第21話:不正 対 不正

「これより自給自足じゃんけんのルールを解説する!ルール①:じゃんけんにはこの札を使い、一度じゃんけんに使ったらその札は処分する。」

 ギャンブはそう言ってグー、チョキ、パーが描かれた三枚の札を見せる。

「ルール②:ゲーム開始時点で持っている札はそれぞれ一枚ずつ。」

「……?それだと三回で勝負が決するぞ?」

「ンマ〜最後まで人の話の聞けねえガキだこと。ここからがだ!ルール③:一度のじゃんけんが終わる度に上の部屋にいる相棒がカードを一枚補給できる。取りあえずお前らついてこい。」

「あ、待って!この子も連れて行っていい?」

 メグメグが案内してくれた船員の手を握る。

「ああいいぜ。一人にすると何か仕込まれそうってんだろ?」

 ギャンブに四人は連れられ、遊戯室の上の部屋へ行った。

「ここからはじゃんけんそのものをしている様子は見えなくなっている。また防音設備も万全でこの部屋からした音、そして他の部屋からの音はここには一切聞こえない。」

「試していいか?」 「どーぞ。」

 ラーヴァはドアを開け下の階へ降りた。部屋に残った三人は耳を済ますが外からは何も聞こえてこない。心音ばかりが響いている。一分ほどして彼は帰ってきた。

「皆どうだった?」

「ラーヴァ君下の部屋で叫んでたのか?」

「はい。」

「防音設備は確かに完璧みたいだね!」

「話を続けるぞ。ルール④:じゃんけんに勝った際の出目によって進める分が異なり、グーなら2、チョキなら5、パーなら3進むことができる。ここから見える海兵の人形がゴールに着く……すなわち10進んだら勝ちだ。」

「チョキは強いけどその分相手も警戒してくるって事か!」

「そうだな。だが進む数が違うというのは最後のルール⑤にも関わってくる。お前ら見下ろしてみろ。海兵の人形は何個見える?」

「あれ?下だと二つあったのに一つしか見えない。」

「ルール⑤:相棒から見えるのは敵チームの進行度そして進行する時だけ。これが一番大事だな。」

「味方チームが勝った時とあいこの時は動きが無いから判別不可能なのか!」

「そして負けた時は進んだ数で相手と下にいるじゃんけん担当が何を使ったか分かる……と。」

「そういう事だな!お前らにはじゃんけん担当とその相棒、そしてオレの相棒を決める権利をやる!それからもう一つの相棒がいる部屋もここと全く同じ構造だが……くまなく調べてもらっていいぞ!その上で左右どちら側を選んでもいい!そうだ今お試しでグーの札を一枚ここから落とす!誰か下に行ってじゃんけん担当の席にある排出口に落ちてくるのを確認するといい!」

 そう言ってギャンブはグーの札を一枚落とした。

白札マスタータブレットを操作して符術反応が無いか調べてみるぞ!」

「ありがとうございます!二人共!敵方の相棒は勿論彼で良いよな?」

「ああ!食堂から『マリオ』君はずっと俺と一緒にいたからな!一番安全な筈だ!」

「一応荷物検査するねマリオ君!」

 メグメグは彼が何か隠し持っていないかよく触り、よく聞いて確かめる。

(食道の中に仕込まれてる……とかは無さそうだね。) 

「ひゃっ……ひゃああ……。」

「メグメグいつまで腹に耳当ててんだ!触診の仕方もうちょっと考えろ!」

「ん……ごめんごめん!もう今ので終わりだよ!ちょっとセクハラだったかな?ごめんね。」

「ああ……いゃ……あの……大丈夫です……。」

「オレの嫁だぞ!いちゃついてんじゃねえぞンマ〜リオ!海に沈めるぞ!」

「お前の嫁じゃねえよメグメグは!てか海に沈められるのか!?」

「ああ。海に沈めてもオレの物だから死なずに帰ってくるけどな。一度やりゃあ皆素直になるぜ?なぁマリオ!」 「ううっ……。」

「酷い……。」

(そりゃ皆限界だよな……こんな奴。)

「どちらの部屋にも符術は仕込まれてなかったぞ!下の部屋も調べてくる!」

「お願いします!俺達も下に降りますね!」

「私はギャンブさんを見張っておくよ!」

「ンマ〜情熱的な視線!嬉しいぜ!でも俺も下に降りるから安心しな。」

 カツンカツン……

「そういえば反対側にはこの階段付いてないのか?」

「ンマ〜な。反対側の階段から第三者が来る可能性を排除する為だ。安心安全だろ?」

 下の遊戯室では船員達が酒やおつまみを持ってきて観戦の準備をしている。

(最初は俺達を歓迎している様に見えた笑顔も今見ると獣が獲物を見定めている様に感じるな……。)

「確かに落ちてきてるのはグーの札だね!悪用されないように私が回収しておくね!」

「頼むぞメグメグ!」

「船員全員の調査が終わったぞ!この部屋に取り付けられた冷房用の符術札とファットさん以外からは符術札の反応は無かった!」

「ファットさん一応あなたの手持ちの符術札を皆が見える場所へ置いてくれませんか?」

「はい いいよ。」

 ファットは全ての符術札を置いた。

「さてこれでルール説明と準備は十分だな?そちらのじゃんけん担当とその相棒が決まり次第勝負を始めるぜ!」

 三人はマリオを中心に挟んで会議をする。

「じゃんけん担当はラーヴァ君。任せられるか?」

「はい。俺のせいで始まった勝負です!俺に終止符を打たせてください!」

「相棒なんだけどさ、ラーヴァ君はフリジットさんが良いかもしれないけど……私にしてくれないかな?私も絶対負けたくないからさ!」

「分かった。頼むぞメグメグ!」

「おれは下で怪しい動きが無いか監視してるぞ!二人共頑張ってくれ!」

「決まったな?」

「ああ!勝負を始めるぞ!」

 ウオオオオッ!

 ラーヴァとギャンブは席に着き、メグメグは階段がある方の部屋を取った。二人はガラスの板で仕切られているが穴がいくつか空いており、二人の間で会話をする事は可能な様だ。今、勝負が始まる!

 【第一ターン

 ラーヴァ:0p 手札グー、チョキ、パー

 ギャンブ:0p 手札グー、チョキ、パー】

 「ンマ〜最初はただのじゃんけんだ。気ぃ抜いてこうぜ。」

「おう。ここで時間使ってもしょうがないしどんどんいくか。」

(今の所周りの人達は酒を飲んでいるだけ……怪しい動きは無いな。)

「上はここから見えないけど周りの船員達は見えるんだな。」

「ンマ〜な。困ったら周りの声を聞いてみるのも良いかもな?」

「全員お前の味方だろ。誰が聞くか!」

(とはいえ先輩の様子が確認できるのは良いな。)

 ラーヴァはフリジットの方を見る。彼はオーケーのサインを出している。

「手札は決めたぜ。」

「じゃあいくぜ?」

「「最初はグー!じゃんけんポン!」」

 【ラーヴァ:グーVSグー:ギャンブ】

 ウオオオオッ!

「……あいこか。」

「使ったカードは辺りにでも投げ捨てとけ。」

「おう。」

「それからあいこだった時は人形を動かさず一応顔だけ見せに行くぞ。それが上の二人への合図になる。」

「……お前が使った札が分かるようなハンドサインを使う可能性は?」

「じゃあお前が二人に顔を出せ。お前にそんな芸を仕込む時間は無かった筈だからな。」

 ジャキッ

 船員の一人が銃を向ける。手をグーにするなど分かりやすい仕草をしたら撃ち抜かれてしまうだろう。

「……良いだろう。俺が二人に顔を出す。」

 ――上の部屋――

 メグメグは目を閉じていた。海兵の人形には一切関心を寄せては居なかった。

(ふうん……グーであいこね……。)

 彼女は左耳を地面の方へ傾けていた。耳を澄ましているのである!

「ギャンブさんは私を狸と言ってくれたけど……私狐なんだよね〜!ふふっ!」

 狐はイヌ科の動物であり、他のイヌ科の動物同様嗅覚と聴覚に優れる。しかし彼らはそのイヌ科の中でもさらに聴覚が優れているのである!特に彼らの持つ立体聴力は凄まじく雪や砂の中を移動する獲物の出す僅かな音を決して逃さないのだ!

(人間基準の防音じゃ私の耳栓にはならないよ!)

《う〜ん……ここはグーかな?》

(マリオ君の声も私には聞こえちゃってるし!)

 メグメグはグーの札を投入口に入れた。ラーヴァ達に新たな札が供給された。

「そこの排出口の蓋を開けな。もうそろそろ札が来てるはずだ。防音の為に札を取ったらすぐに塞ぐようにな。」

「おう。くそっ……三分の一を外したか!」

「ンマ〜運が無いねえオレと違って!」

「くそが……。」

 ラーヴァの手元に来たのはパーの手札だ!

 【第二ターン

 ラーヴァ:0p 手札チョキ、パー、パー

 ギャンブ:0p 手札グー、チョキ、パー】

(相手はほぼ間違いなくチョキを出してくる!チョキを出せば負けようが無いからだ!そして何よりチョキは5点!一発決めれば一気に優位に立てる!)

「オレはグーを出すぜ?お前がここでチョキを出したくなる気持ちは分かるからな〜!」

「意味の無い揺さぶりはやめろよ!いくぞ!」

 「「最初はグー!じゃんけんポン!」」

 【ラーヴァ:チョキVSチョキ:ギャンブ】

 ウオオオオッ!

「またあいこか……。」

「三分の一、今度は当たると良いな?」

「黙れ……!」

 ――上の部屋――

「……?パー?私グー入れたんだけどな……。この部屋絶妙に暗いんだよね〜……。見間違いかな……?」

 ぱんぱん!

 メグメグは自身の頬を叩く。

(ぼーっとしてちゃだめ!狐の耳に人の目!私はいいとこ取り何だから、しっかり見ないと!)

《あいこ〜?それとも勝ち?え〜と……パーで!》

(ならチョキで!)

 新たな札が供給された。

「そろそろ開くか。」

(頼む……頼むぞメグメグ……!)

ラーヴァ達排出口から札を取った。

「くそがあああ!!」

「当てちゃったね♡三分の一♡」

 「おい!そっちもまた三分の一当ててるのかよ!しかもラッキーな方の!」

「オレはマリオ君と一心同体みたいだな〜♪」

「ならマリオさんと結婚しろよボケカス……いや、それはマリオさん可哀想か……。やっぱ何でもねえ。」

「ほざけ小僧!いくらオレをけなしても状況は変わんねえぞ!」

 【第三ターン

 ラーヴァ:0p 手札パー、パー、パー

 ギャンブ:0p 手札グー、チョキ、パー】

「小僧〜?もう勝負していいか〜?どうせ出す札決まってんじゃ〜ん?」

「あの……グーを出してくれませんか?後で靴でも何でも舐めますから……!」ガリガリ

「ンマ〜小汚いガキ!じゃあ一発ギャグ言ってみろ。面白かったらグーにしてやる。」

 無理強いされるラーヴァ。勿論彼もグーを出してくれるとは露程も思ってはいない。

(((間違いない……!不正を受けている……!)))

(あいこ二連続で状況が読めないとはいえパーを二回出すのが最適解になるのはラーヴァ君が二回ともパーを出した時だけ……それに同じ物を二回連続で出すのは今回の様なリスクがある!そして何よりメグメグさんは中央大陸であの猛吹雪の中からラーヴァ君が落ちた穴を見つけた耳の持ち主!恐らく自信満々で相棒に立候補したのも音が聞き取れていたからなはず!そんな彼女がこんな事をするはずが無い!)

「地面か……!?」

 少なくとも自身の周りに怪しい者はいない。フリジットは遊戯室の下を漁ってみる事にした。一方ラーヴァは少し黙っていたが

「あ!あれがあったか!」

 と一言言ったあと遂に一発ギャグを開始する。

「じゃあ俺の幼馴染がやってた鉄板ギャグいきま〜す!」ガリガリ

「はいどうぞ〜!」

「あ〜この世界嫌な物多すぎるよ〜!特にあのイカ!臭いったらない!でもいちいち噛みついてたら生きてけない!ハイ スルーする!スルーする!スルメ〜イカを〜スルーする〜!!」ガリガリ

 ……シーン……

「は?つまんな。」

「今のネタは『する』が三つもかかった高度なダジャレでして……。」ガリガリ

「いやつまんねえもん解説されてもつまんねえから。ハイアウト〜!」

「あっ 待ってください!まだネタがあってですね……。」ガリガリ

「もう良いよ。お前の地元の笑いのセンス低いのは伝わったから。」

「いやそんな事……」ガリガリ

「てかさっきからお前こっちから見えない机の下で何してる?何かいじってんのか?おい誰か確認しろ!」

 船員の一人に確認される。

「あ!待って見ないで!今尻掻きむしってるから!」ガリガリ

「うわあ!この子札を爪で削ってます!パーをグーにしようとしてます!」

「撃て!」

 パァン!

「うおっ 悪いやめるよ!」

「時間はやらねえいくぞ!」

「「最初はグー!ジャンケンポン!」」

 【ラーヴァ:パーVSチョキ:ギャンブ

 ギャンブ5p獲得!】

 ざわざわ……ざわざわ……

「ああっ くそお!」

「へへっ 最短で後一ターンだな!小僧!」

「不正だ!絶対不正してるぞお前!」

「ンマ〜お前もさっきしてたやろがい!お互い様だぜ?暴かれなきゃ不正にならねえのよお!」

 ざっざっ

「「!」」

 フリジットが地下から帰ってきた。

「せ……先輩……。」

 フリジットは辺りをうろちょろして何とか不正を探そうと躍起になっている。ラーヴァの希望を摘まない為直接無かったとは言わない彼だがその様子から地下には何も無かった事をラーヴァは察してしまった。

「そ……そうだ!先輩!ギャンブの机周りを確認してください!」

「ああ!調べさせてもらうぞ!」

「はいどーぞ。」

 数分間フリジットは調べていたが机に何か仕込んだ形跡は無かった様だ。ギャンブがいる仕切りの中には何も不正できそうな物は無い。

「おう、どうした言ってやれよ。」

「……すまないラーヴァ君!ここでは不正はされて無いみたいだ……!」 

「あ……あああ……。」

 ――上の部屋――

(不味い……間違いない!私達不正されてる!このまま新しい札を投入したら……間違いなく決着がついちゃう!そして何より不可解なのが……私達側の札だけじゃなくマリオ君側の札もいじられている事!彼はさっきパーを出していたのに実際に出たのはチョキになっていた!)

《全然読めない!全く動かないよ!?》

(マリオ君は関わってなさそうだし……。ちょっと試してみようかな……。)ぷしっ

 メグメグは自身の右手に傷を付け投入口に腕を突っ込み多量の血を流す。投入口は横についていて後から下に折れ曲がる形なので視認できない為だ。

(血の勢いで蓋が開くはず……!)

 《うわっ!なにこれ気持ち悪っ!?》

「!」

 下から響いてきた声は明らかにラーヴァでもギャンブでも無い声だ。

(やっぱり……!相棒って……嘘じゃん!はなから私達勝負に関わらせてもらってない!ただのお飾りなんだ!)

「こうなったら……!」しゅるるるる……

 頭の先を無理矢理ねじ込んだ状態でメグメグはどんどん若返っていく。十歳、七歳、四歳……次第に足が床から離れる。腕の力も弱くなり投入口を掴んでいるのも大変になった。一歳程の大きさになった事でようやく投入口に体を通せるようになった。

(頑張れ私〜!)

 ぐりぐりと全身を捻じるように前進し彼女はやっとの思いで体を投入口に入れる事に成功した。はだけた重い服も一応引きずりながら連れて行く事にした。下から空気が流れる音がする。彼女は飛び降りる前に一旦覗いてみる。

「!」

 確かに投入口はラーヴァ達のいる排出口に繋がっていた。しかし途中で横に作られた穴から手を出している人がいる!

(私達の札を回収して後から自分達の思い通りの札を仕込むってわけね……!)

《全然落ちてこないな〜……。蒸し暑いよなここ。もう何時間もいて気が狂う〜!》

《ばっか 喋んな!今穴開けてんだから音漏れするだろ!》

《聞こえねえよ。この管には防音材が仕込んであるんだ。》

(聞こえてるよ!)

 メグメグは服が下に来るようにして落ちる。

 ぼすっ

「お。ようやく決めたか……。」

「あんあ!」

「うわああああ!?」

 メグメグは男の手を掴み生命力を吸おうとするがすぐに払いのけられた。

 ダンッ!

「あう!」

 壁に叩きつけられた彼女に二人の男が剣を持って近づいてくる。

「何だこの子?こんな子いたか?それに今何か吸い取られた感じが……!」

「知らないな。だがここで始末しないといけないことは確かだ!」

 (不味い!間に合わないよ〜!)ふよふよふよ

「はあっ!」ブオッ!

 「うあっ!」

 メグメグは三歳児程の姿までしか戻れず倒れ込むようにして剣を避けた。

「悪いな……!君に罪は無いがこの部屋に侵入者が居たとバレたら後で何されるか分かったもんじゃないんだ!」

「罪ならあるだろ。二重に鍵を掛けていたこの部屋に侵入した罪が!」

 ブンッ サッ

(この姿じゃ力で勝てない……!なら!)

 メグメグは持ってきた服を漁る。

「今度は何だ!?」

「どけっ もう良い俺が仕留める!」

 もう片方の男も剣を振るってくる!

 「くらえっ!」カチッ ぶんっ

 「絵札に攻撃力はないぞ……な!?」

 メグメグが投げたのは西園寺と戦う前フリジットに渡された符術札だ!

 パキパキパキ……

「あががっ」

「あわわっ お前このぉ!」

 男を片方凍らせたメグメグはその男を盾にする!

 カキィン!

「くっ……壊せねえ!」

 (そっか所有物は誰も奪えないもんね。それならこの人の後ろにいれば……。)ふよふよふよ

「それで隠れたつもりか!?」

 男は回り込んでくる!

「……おいかけっこだね!」

 メグメグは凍った男を中心にグルグルと回りながら逃げる。

「追いついた!」

「ふふん!まだまだ!」

 メグメグは凍った男の股を抜けさらに全力の体当たりをその男にぶつける!

 グラッ

「あわわっ」

 ドサーッ!

 凍った男がそうでない男に覆いかぶさる形になった!メグメグはどんどん年を取っていき普段の少女の姿に戻る!

「あっあなたは!」

「ふう……何歳くらいの体で絞ってほしい?」

「えっ!?……アラフォー熟女でお願いします……。」

「はいは〜い!」

 ――遊戯室――

「全然札が落ちてこないぜ!?遅延はやめてもらいたいな〜オイ!」

「メグメグ……。」

「おいお前ら!ちょっと上確認しにいけ!」

 チョキの札を新たに得て既に数分が経っていた。ギャンブは痺れを切らし船員達にメグメグの様子を確認させに行った。すぐに船員の一人が降りてくる。

「メグメグさんが何故か居なくなっています!」

「何い!?ンマ〜なんて事に……ボサッとするな!探せ!代理はお前がやれ褐色男!」

「えっ今ラーヴァ君が欲しい札わかっちゃうけどいいのか!?」

「今回は特別ボーナスだ!良いからやれ!」

「先輩お願いします!」

「分かったぞ!」だっ

フリジットは上の部屋へ向かった。

「たく人騒がせだぜオレのハニーは……。」

「いちいち気色の悪い……。」

「そろそろ来たんじゃねえか?開けろよそこ。」

 ラーヴァは排出口の蓋を開ける。そこにあるのはグーの札だった!

「よしっ!流石先輩!」

「依然としてそっち不利だがな!」

(パーに変更されてない!?あいつらサボってんな!)

 【第四ターン

 ラーヴァ:0p 手札グー、パー、パー

 ギャンブ:5p 手札グー、チョキ、パー】

(俺はいずれこのパーを処分しないといけない……。グーを出して勝ったとしてもパー二枚の不利な状況は変わらないからだ。でもその時は今なのか……?)

「小僧決まったか?」

「おうよ。いくぞ!」

「「最初はグー!じゃんけんポン!」」

 【ラーヴァ:グーVSチョキ:ギャンブ

 ラーヴァ2p獲得!】

「ンマ〜けたか。でもたかが二点だしな。それに今負けたから次の札は間違いなく……。」かぱっ ひょいっ

「……チョキだ。そちらは?」

「こっちもチョキが来たよ。尤も机の上に排出口有るんだから聞かなくても分かると思うが……。」

 【第五ターン

 ラーヴァ:2p 手札チョキ、パー、パー

 ギャンブ:5p 手札グー、チョキ、パー】

 (くそ……もしかしてあの秘密の部屋の存在がバレてるのか?ハニーが居なくなったのも……?いやでも上からは見えないし……仮に見えたとしてもあの隙間を通れるはずが……)

「ギャンブ!彼女を発見したぞ!」

「「!」」

「ヤッホー!皆迷惑かけてごめんね〜!」

 メグメグは多数の船員達に囲まれ現れた。

「実はこっそり降りてたんだ!抜き足差し足でね!」

「そうかい!ンマ〜取りあえず君が無事で良かったよ!もう相棒は彼にやって貰ってるからお嬢さんはそこに居てね!お前らちゃんと見張っとけよ!」

「「「ハッ!」」」

「あっ待って!その前に……!ラーヴァ君!」

「んっ?ん!?」ちゅっ

 メグメグはラーヴァに無理やりキスをする。

(こういう事はしないって約束だったのに……!)

「ぷはっ……ラーヴァ君に会いたくて降りてきちゃったの♡寂しくてさ♡絶対勝ってね!」

「わあ……わ……。」 「あれ絶対舌入れてるよね……。」

 ざわざわ……

「ンマ〜なんて事!オレのハニーから離れろ小僧!撃つぞ!」

「撃たないで!すぐ離れるから!」

 メグメグはラーヴァの席から離れた。

「小僧お前の魂も賭けろ!虐め抜いてやるからな!」

「ああ。」

 ラーヴァは手に札を一枚握っている。既に出す物は決めてあるようだ。

「いくぞ!」

「最初はグー!じゃんけん……」

(この場はチョキ安定!負けようが無いからな!うっかりこのタイミングであいつがパーを出すざいこしょぶんするものならこの場でゲームセットだ!)

「「ポン!」」

「……へ?」

 【ラーヴァ:グーVSチョキ:ギャンブ

 ラーヴァ2p獲得!】

 ウオオオオッ!?

「な……何だあ!?」

「な……何いいい!?ンマ〜こんなのありえねぇ!!」

 ラーヴァが出したグーの札は唾液に塗れている。

「小僧お前まさか……!」

「あの時回収した札か……。メグメグの奴も考えたな!」

「さっきはチューしちゃってごめんね〜!」

「構わないさ!勝つためなら泥水だろうとお前の唾液だろうと飲んでやる!」

「泥水と同列!?酷いよ〜!」

「ンマ〜クソクソクソクソ!ズルしやがってクソガキが!」

あばかれなきゃ不正じゃないんだろ?」

「ンマ〜ウザったらしい!そんな逆転したわけでもねえ!くだらねえカスの二点で!調子こいてんじゃねえぞクソがあ!!」

「そのカスの二点でやられないと良いな?さて次の札は……。」

 ラーヴァの手元に来たのはグーの札だ!

「さっすが先輩!運命で繋がってる……!」 

「あの褐色男が好きならお嬢は譲れやガキぃ!そうだハンカチや船と交換にしねえか!?」

「嫌だね!全部取ってやる!」

「クソが……お こっちもチョキが帰ってきたぜラッキー!ンマ〜負けたから分かるよなそりゃ!」

【第六ターン

 ラーヴァ:4p 手札グー、チョキ、バー、パー

 ギャンブ:5p 手札グー、チョキ、バー】

「こればっかりはただのじゃんけんか。」

「いくぞ!」

「「最初はグー!じゃんけんポン!」」

 【ラーヴァ:グーVSパー:ギャンブ

 ギャンブ3p獲得!】

 ウオオオオッ!

「ガキてめえ警戒したな?チョキの一撃必殺を警戒したな?」

「むぐぐ……!だが次来るのは確定でグーのハズだ!」

 ラーヴァの手元にはグー、ギャンブの手元にはパーが来た。

「良かったグーが来た……って何っ!?お前も使ったパーが帰ってきたのかよ!?運のいいヤツ……!」

「まあオレの策が潰されたと思われる第三ターンと第四ターンの間から三回連続でチョキを送ってたからなぁマリオは。流石に四連続同じ札を送る馬鹿はいねえ。実質二分の一ってわけだ。」

 【第七ターン

 ラーヴァ:4p 手札グー、チョキ、パー、パー

 ギャンブ:8p 手札グー、チョキ、パー】

「おっとどうするガキ〜?オレはどれで勝っても一撃必殺だぜ〜?」

「俺はパーを出すよ。お前がグーを出すのは目に見えてるからな。」

「……その心は?」

「グーでピッタリ十点で勝ったら気持ちいいだろ?無駄がなくて。それにお前が今一番警戒すべきは俺がチョキを出す事。グーならそれを潰せる。俺がお前ならグーにするよ。」

「……成程な。」

(俺がお前なら!?俺がてめえと同じ脳みその雑魚だと思ってんのか〜?クソがっ!絶対グーは出さねえ!そうだチョキ!チョキなら安全かつ奴が本当にパーを出してきても勝てる!)ちらっ

 ラーヴァはギャンブを睨みつけている。出すと宣言したパーを右手に持つ一方で、その左手には体で隠れるように何かの絵札が握られている。

(持ってんのは何だ!?……ん?)

 グーは無造作に机に置かれていた。どうやら左手で持っているのはチョキのようだが……

(あ……グーだ!こいつの真の狙いはグーだ!わざとらしく適当において……あれが真の狙いだ!思えばこいつの点は全てグー由来……こいつは信じてるんだ!グーの神話を!グーなら勝てると!思っているんだ!……あれ?でもグーを警戒してパーを出したら今隠し持っているチョキでやられるかも……あれ?結局どれが正解なんだ!?)

「意味の無い揺さぶり合いは終わりにするか!いくぞ!」

「えっ あっ おう!」

「「最初はグー!じゃんけんポン!」」

 【ラーヴァ:チョキVSパー:ギャンブ

 ラーヴァ5p獲得!】

 ウオオオオッ!

「しゃあ!逆転のチョキだ!俺はチョキを克服したぜ!」

「あっ……オレ何やって……。」

「なぁあれ!もしかしてまじで勝てるんじゃないか!?」

「やった!ギャンブから開放される!」

 ざわざわ……

「黙れえええ!!後で海沈めっぞテメコラァ!!」

「ひっ」 「知るか!俺はお兄ちゃんを信じるぜ!」

「なっ」

「恐怖の支配も剥がれてきたな?ギャンブ!」

「うるせえ!うるせえ!」

「今のお前には負ける気がしないよ!」

 ――上の部屋・左――

「ラーヴァ君勝ったのか?分からないな……。今までおれが入れてきたのはグー、チョキ、グー、グー。入れるならチョキかパーだが……。おれが上に行った時点でラーヴァ君は二つパーを持っていた。それにこのゲーム、最強のチョキとその直接の抑止力となるグーに比べてパーは重要度が低い……。実際不正で相手が入れてきたのもパーばかりだった。……ここは……。」

――上の部屋・右―― 

「パーで負けちゃった!補給しないと!」

 ラーヴァにはチョキの札、ギャンブにはパーの札が補給された!

「先輩本当に愛してる……♡一生離したくない♡」

「よしっ 変に逆張りせずにパーを出したのは偉いぞマリオぉ……!」

「お互い幸運に恵まれたな。次も全手札が揃った状態か。」

 【第八ターン

 ラーヴァ:9p 手札グー、チョキ、パー、パー

 ギャンブ:8p 手札グー、チョキ、パー】

「お互い一撃圏内……。」

「点数による読みも発生しねえ……真のじゃんけんだ!」

「もう語る事は無いな……。」

「ああ……。」

「行け〜!お兄ちゃん〜!」 「勝てるぞ〜!」

 わーわー!

「男の勝負に口出しすんじゃねえ!」

「今まで散々不正してただろ〜!」 「急にカッコつけんな〜!」

「ぐううっ!」

 (不味い……完全にあいつのムードだ!精神的に負けてしまう……!ただのじゃんけんに精神なんて関係ないが……!……ん?精神……?)

 ギャンブはラーヴァを見つめる。その目には高揚感や勝利を確信した者の自信とは別にまだ怒りが見て取れた。

(あっ……そうじゃん!こいつが出すのって決まりきってるじゃん!)

「ンンッンマ〜ッマッマッマッ!……勝ったなこれは!!」

「「「!?」」」

 アウェーの中勝利宣言を放つ不気味なギャンブに皆恐怖を感じる。

「何かまだ策が……。」 「あわわ……さっきの発言やばいかも……!?」

「頑張れ〜!ラーヴァ君ならイケるぞ〜!」

「……メグメグ!」 

 メグメグはその場で高く跳び跳ねラーヴァを勇気づける!

「勝って船の上でバカンスを楽しもっ!フリジットさんとも一緒に!船の皆とも一緒に!!」

「……ああ!ありがとう!よし!いくぞギャンブぅ!!」

「ああ!決めるぞ!!」

 遂に二人はじゃんけんをする!

 ウオオオオッ!!

「「「最初は〜?」」」

「「グー!」」

「「「じゃんけん〜?」」」

「「ポオォォォォォォォォォン!!」」

 ド バ シ ー ン ! !

 二人は相手の眼前へ札を叩きつけた!




「どうだ……?」 「どっちが勝った……?」

(ラーヴァ君ならきっと……!)



 

【ラーヴァ:チョキVSパー:ギャンブ

ラーヴァ5p獲得!

14−8でラーヴァ・ジェノサイドの勝利!

ギャンブ・クァンツェンからラーヴァのハンカチと船そして全ての船員達を没収する!!】

「あ……あ……」

「勝ったぜ……!メグメグ!!」

 ウオオオオッ!!

「やった〜!」 「やっと自由だ〜!」 「助かった〜!」

「ラーヴァ君!!」がばっ

「メグメグぅ!!」ぎゅううっ

 二人は熱い抱擁を交わす!

「お……おい何で……何でグーにしなかったんだよ!思わなかったのか!?オレが……馬鹿にした、くだらないカスの二点でオレを倒してやろうって!『あれがなきゃまだ勝負決まってなかったのにねウヘヘヘへ』って煽ってやろうと思わなかったのか!?」

「ラーヴァ君はそんな性悪じゃ……」

「そうしようと思ってたよ。メグメグに勇気づけられる前は。」

「えっ」 「……?」

「でもこいつの姿見てさ、思ったんだ。最初は恐ろしく見えたチョキも、よく見たら可愛いなって。」すっ

ラーヴァはメグメグの耳元にチョキの手をかざす。

「似てるだろ?こいつの可愛い耳と。」

「……はは。……何だよ……それ。」ふらっ

 どさっ

 ギャンブはその場に勢いよく倒れ込んだ。

「大丈夫!?ギャンブさん!」

「問題無い。気絶してるだけだろ。」

「お〜い!ラーヴァ君この騒ぎは!勝ったんだな!!」

「皆さん本当にありがとうございます!」

「どういたしまして!フリジットさん!ラーヴァ君大活躍だったよ〜!」

「せんぱ〜い!」がばっ

 ラーヴァはフリジットを抱きしめる。しかし少しそうした後左手を彼の脇から離し手をこまねく。

「喜びは三人で共有しよう!メグメグ!」

「……うんっ!!」

 三人は円になって互いに抱きしめあった。この日は一日中大盛りあがりだった。 

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