第23話:味方

「無理だ……!今の状態じゃ死んでも勝てない……!」

「地下に逃げるしかない!ラーヴァ君頼む!」

「はい!」

 ラーヴァは船の時同様地面を爆破し活路を見出そうとする。

「頼む……!何処かの地下洞窟に通じてくれ……!」

 小鳥遊達はジリジリと距離を詰めてくる。本気を出せばもっと高速で動けそうなものだがラーヴァ達が地下に逃げようとするのを止める意思はあまり無いようだ。

「……そろそろ落ちるかしらね。」

 ボ ゴ ー ン !

「……穴だ!」

 数メートル程掘り下げたところでラーヴァ達は地下の空間への入り口を見つけた。しかし直下掘りだった為にラーヴァ達はそのまま落下していく。

「メグメグさんありがとう!」ばっ

「まだ治りきってないよフリジットさん!」

 フリジットはその穴に飛び込む。メグメグもそれを追う。

 がしっ

「へっ?」

「貴方は残って。」

 しかし彼女は小鳥遊に止められてしまった。

「うおお!符術解放!『冷却・寝床スノーベッド』!」

(すまないメグメグさん!)

 フリジットは落ちたメンバーの保護の為に後ろのメグメグを置いてきぼりにしてそのまま穴に落ちていった。

「河原の石の下に群がる虫より陰湿なオスあなた達にはピッタリの墓場ね。死ぬまで下で慰め合ってるといいわ。凝酸。」ビューッ ビューッ 

 小鳥遊の分身蟻達は穴に向かって液体を放出する。

「やめて!追い討ちかけないでよ!」

「違うわ。穴を閉じているだけよ。」

 バ キ バ キ バ キ ……

 凝酸と呼ばれる液体は空気に触れ急速に岩の様な姿になって固化していく。岩のアーチが穴に幾重にもかかり、気付けばすっかり穴は埋まってしまった。

「ラーヴァ君達……どうしよう……。」

「もうあのオスども二分の一のハズレ達の事は忘れても大丈夫よ。」

「な……何だってそんな男の人を目の敵にするの!?さっきから!理解できないよ!」

「今日中に理解できるようになるわ。お〜いあなた達、誰か代表がいるんでしょ?案内してあげなさい。」

 小鳥遊は捕縛されていた女達を解放し声をかける。代表として立ち上がったのはラーヴァ達が島で初めてあった珊瑚色の髪の女だ。

「手前が……代表です……。」

「あああなたね。島の案内をしてあげなさい。私が言うより実際にここで生活しているあなたが言った方がきっとよく伝わるわ。」

「はい……。ついてきて下さい。」

 (何か弱点とかヒントとかが掴めるかも……。私一人じゃこの一千近い大群は倒せないし、ここは大人しく従うしかないかな……。)

 メグメグは小鳥遊達の命令に従う事にした。

「まずは服を着替えましょう。これをどうぞ。今手前様が着ているような着物は丈に関係なく着ることは許可されていません。ここではシャツやジーンズ、デニムパンツそして各種下着以外は着てはならないのです。」

「結構ボーイッシュなデザインだね。これはこれで良いかも。でも何でこの着物じゃ駄目なの?」

「スカート類はオス脳みそ海綿体どもの性的興奮を煽る為の服だからよ。そんな物は私の理想郷ユートピアに有ってはならないわ。」

「ええ〜……。」

「あっ メグメグさん。その下着……。」

「あ……これはですね……。」

「明らかに性的興奮を煽る物よね?今すぐ捨てなさい。」

「流石に勝負下着これはアウトか〜……。」

 メグメグは規定の服を着て更衣室から出て来た。そこには見覚えのある赤に青のインナーカラーの女がいた。

「あ!あなたは!」

「メグメグじゃねえか!お前もここに来てたんだな!」

 西園寺の工場で出会ったインフェルノ・グレイトバーンだ。彼女も規定の服を着ている。元から短髪だったので髪は切り落とされていない様だ。

 「彼女も数日前ここに来たのよ。せっかくだから一緒に研修を受けなさい。」

「よろしくな!」

「うん!ところでどうしてここに……?」

「まあそれは良いじゃねえか!ほらどんどん行こうぜ先輩〜!」

「ああはい。」

「『リリス』。」

 小鳥遊が女を呼び止める。

「……私はこの議事堂にいるわね。」

「……はい。」

 メグメグ達はリリスに連れられ大きな建物に案内された。

「君新入り?よろしくね〜!」もみもみ 「可愛いねえ!」さわさわ

「はい!先輩方よろしくお願いしま〜す!」

 メグメグは島民達に挨拶の際胸や尻を触られる。

「すげえペタペタ触られてんなあいつ。」

「女性しかいない環境ですので皆大胆になる傾向があるみたいです。後は……」

「ねえ後輩ちゃんちょっと後で先輩のお部屋来ない?外のお話聞かせてほしいな〜……。」ハァハァ

 メグメグの肩に手を添え話しかけて来た女は明らかに息が荒い。

「後天的に同性愛に目覚める人も少なくありません。この島の島民は大体私達の様に外から来た男を監禁している人、こっそり男装したリーダー的人物を中心に活動している人、あの方の様に野良で好みの同性を漁っている方の三パターンに分かれます。」

「世紀末だな本当……。」

「ほらもうやめてあげてください。」

「邪魔しないでよ!そっちだって好き勝手やってたんだからさ……ひゃうっ!?あう……なにこれ……♡」

「おっ 反応が良い……♡先輩スペンス乳腺弄ってますね?スケベだなあ……♡」さわさわ

 メグメグは肩を触ってきた女にカウンターを仕掛ける。彼女の技術は服の上からでも圧倒的な実力を発揮する。

「残念でしたね先輩♡私実は昔女の子と愛し合った経験も有るんですよ♡」

「えっ!?」 「いやお前もそっち側かよ!?」

「こんな無防備な状態でさも自分捕食者ですみたいな顔しちゃって……駄目じゃないですか♡大人しくしてないと♡」

「あっ♡ごめんなしゃいっ♡」

 メグメグは最後に耳元で囁いた。

「せんぱいはぁ……ひ・しょ・く・しゃ なんですから♡」

「はい……♡まともに犬歯も磨いてないよわざこ負け犬のくせしてしゃしゃり出てすみませんでしたあ……♡」

「……後でね♡先輩♡」

「! はいぃ……♡」

 女はすっかり腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。

「ず……随分と手慣れてましたね……。」

「俺達にはアレすんなよ……?」

「しないよ多分!じゃあ私達の部屋に案内して!リリスさん!」

「は……はい……。」

 数多のセクハラを乗り越えようやく三人は自室に到着した。

「手前様方には一旦この寮で生活してもらいます。」

「うおお〜!結構でかいな!」

 ウイーン……

 二人の足元を円盤状の機械が通る。

「何この子!可愛い〜♡」

「自動掃除機です。この部屋をきれいに保ってくれます。」

「おお〜!良いなコイツ!俺の家にも一匹持ち帰りてえ!」

「ここから帰れたらそうすると良いと思います。」

「この箱は何?」ガチャ

 コフアァ……

 白い箱からは冷気が漏れ出す。冷蔵庫の中にはジュースや何やら読めない言語で書かれた袋があった。

「それは冷蔵庫です。」

「君冷蔵庫っていうんだ!よろしくね!」

 (ん?何だろこれ……。)

 中を確認してみるとパスタ麺の、既に完成したものが入っていた。

「作ったものをここに保存してるの?」

「はい。食べ物を冷凍して保管しておけますが……手前様が手に取っているのは冷凍食品というものですね。誰かが既に作ったもので、加熱すればすぐに食べられます。加熱するものはそこの電子レンジというもので出来ます。」

「何それ凄い便利じゃん!」

 ピーピーピーピー!

「わわっ 冷蔵庫君に怒られちゃった!閉めれば良い?」

「はい。」

「怒らないで〜!」ばたんっ

「ふぅ〜……。……あれ?」

 メグメグは一つ違和感を持った。

「そういやこの部屋……広いけどダイニングが無い……。」

「ん?あぁ確かに言われてみりゃねえな。まあでも冷凍食品って奴を解凍するだけだから要らねんじゃねえか?」

「そうは言うけど……自分で作りたいの作れなくない?これ。」

「鋭いですね手前様。」

 リリスが言う。

「小鳥遊は我々に地球の味と保存性に富んだ食品を提供してはくれますが……我々に食事を作る権利は与えてはくれませんでした。もっと言うなら掃除をする権利も。」

「ズボラな俺なんかは助かるけど……する自由がねえってのは何か腹立つな〜……掃除でも。」

「……しきりたがりなのかなあ小鳥遊さん。」

「……まあ家電の話はこれくらいにしましょうか。この部屋にはゲームも有りますよ。」

「ああこれだろ?この数日で大分使いこなしてきたぜ!」

 二人は両手で持てるほどの大きさの家庭用ゲーム機を取り出す。

「これが電源です。」

「ポチッとな!」

「あ、電源切ってる状態なので長押ししてください。」

「は〜い!」ポチー

パッ

 液晶に光が灯る。

「わわっ 何これ!」

「面白いですよ。多くの島民は仕事がない時はこれか、さっきの所で時間を潰してます。もう駄目にされてしまいましたが。」

「駄目だろあんなの。壊されて当然だわ。」

「あはは……絞り取るだけじゃなくてちゃんと栄養与えてあげないとだよ?あの人達凄く衰弱してたんだから!」

「いやそういう問題じゃないだろ……。」

「えっと……これがゲーム選択場面?」

「そうですね。表に出てくるのは小鳥遊による検閲が済んだゲームだけですが、その中で好きに遊ぶ事が出来ます。」

「なーこのモ◯スターハ◯ターってやつやっちゃ駄目なのか?めっちゃ面白そうなんだけどよ〜!」

「そのゲームは主人公の性別が選べるゲームなのですが女性の装備が薄着で性的だという理由で駄目になったそうです。やったら小鳥遊に殺されかねませんよ。」

「何なんだよあいつ……見なきゃ良いだろ……。」

「あっ そうだ!ここなら自由に話せるでしょ?何でこの島に来たのか言ってよインフェルノさん!」

「え?……ああそうだったな。俺達はあの女じゃなくてカーツァラッテっていう伝説の生物に用があってここに来たんだ。」

「記憶改変の為に?」

「……お前も知ってるのか?カーツァラッテの伝説。」

「知ってるも何も私も同じ星守七聖獣だからね!」

「おいおいまじかよ……。じゃあカーツァラッテ狩りはやめておいた方が良いか?」

「う〜ん……狩らなくて済むように私が彼に会ってお願いしてみるよ!」

「おっそうか!ありがとな!」

「それからさ、もう一つ質問いい?」

「ん?ああ今回は無双の奴はお留守だぜ。サムソーは……」

「無双さんって地球人だよね?」

「!!」

「地球……人!?」

 空気が一気に張り詰める。

「……誰から聞いたか知らねえが……そうだぜ。あいつは地球人だ。」

「二人は狸人間の解放運動か何かで恩があって従ってる感じ?」

「な!?……そんなところまで知ってるのかよ。……じゃあ無双が……」

「西園寺さんとつるんでた事も知ってるよ。」

「何なら知らねえんだよじゃあ。失望したか?俺にもあいつにも。」

「それなんだけど……私としてはまだ何にも言えないかな。あなた達が過去に色々やったのも知ってるけど、あなた達にはあなた達なりの正義があるような気がして。まだ敵とも味方とも言えない感じ。それに工場では凄くお世話になったし。」

「まあ工場のあれは半分自演だけどな。」

「え……。」

「初対面の時とは情報量が段違いだな。もう隠しても印象悪くなるだけかこりゃ。せっかくだしお前には全部話してやるよ。」

「手前は……。」

「せっかくだから聞いてけよ。」

「では失礼して……。」

 二人はインフェルノの方を向く。彼女は話を始めた。

「まずお前らは狸人間が世界中でどういう扱いを受けてきたか知ってるか?」

「私も狸人間の人と付き合った事あるけど、何でも北方大陸でひどい目にあってたらしいね……。」

「ここ東方諸島は中央大陸へ狸人間の奴隷を運ぶ為の中継地にもなったと聞いています。」

「そうだ。北方大陸の原住民だった狸人間の国は人類始まりの地である中央大陸から来た私達『尾無おなし』によって一方的に蹂躙され、今から大体二百年位前には奴隷として出回るようになった。俺はさ、北方大陸の出身で身近に奴隷として運用される奴らもそこから成り上がった奴も見てきたんだけどさ、その成功した奴、最初狸人間に見えなかったんだよ。」

「もしかして……。」

「そいつは自分の耳と尻尾を断ち切ってたんだ。狸人間というだけで話のスタートラインに立てない、舐められるからってな。そいつだけじゃない。狸人間の多くはフードやら何やらで自分の耳尻尾を普段隠してるんだ。俺はおかしいって思ったんだ。こんな世界……良いものを良いって言えない世界はな。」

「最初は個人で活動してたの?」

「いや……サムソーとその弟アツソーと三人で活動してた。三人で国の役人に訴えかけてみたりしてな。俺達の意見に耳を傾けてくれる奴も確かにいたが……とはいえ世界はデケえ。俺達やそういう人だけじゃまるで歯が立たなかった。次第に過激になってさ、遂に近くの奴隷市場を武力で落としちまおうって話になったんだ。」

「そこで……。」

「ああ。あいつに出会った。」

 ――四年前・奴隷市場――

「はぁ……はぁ……!」 「ふん。」

 飛び散る汗、荒い息。三人は奴隷市場の番人と交戦していた。

「血継呪術。『塵芥戦術スリーアール』。『縮小リデュース』をうつわけですよ。」

 ズアアアア……!

「血継呪術。『呪いも力も貯めて待てフルチャージ』!累積居合斬!」

 ブウン!

 ピタッ!

 呪力を帯びたサムソーの刀の一振りは門番の指で挟み止められてしまった!

「くっ……!」

「弱いなあと。思うわけですよ。」

 テュンテュンテュンテュン……

 サムソーの刀はどんどん小さくさせられてしまう!

「うっ」

 サムソーは思わず距離を取る!

「攻撃呪術。『呪穿槍』を撃つわけですよ。」ドシュウッ!

「ぐはっ!」

 サムソーは呪力の槍に突き刺されそのまま遠くへ飛ばされる!

「所詮思想が駄目な奴は実力も駄目なんだと。思うわけですよ。」

「誰がゴミじゃコラァ!」 「兄貴をよくもぉ!」

 「馬鹿とネズミは天井から攻めると。思うわけですよ。」

「符術解放!『加熱・放射ヒーティングショット』!」

呪いも力も貯めて待てフルチャージ!『重脂肪圧殺』!」

 インフェルノとアツソーは天井から攻撃を仕掛ける!

「『再利用リサイクル』をうつわけですよ。」がしっ

「びぇっ?」ぐにぃ

ジュアアアア

「い゙い゙い゙い゙っ!」 「なっ」

 番人は近くの奴隷の肉体を変形させ上からの炎を防ぐ傘にした!

「うおおっ」ぐるんっ

 ダァン!

 アツソーは奴隷を避けるため脂肪と呪力で球体の様に膨らんだ体を回し地面に体を強打した。その後攻撃に失敗したインフェルノも着地する。

「こんな売れ残りでも使い道はあるんだなあと。思うわけですよ。」

「テメエどこまで腐ってんだ……!」

「兄貴、大丈夫か!?」

「刀をやられた……しかも……うッ!」びちゃちゃ……

 サムソーは吐血する。

「呪いは後から効いてくると。実感するわけですよ。」

(くそ……呪力による免疫拒否反応を誘発する呪穿槍の効果か!ここじゃ大規模破壊攻撃は使えねえ!一気に焼き払う事が出来ねえ!狙って首を落とせるサムソーがやられたのは痛すぎる!)

「まだまだ!重脂肪圧殺!」ゴロゴロ!

アツソーは球体の様な体を回し番人に向かっていく。 

「狙いは奴隷達から私を離すこと何でしょうと。思うわけですよ。血継呪術。『応用進化ワイドリー塵屑戦術ファイブアール』。『拒否リフューズ』をうつわけですよ。」

 ぐぐぐ……

「なに!?僕の回転が……止められ……!?」

 グインッ!

 アツソーは反対の方向へ飛ばされる!

「あああああ!?」

「ちっ……許せよアツソー!飛ばすぞ!」

「まじかよ姉貴!?」

 ガツゥン!

 アツソーはインフェルノに斧で弾き返される。

「力比べと。なるわけですよ。」グイーン!

「うあああああっ!?」

「オラオラオラオラ!!」バチーン!

 アツソーは何往復もさせられる!

「炎の推進力も借りて……オラァ!!」

バ ッ チ コ ー ン !

「いくら脂肪解放で硬くなってるとはいえコレはないぜ姉貴〜!」

「……これ以上は不毛だと。思うわけですよ。」さっ

 遂に番人は奴隷たちのいる左側のレーンから右にそれた!

「あ〜れ〜……。」

 避けられたアツソーはどこかへ転がっていった。

「待ってたぜえ!この時を!!」

 そんなアツソーを放っておき、インフェルノは番人に突っ込む!

「焼き切ってやらぁ!」ブオン!

「速いと……思うわ……」

 ズ バ ッ !

 近接戦の末、遂にインフェルノは番人の右腕を切り飛ばす!

「ゴミは人を売り物にするテメエらだオラァ!」

「同意するわけですよ。『修理リペア』をうつわけですよ。」がしっ

 番人は左腕で飛ばされた右腕を掴むと断面同士を押し当てる!

 グニッ グニチッ ピ タ ……

 右腕はピッタリとハマる!

「て……テメエ自分自身でゴミだと思ってんのか!?」

「一度認めてしまうと楽になると。思うわけですよ。」バッ!

 番人はダメージ覚悟で突っ込んでくる!

「何ぃ!?」

 今度は左腕を落とされたが番人は彼女が先程加熱・放射ヒーティングショットで使った使用済み符術札に右手で触れた!

「『再使用リユース』をうつわけですよ。」キィン……

「バカっこんなとこで使ったら……」

 ボ ガ ー ン !

 番人は再度札を使用できる状態に戻しそれを無理矢理発動させた。

「が……あ……。」

「我ながら自傷覚悟とは……あなた達を見ているとむかっ腹が立つと。思っているわけですよ。」

「そんな……アツソーも……インフェルノも……。」

 インフェルノは爆発の勢いで脇腹が吹き飛ばされ床に突っ伏していた。アツソーは恐らくあの勢いのまま何かにぶつかったのだろう。死んではいないだろうが帰ってこない。番人は右手が消し飛んだものの口を器用に使い左腕をくっつけ、右手も飛び散った指を集めだした。

「うっせサムソー……。まだ負けて……。」

「僕達の……」 「馬鹿言うな!俺は全然……ごへぇっ!うっ ぐっ うう……。」

「ま……負けだ……。」

 サムソーが絶望したその時だった。

「もう大丈夫だよ。」

「「「!?」」」

 そこに現れたのは銀髪の男だった。

「狸人間の皆!この僕が……狸人間の救世主である僕が!無双 血蔓が!やって来たよ!」

「!?」 「誰だおめえ!?ここのやつじゃねえんなら危ねえぞ消えろ!」

「春というのは変な物が湧く季節だと。思うわけですよ。」

 右手も修理した番人は無双との戦いに備える。

「君さっきから……凄い多才な技術を持ってるね。」

「攻撃呪術・呪穿槍をうつわけですよ。」ドシュウッ

 ヴン

「な!?銀髪野郎が消え……?」

 ズ パ パ パ ッ !

「でもただの人間だね。遅すぎるよ。」

「!」

 番人は一瞬の間に左腕以外の四肢を切り落とされた。しかしそれでも胴体が落下する刹那、番人は攻撃を仕掛ける!

「強いなあと。思うわけですよ。概念呪術・『マリーゴール』……」

「『血晶神匠・縫い針けっしょうこうぞう ぬいばり』。」

 ザツツツツゥン!

「……。」

 番人の欠損断面と口が硬質化した血の針によって縫われ番人は術を発動できなくなった。唇から突如として針が飛び出してきたのだ。無双は自身の血を欠損断面から仕込んでいたのだろう。

「す……凄い……。」 「何だあ ありゃあ!?」

「ごめん ただの人間は言いすぎたよ。四肢全部飛ばすつもりだったから。その場で死んだように生きてね。」

「……!……!!」

血晶神匠・縫い針けっしょうこうぞう ぬいばり。」バツツツツッ

 無双はインフェルノの傷口を針で縫い止血する。

「君達は奴隷解放の為に動いている……で良いのかな?」

「ああ……そうだ!オイ!頼みがある!」

「何だい?」

「俺達を舎弟にしてくれ!俺達、あんたの所で強くなりてえ!!」

「どうかよろしく……お願いする。」

「なあんだそんな事か!勿論!構わないよ!」

「本当か!ありがとう!」

「共に覇道を征こう!」

「覇道……?」

 無双は奴隷達を解放するとこう言った。

「世界全土に散らばった奴隷たちを片っ端から解放して狸人間達の国を作るのさ!かつてそれがあった所に!再びね!」 

 ――  ――  ――

「あいつは強かった……当時の俺達としては異次元だった。」

「成程……そっかそれで奪還都市アラミドを作ったんだね!」

「そうだ。最初の方は気楽だったよ。俺とサムソーそしてアツソーは直属の部下になってさ。ひたすらに悪いと思った敵を打ちのめし続けた。でも距離が近くなった分色々見える物もあってな。俺はあいつをただの英雄として信奉する事も出来なくなってきた。例えば西園寺周りや今回のお前の件とかな。」

「無双さんは私狙いなの?」

「ああ。もうすっかりお前にお熱だ。城に籠もっては毎晩の様にお前への愛を囁いてるぜ。とまあ、ここまで話してきたが……俺達は今後対立する事があるかも知れねえな。ただ少なくともこの場においては俺達はお前らの味方だ。そこは保証するぜ。」

「本当!?ありがとうフェルちゃん!」

「なんだその呼び方!?」

「インフェルノだからフェルちゃん!可愛くて良いでしょ!」

「はぁ〜?……う〜ん……。まあ確かに可愛いか!よし!これからフェルでいいぜ!そっちはメグ子な!」

 (メグ子!?微妙なセンス……。)

「良いねそれ!よろしくね!」

 (良いんだ……。)

「そうだリリスさんも!元から三文字だからしなくても良いかもしれないけど……。」

「リスちゃん!」 「手前子!」

「「どっちが良い?」」

「えっ!?えっと……じゃあリスちゃんで。」

「いえ〜い!勝った〜!」

「何い!?センスあると思うんだけどな〜……。」

「手前も皆さんと同年代位なので。さん付けよりちゃん付けして欲しいな〜と言う事で……。センスの問題ではありませんから。」

「そうか?じゃあ手前子ちゃんにするか。」

「……どっちが良い?」

「……すみませんリスちゃんで。」

「うあああ!やっぱセンス無いって思ってるだろ俺の事〜!メグ子って呼んだ時も微妙な反応してたし!」

「まあまあ……。それより私一万歳越えてるけどホントに同年代で大丈夫?」

「えっ!?あっ 人のお姿をされてますが星守七聖獣?ですもんね……。すみません見た目の話で……。」

「ふふ、いじりすぎちゃったごめんね!よしじゃあそろそろ行こっか!」

 三人は立ち上がり軽く伸びをした後自室を後にした。

「次はどこ行くんだ〜リスちゃん?」

「メグ子ちゃんの散髪をします。この島では肩につく長さ以上の長髪は禁じられているので……。」

「意味わかんね〜……。バックレちゃおうぜ。」

「そういうわけにもいかないよ!あの人の弱点を炙り出すためにもまずは私達を味方だと誤認させないと!」

「でも良いのか?自分の髪にこだわりとかあるだろ?」

「いや……ロングヘアの方が男の人に人気な事多いから伸ばしてるだけで別にそんな拘りはないかも……。」

「結構他人依存な考えなのな〜。」

 三人は床屋に着いた。

「では『ユミール』さん。この方の散髪をお願い致します。」

「うぃ〜。バリカンで良い?」

「うわお中々攻撃力高そう……。まあ後で自分で生やせるから良いよ。」

「イヤ冗談だって!今切るね〜!」

 メグメグはおかっぱ頭にしてもらった。

「どう?似合う?」

「悪くないんじゃないか?」 「サラサラとした髪質に合っていると思います。」

「本当?ありがとう!ユミールさんもありがとね!」

「はいはい!」

 三人は床屋を出る。

「大抵の施設は回りましたね。ではそろそろ議事堂へ報告に行きましょうか……。」

「うん!もうすっかり夜かあ。」

「今日はどうでした?」

「凄く楽しかったよ!ゲームも皆とのお話も!」

「しかしこの島何か変な物がすげえあるよな。あれは地球人の作ったものなのか?」

「そうですね。今私達を照らしているあの石柱も電灯というやつです。」

「街中に取り付けられてるんだねこれ!夜中の散歩も安心だね!」

「案外男が居なくてもやっていけるモンなんだな。」

「漁業なんかは昔より全然出来なくなっちゃいましたけどね……。この辺りでは船乗りは男性の仕事でして、技術がかなり失われてしまいましたから……。」 

「じゃあ当分お魚は満足に食べられそうに無いね……。あ、あの人の弱点探しは明日に持ち越しになっちゃったなぁ……。」

「それについて何だが……俺もこの数日遊んでた訳じゃなくてな。実は一個特ダネを掴んでんだ。」

「おっ それは!?」

「何でもこの島の何処かに『潜水艦』ってのがあるらしい。それが有ればあいつに対抗できるかもしれねえ。」

「おお〜!フェルちゃん凄い!」

「手前様方はあくまで小鳥遊と戦うつもりなのですね。」

「うん!」 「負けちゃいられねえからな!」

「ご武運をお祈り申し上げます……。」

議事堂前に着いた。そこには小鳥遊の大群が昼間同様待ち構えていた。

「この島のルールや生活は大体分かったかしら?」

「おうよ。」 「うん!」

「じゃあ最後のルールを教えるわね。凝酸。」ビュッ

 ベチャチャ

「「……え?」」

 数十の小鳥遊の攻撃はリリス一点へ浴びさせられる。

「ひゃっ……」

 バキバキバキバキッ!……

リリスは遺言を吐く暇も与えられず全身が石化した。

「……何してんだてめえ!!」

「リスちゃん!……どうして?女の人は味方じゃないの!?」

オス汚染物質と関わった者は穢れなく生まれた女性でも処分しないといけない。それがこの島のルールよ。」

「……あ!……ひどい……。」

 昼間人質の様にされていた女達も大量の大蟻に紛れて既に石化していた。

「何も貴方達まで殺そうとしてるわけじゃないわよ。安心して。率直に感想を述べて。素晴らしいでしょう?オスお目汚しのいないこの島は。わかったでしょう?オスあいつらは居なくても問題ない、居ないほうがいい存在だって。」

「今の抜きにしても……私はそうは思わなかったかな。」

「随分頭の固い女ね。どうしてこの理想郷ユートピアの良さが理解できなかったのかしら?あなたみたいな女の精神構造を理解するために教えて頂戴。」

「楽しかったよ?それに気楽な感じもあったし。でも……何ていうかさ。この島の人って結局男の人の真似してるだけなんじゃないかな〜って気がして。」

オス下等生物の……真似?どういう事かしら?」

「皆男物の服着て、髪型も男の人っぽくしたり、そうでなくても長髪は許されないし……」

「長髪というのはオス野蛮で未熟な旧支配者共が私達女性を搾取する為に使ってきた『女性らしさの型』そのものなのよ。決して許してはいけないわ。ポニーテールだかなんだかも同じね。特にあれはうなじへ視線を送らせる効果が有るからたちが悪いわ。」

「いやらしい目で見られたくないから男の人を排除したわけじゃないの?もう排除した後なんだからその人がその人のしたい髪型や服装をするのは個人の自由じゃないの?」

「メスブタ検定三級。『自由を言い訳に旧態依然の女性らしさに拘り、脱男性の動きを妨害する』。いい?まず大前提としてあなたは洗脳されているの。そこは理解できてる?」

「……そういう事にしてえならそうなんだろ。お前の中じゃな。」

「えっとね……結構この説明毎回苦労するのだけどね……そういう服装や髪型をしようって思ってる事が何よりの証拠……って言えば良いかしら?あなたは男性に性的に見られる事に慣れすぎて、それが良いことだと教えられてきたせいでそういう格好をしようとしてしまってるの。無意識のうちに。」

「誰に見られなくても自分なりの可愛さを追求したいものじゃないの?いやそうじゃない人もいると思うけどさ……。それに短髪が好きな男性もいるし……」

「はあああああああぁぁぁぁ……(クソでかため息)。ちょっと言い方を変えるわ。これはね、正義の戦いなの。重要なのは象徴の破壊。オスども価値観押し付けクリーチャーが築いてきた既存の女性らしさを徹底的に否定する事を通して私達女性の自然の、至善の有り様を新たに見出す事が私のしたい事なの。私達は悪のオス独裁者から自立しないといけないの。お願い、私だって同じ女性は殺したくないのよ。理解して。」

「……理解したよ。」

「まずは赤青髪の子ね。後は……」

「理解した上で言ってやる。お前の言ってることは欺瞞だ。」

「は?」

「お前……男に生きろって言われたら死ぬのか?」

「メスブタ検定二級。『唐突に極論を出し詭弁を通してオスにペーストされた既存の価値観を守ろうとする』。死ぬわけないでしょ。馬鹿なの?」

「じゃあ男の言う事聞くんだな。」

「はぁ!?聞くわけ無いでしょうが!」

「どっちだよ。」

「私が生きるのにクソオス外野の意思は関係ないでしょ!?そんな事も理解できないの!?」

「だろ?外野は関係ないんだよ!そいつがそいつの意思でやりてえっつってんならそれがそいつらしさなんだよ!お前がやろうとしてるのは女の肯定じゃねえ。男の否定だ。お前自身が誰よりも男の言う事やる事に依存して、俺達女を都合良く利用してんだよ!一番自立出来てねえのはてめえ自身だ!」

「……ふふっ。あっはははは。大好きなオス様から植えつけてもらったとうっとい価値観を守る為に必死ね。言葉には気をつけなさい。あまり私を怒らせないほうがいいわよ?」

 女は暗黒微笑を浮かべる。

「恐怖で相手を縛り付けようとするのが女らしさなのか?それとも昔男にされた事の真似事か?」

「……!メスブタ検定一級。『私をオス悪魔と同一視する』。ブタ……あんた死ぬわよ。」

「ああそうかい。そうだ俺も議事堂近くに建てられた更衣室で着替えたんだった。それに着替えようかな。」

「……ブタ。あんたも俺とか使ってるじゃない。女らしさってものが嫌いなんでしょう?」

 インフェルノは服を着る間に質問に答える。

「……まあ好きじゃなかったけどな。でも俺が俺って言ってんのはそういう理由じゃねえ。」

「かっこいいからだ。女っぽくないからじゃなくて、男っぽいからでもなくて、俺っていう語気の強い一人称は活力とやる気に満ちてる。後字の元が稲妻と関係あるのもかっこいい。俺が良いと思ったから使ってんだ。」

インフェルノは更衣室から出て来た。

「……その服いつ見ても滑稽ね。」

「これは可愛いと思ってな。『最大都市 ナイロン』で買った。その上符術札を内蔵するスペースもあって実用性もある。俺好みの服だ。」

「一貫性の無いブタね。カッコよくなりたいの?可愛くなりたいの?」

「……こんな馬鹿でけえ島買う割に質素なんだなお前。どっちもに決まってんだろ。」

「フェルちゃん……!」

「俺は諦めねえ!誰よりカッコよくなりてえし誰より可愛くなりてえし、そして誰より強くなりてえ!誰にも負けねえ全員ライバルだ!!それが俺らしさだ!!俺は三次元四次元を生きてんだよ!男か女かしかねえてめえの一次元の思想に俺を当てはめてんじゃねえ!!」

「ブタ……おいブタ。ブタブタブタブタブタブタブタブタブタブタブタブタぁ!!メスブタ検定特級!!『私を自分より劣った物として見た』ぁ!!決別よ!殺処分してやるわあああ!!」

「おせーよタコ。俺達はもうさっきのでお前とは完全に決別済みだ。そしてお前は対応も遅い。」

ピ …… ピ……ピ ピ ピ ピピピピピピ

 ボ ッ ガ ァ ー ン ! !

 大爆発によって更衣室が木っ端微塵に粉砕され下の空洞へ繋がる穴が出来た!

「行くぞメグ子ぉ!潜水艦は間違いねえ、地下にある!希望はあの穴の先だああ!!」

「うん!」

「行かすかあ◯ずれがぁ!!」

 「符術解放・『加熱・煙幕ローストスモーク』!」

 プッシュウウウ……

 インフェルノは高温の煙で視界を封じる!

「くさっ!ああもう何処行ったのよ!」

 (いやでも待ちなさい!どうせ行き着く所は分かりきってるじゃない!)

 羽アリタイプの小鳥遊は更衣室のあった所へ向かう。

「凝酸を吹っかけてやるわ!ああもう今日だけで私に逆らう名誉男性裏切り者の石像が乱立するわね!くそったれ!さあ喰らいなさ」

「符術装着!焼却・熔岩マグマストリーム!」

 岩に貼り付けた三枚の札が発動しマグマが吹き上がる!ラーヴァの超高熱の炎を耐えきれる彼女にこれは致命傷にはならない!

「うえっ ドロドロして……不味い羽が……!」

 しかし相手の体に粘度の高い熔岩をぶつける事こそがインフェルノの目的だった!

「へっ 岩にするのが自分の特権だと思ったかウスラトンカチが!」

「数体の動きを止めたくらいでいい気になってんじゃないわよ!」ばっ

 ……シーン……

 既に二人は穴の下へ落ちていた。

「……まあ良いわ。だいちゅきなオス様に裏切られて全身病気まみれになってしまいなさい!」

 小鳥遊の大群はその場を後にした。

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