選ばれしここの住民になるの。」

「ラーヴァ君お願い!私を切って切って切りまくって!」

「!」

「生命力を消費しないと……吸えない!もう体が受け付ないの!」

「おう!」

 ラーヴァはメグメグの背後に飛び立ち彼女を斬りつける!

「何でこんな事するのさ!」キュウウウウ……

「何で?簡単よ私の目的の為。」

「この地平線からあらゆる差別と男性を一掃する。それが私の目的であり、ここが私の考えた理想郷ユートピアなのよ。」

「意味……分かんないよ!もういい倒れてよ!」キュウウウウン……

「……まあ良いわ。また後で会いましょう。」ふらっ

 ド ズ ウ ウ ウ ン ……

「やっ……やっと倒れた!」

「ラーヴァ君ありがとう!」

「おう!……先輩お体は!?」

「ちょっと腎臓を痛めたみたいだ。メグメグさんに治療して欲しいぞ……。」

「うん!ちょっと待って!」だっ

「くそ……これからどうすれば……。」

「言ったでしょ。三歩歩くと何でも忘れるオスお馬鹿さん。」

「「「オスどもあなた達はここで死ぬって。」」」

「……え?」 「あ……ああ……」 「終わりだ……」

 入り口を派手に広げられてしまった議事堂。ラーヴァ達が見たものは青い空でも透き通る海でも島民達でも無い。

 ――陸海空を埋め尽くす小鳥遊という名の侵略的外来種ちきゅうじんの大群であった。

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