第10話:教えて先生!
そびえ立つ急峻な山々。学術都市アルパカへの道のりは険しいものであり、生半可な覚悟ではこの惑星最高の学徒になることは出来ない。
「うお……でっかあ♡」
「最高峰は初代皇帝450人分(6,800メートル)だ!今回は登るつもりは無いけどな!」
「えっ!?よく調べられたねそんな高さ!?」
(皇帝の高さで言われてもしっくり来ないな……。先輩も幼老狐も中央大陸出身だしこの辺りのローカルな縮尺なのかな?)
「何で昔の人はこんな利便性が低い所に学術都市なんてものを……?」
「かつて俗世に疲れた学者や求道者が一人や見知った仲間内だけで研究したい事に集中する為に作った仮の住まいが起源になっているからだぞ!」
「成程……。」
「後は氷の竜のせいで今はそう感じないけど、中央大陸は全体的に気温が高い大陸で……山の上にある学術都市だけが一年を通して涼しいところだったんだぞ!北方大陸よりはまだ乾燥してて本が湿気にくいしな!」
「当時としては結構理に適った立地だったんですね!」
「ああ!……今となっては不便な土地というのも事実ではあるけどな!」
三人は入山を試みる。通気性の良い服を着た兵士の一人に止められた。
「皆さん。入山許可証をお持ちでしょうか?」
フリジットはどうやら持っているようだ。ゴソゴソと足で荷物を弄り始める。だがフリジットの顔を見ると兵士はすぐに顔色を変える。
「すみません!氷の符術師フリジット様でしたか!許可証の提示は必要ありません!どうぞお入りください!」
「本当か!ありがとうな!」
「ありがとうございます。先輩やっぱり名が知られてますね!」
「おれはここの符術学校に通ってたからな!第二の故郷だ!」
「ありがとうございます!かつて学んでた校舎で……♡ってのは冗談でも言わないほうがいいかな……?」
「お前にも自制心あるんだな。意外だわ。」
「ラーヴァ君冷たすぎるよ〜!」
「流石に当たりきつすぎるぞラーヴァ君!」
「え〜……?ごめんなさい。でも先輩の為ですよ!」
三人は兵士に一礼すると山に入っていった。兵士は無線機の様な物で何者かと連絡を取る。……符術によるものではなさそうだ。
「……こちら西山脈方面担当。フ……フリジットさんが仲間を二名連れて入山しました……。」
《連絡ありがとね〜!二名?三号君まさか寝返っちゃったのかな?ああいや君にはどうでもいい話か!じゃあ家族は解放して……あげませ〜ん!》
「えっ ええっ そんなっ 困りますっ!」
《というのは嘘で〜す!アハハっ反応面白〜い!》
「ひいい……。」
――学術都市アルパカ――
「ハァ ハァ……島の山とは比べ物にならないくらいきつかったです……。」
「ううっ 二人で水分補給させて〜!」ぺろぺろ
「二人共おつかれ様!ここが学術都市アルパカだ!公園に水飲み場があるからそこで水分補給していてくれ!その間におれは質屋に行く!」
「水飲み場!?ただで飲めるんですか!?」
「ああ!山の雪解け水を利用しているおかげで中央大陸では珍しく水に困らない場所だからな!
幼老狐は汗でダラダラのフリジットの頬に舌を這わせようとしている。
「うわ何あれ カップル?」
「僕もあんな可愛い彼女にペロペロされたい……。」
「あれてかあの褐色の人って……。」
すっかり人溜まりが出来てしまった。
「先輩が暑そうにしてるだろ!寄り付くなよ!てか人様に汚えもん見せてんじゃねえ!」
「幼老狐さん!発汗は体温低下の為にやってるんだ!舐めるのはやめて欲しいぞ!」
「「そっち!?」」
三人は広場で水を飲みに行った。
ごくっ ごくっ
「ぷはぁ……ん……ちょっと苦い……でも美味しいよ……♡」
「いちいちエロい言い方すんな!」
「具体的にどこがえっちだった?二人がえっちに感じる事知りたいから教えて!」
「いや……言い方と……後苦いとか……。」
「なるほどね……ラーヴァ君は想像力◎、と。」
「あぁもう!……あ!あれ先輩じゃないか?」
「二人共!質屋で集めてた物をお金と交換してもらったぞ!」
「おお!どうでした先輩……」
ラーヴァはフリジットの貨幣用の袋に詰まっていたお金を見る。二人が一週間かけて集めた物達はあまりにも貧相な金額に変えられていた。
「……今ってどんくらいインフレ進んでる?これだと四年前でも一晩の宿代にもならなさそうだけど……。」
「地域差はあるけど大体四年前の1.8倍位……だぞ。」
「先輩これ何枚札買えます?」
「……0枚だ。」
「お……終わった……。ちなみに今ある札の数は……?」
「……三枚だ。」
「これはもう私が一肌脱ぐしか……」
メグメグは服から肩を露出させる。ラーヴァは怒り狂い彼女の方を掴み、服をぐいと持ち上げる。
「それはやめろ!お前の名誉とか健康どうこうの前に先輩の名誉に傷がつく!金の為に仲間の女に体を売らせた男なんて評判がついたらどうする気だ!?」
「うう……でもどうするの?」
「そ……それは……。」
その場でぐったりと座り込んでしまった三人。その前に学生と思われる少年がやってくる。
「あの……そこの褐色のお兄さん!」
「おれか?何の用だ?」
「あの……氷の符術師フリジットさんですよね!」
「おお!知ってるのか!そうだぞ!」
「僕符術学校の生徒なんですけど……よかったらその……講義してくれませんか!?お金も払いますし、符術札の原料になる『緑電鉱』もたくさんありますので!」
「い……いいのか!?」
「お願いします!」
「是非とも!こちらこそお願いするぞ!」
フリジットは二人の方を万円の笑みで振り返る。
「お仲間の二人もよければ校舎の中にどうぞ!」
「ありがとうございます!」
「ありがとう〜!」
――符術学校校舎――
「うわ〜久しぶりだ〜!『ノノモフ先生』元気かな?」
「元気ですよ!貴方を見出したのは自分だ〜って毎日のように仰ってます!」
「それはボケてるのでは……?」
「まだここで教えてるんだな!講義が終わったら先生にも会いたいな!」
「会えますよ!先生はもう死ぬまで一生ここを降りない、いや降りられないって仰ってますからね!この町の何処かに必ずいます!」
「それは足腰がやられてるのでは……?」
「ささ、ここが講義室です!」
ドアを開けるとそこにはキラキラとした目でフリジットを待つ多くの学生たちがいた。
「フリジットさんだ〜!」
「おう!」
「フリジットさんっ!後でサインか何か書いてくれませんか!?」
「勿論だ!」
「実物でけえ〜!」
「初代皇帝1.3人分らしいぞ!」
「……?」
「え〜と190センチと少しだ!」
「おお〜!」
「フリジットさん!僕の事凍らせてください〜!」
「それは危ないから駄目だぞ!」
「彼女連れ回してる〜!」
「この人は彼女じゃなくて……」
「ホラフリジット先生何でも答えちゃうから!質問タイムまで皆フリートーク我慢!」
「「「はーい!」」」
「先輩俺達は……。」
「折角だから二人も俺の講義を聞いてくれ!今後二人に札を渡して作戦をする事があるかもしれないしな!」
「分かりました!」
「講義頑張ってね!」
「ああ!」
かくしてフリジットの臨時講義が始まった。初学年(15歳相当)かつ、今は年度が始まって二ヶ月後の五月(地球基準だと三月に一学期が始まっており、約一月ズレ有り)であるため、フリジットは初歩的な所から講義をする事にした。
「えーまず!符術札は戦闘用と産業用の二つに大別されるぞ!戦闘用と産業用では出力に大きな違いが見られるが、実は一枚の符術札に込められているエネルギー量には殆ど差が無いんだ!戦闘用は一瞬でそのエネルギーを使い切り、産業用は長期間かけてゆっくりそのエネルギーを消費していくってだけで!この戦闘用・産業用の切り替えは特定回路によって入れ替えることが可能だぞ!」
「はい先生!皆そう言うけど実際全然変えられません!何ででしょうか!?」
「それは市販の符術札か?」
「はい!」
「なら仕方ないな!市販のものは基本的にいじられないように安全装置が取り付けられているからな!これは産業用が欲しいと言って購入したにも関わらず実際には他人に危害を加える戦闘用として使用しようとしていた人がかつていたからだ!現在は戦闘用を購入・所持・製造する際は三級戦闘符術師資格以上を持っていなければならないんだが、二級戦闘符術師資格以上を持っている者の監督下であればその限りでは無いぞ!また今後皆は自分で符術札を作る機会が出てくるだろうがその際は必ず何型を何枚作ったか報告しないとだ!これを報告しないと兵器密造罪で逮捕される可能性がある!かくいうおれも一回捕まりかけたぞ!」
「えぇ!?」 「あのフリジットさんが!?」
「先生!購入・所持・製造は駄目だけど売るのは良いんですか?」
「良い質問だ!実は法律上だとそうなってるぞ!これが厄介で戦闘用符術札を製造して売り捌いていると思われる人がいても実際に作ったものを持っているもしくは製造している所を現行犯という形でないと逮捕できないんだ!」
「うわ〜……。」
「今度は符術の型について話すぞ!戦闘用は炎・氷・雷の三つがあって、一方産業用は今の三つに追加で鋼・岩があるぞ!」
「かつては氷も産業用だけだったんですよね!先生!」
「その通りだ!〜……」
「へ〜そうなのか。」
しばらく話を聞いているだけだったラーヴァが喋る。
「うん。フリジットさんが作るまでは産業用だけだったんだ!」
ラーヴァの隣に座っていたフリジットに講義を頼んだ金髪の少年がそれに返す。
「えっ!?フリジットさんってもしかして研究者としても偉大な人なんですか!?」
「うん。今まで竜は基本氷や冷気に弱いというのがわかってたらしいんだけど……戦闘用符術札の実現は炎次いで雷が楽で氷は最難関。理論上は可能でも実際に運用することは不可能とまで言われてたんだよ。でも……。」
「フリジットさんはいくつもの挑戦と失敗の上についに戦闘用氷型符術札の開発に成功したんだ!」
「凄い……!」
「ていうか氷が一番難しいんですね。」
「うん。発熱を起こす反応って身近に色々あるでしょ?炎だってそうだし、言っちゃえば僕達もずっと発熱し続けてる。でも冷たくなるっていうのは基本蒸発や融解、一部の化学的反応と後は温かい物から冷たい物への熱移動位でしょ?まず自然界に冷やすもっと言うなら吸熱する反応って少ないんだ。」
「その上何より冷気は熱気より伝わるスピードが遅いんだ。熱気は解放されれば小さな粒が激しく運動してそのエネルギーがどんどん周りに伝わっていくんだけど……」
「冷気は動いてないってことだから伝わりにくい……?」
「そういう事!周りの普通の温度の粒がぶつかって来てくれるの待ちなんだよね。即効性を求められる戦闘ではこの性質が何より痛くて……。」
「先生ってどうやって戦闘用にしたんですか〜?」
「おっちょうど授業もそこの話をするみたいだね!僕も本人の口から直接聞きたいからここまでにするね!」
「はい!ありがとうございました!」
「俺は研究チームの皆と二つの変化を取り入れて戦闘用にしたんだ!まず一つに高速回転極小符術!温度の低い粒子は熱運動が小さいからあまりその冷たさを周りに伝える能力が高くないんだけど……この極小の符術は細長い形状になっていて、これが動きたがらない低温粒子と常温粒子を強制的に撹拌させるんだ!無理矢理二つの粒子が触れ合う機会を増やす事で冷気の伝達スピードを上げているってことだな!一つの戦闘用氷型符術札にはこれが大量に取り付けられている層がいくつかあるんだけど……小さな鋼型符術札が大量に取り付けられていると考えると分かりやすいかもしれないな!その層を作ることは割とすぐに出来たんだが一番きつかったのは回転効率の改善だ!効率が悪いと冷やすどころか温める技になってしまうからな!狙った所に電気が通るように、なおかつなるべく電気抵抗による発熱を減らせるようにする必要があった!これが大変だった!まあはそこは割愛して、二つ目は疑似竜化だ!」
「うおっ来た!」
「これを聞きに来たんですよ!」
講義室がざわめく。
「疑似竜化……!?」
「竜になれる人間……地球人は皆基本1.7メートルから1.8メートル程の人間だ!しかし彼らは瞬時に体長十メートルを越す竜になれる!おれたちはこの仕組みについて解析してみることにした!これは明らかに質量が増えており、質量という莫大なエネルギーの塊を何処かから得ている、つまり吸熱しているはずだからだ!解析の結果彼らは単純に体内に溜め込んでおけるエネルギー量がおれ達の比ではないというのもあったが……やはり竜化の際特殊な好熱・好気性微生物を全身から放出し、その微生物に周囲のエネルギー、特に光といった波動エネルギーを吸収させその微生物を特殊な電気信号で体内に戻し、得たエネルギーを用いて質量を生成しているという事がわかった!この微生物こそが竜化の本質である為おれ達は彼らを『ドラゴンハート』と名付けたんだ!」
「えっ!?これ符術の研究飛び出して無いですか!?」
「実際他の分野のスペシャリストと連携した大きなプロジェクトだったらしいよ。」
「おい!すげえ事言ってるぞ幼老狐!」
「すぴー……すぴー……。むにゃむにゃ……いやんそこはらめぇ……。」
「「……。」」
「俺達がやった事は二つだ!まずは吸い取るエネルギー源を光より熱が優先される様にした!そしてもう一つは得たエネルギーを質量に変換させずそのまま溜め込ませてやる様にした!こうする事によって対象の熱エネルギーを
「氷型符術と言っているが、実際の所符術として電気を流して
「地球人側の技術を逆に利用して彼らを殺す特効薬を作ったって事か……先輩は……!」
「竜が冷気に弱いのも
「その通りだぞ!
「うおお〜!」
「やっぱ作った本人から聞くと違うな〜!」
長ったらしい話だったにも関わらず会場は大盛りあがりだ。本当に符術が好きな人間だけが集まっているのだろう。
「え〜と……すまないラーヴァ君!助手になってくれるか!?」
「はい!」
ラーヴァは義手で精密動作性の低いフリジットの代わりに物を置く部分と物を見る部分からなる顕微鏡をセッティングしてあげた。倍率は最高にしておいた。
「特別な符術札が必要になる最上級『氷帝』級は今日はお見せできないんだが、おれは一枚で『冷却』級に、三枚で『凍結』級になる汎用の戦闘用氷型符術札を持ってきているから、ここで使ってみようと思う!そこで実際に高速回転極小符術が動いている様子を見てみて欲しい!」
うおおおお!
「ラーヴァ君、他二つもセッティングしてくれないか?」
「えっでもそしたら自由に使える札無くなっちゃいますよ?」
「この子達に見せてあげたいんだ!授業中襲われてもすぐに札を回収すれば問題ない!だから頼むぞ!」
「……分かりました。」
ラーヴァは残り二つの札も顕微鏡にセットした。大体順番で生徒達が並んだところでフリジットは白くて太い符術札(以後マスタータブレットと呼ぶ)を足で器用に動かして三枚の札を起動させる。
コファァァ……
「これで特別な命令を何も送らなければ殺傷力は殆ど無いからそこは安心してくれ!でも触ろうとするのは駄目だぞ!」
「「「はーい!」」」
「うわっすげえ本当に回転してる!」
「こんな仕組みなんだな……。」
「氷型高いから中々見る機会ないんだよね〜。」
生徒達は食い入るように札を見ている。
「氷型って高いんですか?」
ラーヴァは金髪の少年に質問する。
「すごく高いよ!三度の飯よりずっと高い!」
「三度の飯より!?道理で買えないわけだ……。」
「それでも強いからね。追い求める人は多いよ。」
「氷帝級に至っては国庫から支出してもらう位のお金がいるらしいよ。」
「威力も凄かったですけど、値段も凄かったんですね、アレ……。」
「えっ使ってる所見たことあるの!?」
少年の目が光輝く。
「はい。まあ……。」
「どんな感じだった?聞かせて?大体1,200字位の作文で!」
「えっいやそれは……キツイです流石に……。」
授業は大成功に終わったはずだった。
――招かれざる客がやって来なければ。
パリィン!
「「「!?」」」
「ヤッホー!若者諸君!いや私も十代じゃい!何つて〜!」
割れた窓には桃髪の少女が立っていた。不思議な事に彼女は無数のガラス片のその一つも踏んでいないようである。
(何だこいつ!?酔っているのか!?)
「……お姉さんは誰なのか教えて欲しいぞ。」
「オゥマイネェムイィーズ改造人間二号!いぇー!」
(やっぱり酔ってる!)
生徒達とフリジットは恐れ慄いた。なぜならここは地上四階。ここより高い建物も周りには無く窓から入るには十メートル以上飛ぶ他無い為である。
「何だこいつ……どうやって……!?」
「桃髪……気色悪い……。」
ざわざわ……
「アハッ。恐怖、嫌悪、困惑……面白っ♪」
改造人間二号を名乗る少女は下品にもその舌を下唇に這わせてみせる。
「皆おれの後ろに……「あ、いやいーよ。その子達別に狙ってないし。テキトーに隅っこに
(飛んだ!)
くるくるくる すたっ!
彼女は空中で三回転し講義室の中心に着地する。
ラーヴァはその瞬間を狙っていた!
「死ねっ 前方豪炎噴!」
「!!」
ボヒュウウウ……
「何……!?」
「着地狩りとは雅だね〜!」
(効いてない!?表面は焦げているから竜の熱耐性とは違う……!後ろの壁も溶けてる。火力が足りなかったわけでは無いハズ……!)
ラーヴァは彼女が着地し、防御を取りづらい瞬間に炎を放った。しかしその炎は彼女の右腕の表面を焼くだけで致命傷には至らなかった。とはいえラーヴァに関心を集めさせた事には意味があった。その時間のおかげでフリジットは部屋の生徒達を廊下に誘導し、騒ぎに気づいた幼老狐が目を覚ましたからだ。
「何の騒ぎ!?」
「この前の改造人間シリーズの続きだ!」
「おはよう!早速だけど貴女はどっか行ってね!残り二人は私が殺すから!」
「……させるわけ無いじゃん!二人を殺す前に私を倒してもらうからね!」
「ヤダお姉さんカッコイイ……私惚れちゃう♡トゥンク♡」
「お前とキャラ被ってないか?」
「被ってないよ!」
「まあでもいいや!邪魔するならお姉さんも死のうね!あの人頭の数が増えたところで文句言わないでしょうし!」
(あの人……ボスが別にいるのか!)
「じゃっまずはお姉さんから!」
ドシュウッ!
二号は幼老狐に突っ込む!
「かかってこい!」
カクン!
「!?」
しかし彼女は人とは思えない急カーブを見せ援護射撃をしようと準備していたラーヴァに殴りかかる!
ドゴオッ
「へひ」
ラーヴァは炎を放つ前に
「ラーヴァ君!」
「嘘!?ズルじゃん!」
「ハイ嘘で〜す!お姉さんが気に入ってそ〜な子を目の前で殴ったらどうなるか気になっちゃった!いぇい!」
「怒るに決まってんでしょそんなの!」
「じゃあついてきてね!」
二号はそのままラーヴァの腹筋をまるでスライムの玩具を引っ張るかのようにグニッと握って自分が割った窓から落下していった。幼老狐は後をつける。
「符術生成!『
出遅れたフリジットは三枚の札を回収しそのうちの一枚を使って滑車付きの氷の板を生成する。どうせ起動してしまった以上後二,三十分程で使い切らないと無駄になってしまうのだ。フリジットは窓から落ちていくと殆ど垂直に近い建物を滑り下りながら三人の居場所を確認する。彼が三人を見つけた時はちょうど三人が落下しそうになる瞬間であった。二号は掴んでいたラーヴァを建物の方へ投げ捨てると猫の様に足の方から落ちるように体を回転させさらに大地を力強く叩き付け受け身を取った。ラーヴァはあと少しというところで足に炎を宿し間一髪で落下死を避けた。またこの際横に動いた事で二号と距離を取る事に成功した。幼老狐はなんと小さな女児にその身を変え、体重を減らし、さらに今まで見えないよう隠していた太く毛で柔らかな尻尾を露出させ、それで衝撃を軽減した。
「皆無事か!」
「誰も死ななかったか、やるね〜!」
「
「う〜これでも結構痛いよ〜!」
二号はフリジットを一瞥したが脅威たり得ないと思ったのか二人に視線を戻す。フリジットは少しずつずり落ちながら二号の出方を伺う。
「さーて次はどう来るかな〜?」
「幼老狐!お前その体で……というかそもそも戦えるのか!?」
「もちろん!腐っても
「わかった!ならあいつが避けられないスピードで攻撃を叩き込むぞ!同時にだ!」
「うん!」
「おれも続くぞ!」
シャッ ガアアア!
二人の攻撃のタイミングに合わせて急落下するフリジット!ラーヴァは腰の剣を抜き二号の正面に突っ込む!背後からは幼老狐がその手を突き出して迫ってきている!
「同時攻撃かい!」
二号はそう言いながら全く防御態勢を取らない!あろうことか腕を上にしてストレッチまでしている始末だ!
「舐めるなよ!」
ドシュウウウ…… ぴと
(剣先が当たった!)
「……『
スルッ スルッ スルッ
「「「!?」」」
三人の攻撃は彼女に一切ダメージを負わす事なくあっさりといなされる!
「あっ」
ドズ
「痛っ!?」
きれいに攻撃方向をずらされたラーヴァは向かい合った幼老狐の心臓を刺してしまう!
「うああっ どうすれば……」
「取り敢えず抜いてっ!」
「!? でもそんな事したら出血が……」ぬぽっ
「大丈夫!自分を治すのは人のよりうまくできるから。」
ポアァ……
幼老狐は心臓の傷をすぐに塞ぐ。とはいえ生命力の消費は激しいようで眉間にシワを寄せている。
「ぐうっ!?」
くるくるくる ズザーッ!
一方フリジットも攻撃をいなされ上に押されたものの上手く体勢を立て直し校舎の向かいの建物に激突するのは避けられた。
「先輩……今の攻撃……
「ああ……当たってはいたぞ!」
「!」
「やっぱりそうだよね……当たってから透かされてる!」
「お!気付いたか〜!そうだよ!私は当たってから攻撃に対処してるの!」
「俺の炎や今のほぼ同時の攻撃に当たってから対処って……どういう反応速度だよ!?」
「赤毛のお兄さん良いね!お手本って感じの反応!特別にペラペラ喋っちゃう♪私はマスターに体の回路……脊髄をいじってもらったの!」
「だから感覚の伝達速度が超光速!凄いでしょ!ついでに動き始めもね♪」
(伝達速度が光より速くても脳が受容できなければ意味がない……恐らくこの人は脳も……。)
「光より……速い!?」
「いちいち反応が面白いね〜!そこの元お姉さんのお気になのも頷けるかも!よしじゃあ奮発してもう一個特技見せちゃいます!」
そう言うと二号は二丁拳銃を取り出し、やたらめったらに撃ち始めた!
「『
バシュ バシュ バシュ!
ピシュン ピシュン ピシュン!
「先輩あれ何ですか!?」
「銃っていう鉛や銀の玉を飛ばす武器だ!当たりどころが悪いと死ぬ!」
ビッ
「うぐっ」
ドシュッ
「くあっ」
辺りの石造りの硬い建物によって反射された弾丸がラーヴァ達を襲う!
「でも対処法は……ある!符術生成!『
フリジットは銃弾が飛び交う中二号の頭上に向け足で発動した符術札を飛ばす!飛ばされた札は二号の頭上で光り輝き、氷の半円を生成する!彼女はその中に閉じ込められた!
「本来は動けない要救助者がいる時に使う防護術何だが、こうすれば……」
「中に残った銃弾が全部あの女に飛んでくるってわけですね!」
「ああ!でもこれじゃ決め手にならない!」
「……あ!まさか……!」
氷の半円の中では弾丸を滑らすようにしてかわしている二号の姿が見える!
「見える〜?タップダンス踊りながらでも避けられるよ〜!」ぴょんぴょん とたとた
「……ッ!」
「これは時間稼ぎに過ぎない!次で決め切りたいぞ!避けようがないラーヴァ君の広範囲の必殺技で仕留めるんだ!」
「体力は私が回復させるね!」
ポアァ……
「ありがとうございます先輩!幼老狐!これで決める……!」
「前方豪炎噴!狐火!!」
ボッヒュウウウ!!
ラーヴァは敢えて腕の感覚を広く開け、広範囲に炎を放出する。相手が竜でない上狐火による威力上昇もあるので仮に体の中が鉄で出来ていたとしても余裕で溶かしきれるだろう。
ジュアッ
ラーヴァの炎の範囲は氷の半円の直径を優に超えており氷の半円をすぐさま溶かし中を火炙りにする。
シュウウウウ……
「や……やったか!?」
「危ない危ない……今のは結構効いたよ〜!」
煙の中から平然と二号は出てきた。
「お前どうやって……」
ゴッ ゴッ ゴッ
「か……」
ドサッ
いつの間にか背後に回られていたラーヴァ。首筋への容赦ない打撃により失神する。二号は体は焦げてしまっているが体内は既に硬い地球製金属に取って代わられているらしい。彼女はその熱耐性と地面に潜った事で致命傷を避けたのだ。
「う……嘘……。」
「嘘じゃな〜いよ!」
「くらえ〜っ!」
ばっ スカッ
幼老狐の飛びかかりなど彼女にとってはスローモーション映像を見るような物だ。
「ごめん。一回当たってあげても良かったけど遅すぎて避けちゃった!動いてないと死んじゃう♪」
「この……」
がしっ
幼老狐は頭部を掴まれる。
「あっ」 「いぇい!」
ドンゴ ドンゴ ドンゴ ドンゴ !!
二号が繰り出すは幼老狐の頭部へのリズミカルな掌底の連撃!
「お゙っ!?」
(何この筋力!?)
ドサッ……
脳震とうを起こした幼老狐はその場に倒れ込んだ!
「はいこの中で私が舐めプでタップダンスしてると思ってた人挙手〜!」
……シーン……
「誰もいないの〜!?ってあれ?褐色の人いないじゃん!」
彼女が二人を倒している最中にフリジットは何処かへ姿をくらませていた。
「逃げるな卑怯者〜!君が一番肉弾戦強そうなんだから出てこ〜い!」
……シーン……
「……つまんな。じゃあ大事なお仲間さん殺すからね〜!」
二号の異常なまでのエネルギーを秘めた拳が幼老狐に振り下ろされる!
ブオオッ!
プル タンッ
二号が持っていた地球製携帯電話が鳴り響く。彼女はワンコール以内に出られなかった事はない。
「どうしましたかマスター?」
《お前と一号は学術都市アルパカ付近にいる……でいいんだよな?》
「はいそうです。あ、今からターゲットの一人殺す所なのでちょっと待っててくださいね!」
《そのターゲットは少女を連れていなかったか?》
「あ〜連れてますね。そいつも捕らえました。羨ましぃなあオイ!リア充死ね!って感じですか〜?」
《いや、違う。ターゲットの炎使いと氷使いは殺してくれて構わないが……その少女は殺さずに我が研究施設まで連れてきてくれ。》
「あ〜確かに可愛いですもんな〜生かしてあげたくなっちゃいますよな〜!」
《俺が愛でたいわけではないんだけどな……。まあとにかく四の五の言わないで連れてきてくれ。報酬は出す。》
「じゃあ土下座で二号様神!俺が間違ってました〜って言ってくださいね〜!」
《チッ……考えておく。まあいいから連れてこいよ。以上だ。》
ブツッ
「……美人ってのは得ですな〜。……まぁ生かしてあげますか。マスターの屈辱の反応楽しみですし。」
二号は片手で幼老狐を抱え上げる。そしてラーヴァの頭の前まで移動した。
「君可哀想だねぇ。仲間に見捨てられ、マスターからも死んでいい奴扱いで……。」
「まぁこんな奴私ならいつでも殺せるし、折角だから連れて行ってあげよっ!」
「……いい反応してくれるし、飽きるまで使い潰してあげるね♪」
二号はラーヴァと幼老狐を抱えたまま建物に飛び乗り、学術都市アルパカを出ていった。
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