第9話:たとえ足が無くなっても

――中央大陸某所・数日前――

「よっ『一号』。お前も『流回竜』の奴に呼ばれた感じか?」

「コンニチワ。『三号』サン。ハイ。ワタシモマスターニ招集サレココニキタ次第デス。」

「俺のデータによると最近出てきた竜殺しについての話をすると思うんだけど、どう思う?」

「マア、ソウデショウネ。ア、ヨカッタラ対戦シテイキマス?マスターが会議ガ始マルマデ許可スルトオッシャッテマシタ。」

「お?マジ〜?ちょっと待ってろドリル外すから。……あれ?俺のデータと違う……お前その腕自分でいじったのか?」

 白の短髪で左のもみあげだけが長い三号と呼ばれる少年は、黒髪ロングで色白の一号と呼ばれる青年の右腕をドリルをつけていない左手で指差す。

「ハイ。射出デキルヨウ改造シマシタ。ゲーム中ハ使ワナイノデゴ安心ヲ。」

「いいね〜イカしてんじゃん!よし外れた。勝ったほうが奢りな!」

「やあやあ男性陣!君達も呼ばれてたんだね〜!ところで何の話をしていたんだい?私も混ぜてよ!」

 「「……。」」

二人は彼女を無視してゲームを続ける。

「お前そのキャラ好きだよな。でも俺のデータによるとそいつ使った時の勝率35%未満だぜ?」

「デハソノデータヲ更新シテミセマショウ。」

 がちゃがちゃ……がちゃがちゃ……

「うわっ三号君やらかしてるね〜。マジで負けそうじゃん!」

「ゲージ溜まったぜ!これで死ねっ!一号!」

「当タラナケレバ、ドウトイウコトハアリマセン。」

「うわっ避けんなよ!俺のデータだと回避率10%だったのによ!」

「や〜い避けられてやんの〜!」

「少々データガ古カッタ様デスネ。投ゲデ終ワリデス。」

「くっそ〜!」

 《K.O.!!ゲームセット!!》

 三号はゲームで負けてしまった。

「負〜け犬っ!負〜け犬っ!」

「あぁもううっせぇな『二号』!ちょっとは黙れ!」

「三号サン!マズイデスヨ!」

「嫌でーす黙りませーん!現実でもゲームでも負けっぱなしの三号君が負け犬なのは事実だからで〜す!」

「てめえ殺……「何を騒いでいる?三号。」

「げえっ」 「! 来ラレタノデスネマスター!」

 部屋の奥から男の声がすると、一号と三号はすぐに席についた。

「申し訳ありません!流回竜様!」

 (クソ何で俺が謝らなきゃ……!)

「聞いて下さいよマスター!男の子二人だけで仲良くして私の事ハブるんですよぉ!こういう事する人がいるから女性の社会進出が遅れるんですよ、全く!」

「……別にお前が女だからハブってるわけじゃないし……」

「あっ!ほら反応があった!やっぱり図星ってハッキリ分かりましたね今!内心見透かされてイライラ止まらないんでしょうね〜!」

「図星でも何でもねえし!お前がそうやっていちいち……」

「三号。黙れ。」

「くっ……くうう……すみません……。」

 三号は謝罪する。桃髪ロングの二号と呼ばれる少女と揉めている時、怒られるのは必ず彼だからだ。二号は三号の顔をニヤニヤと眺めながら自分の席につく。

「気をつけろよ。三号。……さて、今日君達を呼んだ用件だが、君達も知っているように約二週間前、ジャニエルが殺害された。」

「人類最高戦力ト……得体ノ知レヌ力ヲ持ツ少年ニ……デスヨネ。」

「その通りだ一号。しかし俺はこの事態を寧ろ君達がどれだけ強くなったか試すいい機会だと捉えている。」

「確かに面白そう!今までのサンドバッグ同然の子達とはまた違った反応してくれそうだし!」

 桃色の少女は笑う。

「彼らは恐らくシルク帝国跡から学術都市アルパカへ向かうだろう。君達はそこを襲撃しろ。一人ずつでも二人同時でも構わない。一人で殺れるかどうか判断するというのも強くなる上で重要だからな。以上。健闘を祈る。」

 流回竜はそう言うと部屋の奥の間へ姿を消した。

「二人同時でもいいらしいね。さ〜てどっちが私と組んでくれるのかな〜?」

「悪いな一号。俺は組む気はねえ。自分のやり方を通すのが一番良いとデータが言ってるからな。後、俺が先に仕掛けてもいいか?」

「ソウデスカ。ワカリマシタ。デスガ殺スノハ一人にシテ下サイネ?モウ片方ハワタシノ手柄ニシタイノデ。」

 抑揚のない声で一号は答えた。

「あれ?ターゲットは二人だから……それじゃ私の手柄がなくなっちゃう!そうだ、私と組もうじゃないか一号君!」

 ……シーン……

 少女が言い切る頃には少年と青年は既に建物から脱出していた。

「ううっ 何さ!二人して!私の事虐めて!」

 ガチャッ

「ひ……人がいる!た、助けて欲しいナリ〜!」

 小太りな割に手先は繊細そうな男が一人部屋の中に入ってきた。

「どうしたの〜?」

「朝起きたらこの建物にいて……この建物変な罠がたくさんあって、もう……小生……。」

「あ〜誘拐されちゃった感じか!いいよ!ついてきて!」

「助かったナリ〜!」

二人は部屋の外に出る。

 カチッ

 《緊急ボタン作動!緊急ボタン作動!サーチ&デストロイ!サーチ&デストロイ!》

「ここ押すとね〜罠のレベルがアップするんだよ!」

「へっ……?ぴ、ぴぎいいいいいい!!」

 ビュイイイイイイ……

「ちょうどいいや、暇だったし面白い反応見せてね〜!」

 ……嫌われていたのには相応の理由が有りそうだ。

 ――幼老狐の家――

「二人共、捜索しよう!」

「先輩。いいですよもうあいつは。凍死したがってるようなもんじゃないですか!」

「……わかった!ラーヴァ君は留守番を頼むぞ!」

「あれ?二人きりになっちゃうね?」

「別に。もうすっかり興奮も冷めてきたしお前に負ける気しないからいいよ。聞きたいこともあるし。」

「……いや、私とフリジットさんが。ふふっ 野外ってのも中々乙なものだよね〜♡」

「先輩!ついていきます!助けに行きましょう!」

 結局三人で外に出る事となった。案の定外は二メートル先も見えないほどの猛吹雪になっていた。炎で明かりを灯してもなお仲間同士で逸れないようにするのに精一杯だ。

「不味い……!あいつどこに行ったんだ!?足跡も消えちまってやがる!」

「安心して!私は臭いで人を探知できるの!ついてきて!」

「……変なとこ連れてくつもりじゃないよな……?」

「いや……大丈夫……野外でなんて言ったけどここじゃ縮こまっちゃうでしょ?この寒さじゃふざけてる内にあの人死んじゃうし……。」

他に頼れるものもないので彼女の鼻を頼りにする他無く彼女の後についていくラーヴァ達。そうして歩みを進めること十分、突然幼老狐が足を止めた。

「臭いが……ここで途絶えてる。」

「じゃあこの辺りにあのお兄さんはいるんだな!?」

 幼老狐は頷き両手をお椀の形にして差し出す。

「何?その手は?」

「離れて探して遭難したら大変でしょ?何か二人の臭いが強く付いてるものが欲しいなって思って。」

「茶髪のお兄さんは大剣の持ち手に付いてる汗で探したから、それ位濃いやつを頂戴!どうしても無かったらパンツでいいよ!」

「パンツ欲しいだけだろお前……。」

「成程な!じゃあこれを!」

 フリジットはマフラーを手渡す。

「すんすん……うんこれなら大丈夫そうかな!」

「じゃあ俺からはこれを。」

 ラーヴァはハンカチを渡す。昔先生に作ってもらって以来肌身離さず持っていた物だ。

「二人共ありがとう!無くさないように気をつけるね!」

三人は茶髪男を手分けして探すこととなった。

 (とはいえこの辺りにいるならそんな離れる事はないと思うが……。)

(!? あの辺り、やけに盛り上がってないか!?)

 別れてから三分もしない内にラーヴァは埋まっている男を見つけたかに思えた。

 ぼすっ

 しかしそれは落とし穴だ!

「えっ?」

 ぼろろっ ヒュウウウウ……

「うわあっ!?」

 ラーヴァの悲鳴は吹雪の音に掻き消され、ラーヴァは落下した。雪は地表部分だけ盛り上げ、固めてあったらしい。地下の八畳程の空間には既に男が二人倒れ込んでいた。それは先程の茶髪男とベージュ髪男の二人だった。茶髪男は脇腹から出血していたがまだ息があるようだ。ベージュ髪男は既に息絶えていた。死後時間がそこそこ経っているようでその体は冷え切っていた。

「何だ……!?この穴は……!?」

 彼は胸の中心を貫かれ、穴の先の空間が覗ける程になっていた。ラーヴァは戦慄した。明らかにそれは獣でない……悪意ある人物が行った行為だからだ。

 ジュイイイイ……

 (まさかあの氷の竜が……!?いやしかし……こんな狡い真似をわざわざ……?)

 ドズ!

「ぎえらあっ!?」

 左足に走る激痛。ラーヴァは痛みで体をよじった。幸い反応が早かったため相手の攻撃は腿周りの肉を削ぐだけで致命傷には至らなかった。体を捩った勢いでラーヴァは振り返り敵と対面した。敵は十六歳のラーヴァより幼気で体不相応な巨大なドリルを右腕に装着した白髮の少年だった。彼はラーヴァと目が合うと自慢げに話し始めた。

「俺は『廻下魔改三かいかまかいぞう』の一角!改造人間三号だ!!」

「お前の名前なんか聞いちゃいない!爆炎解放!前方豪炎噴!」

 三号は雪をドリルで掘り難なく炎を回避する。

「炎の能力!お前がラーヴァで間違いねえな!三度目の正直ってやつだな!お前が来るまで長かったぜ!?」

 ラーヴァは三号の話に耳を傾けることなく息のある茶髪男を連れて落ちたところから飛び上がろうとする。

 (地中は奴の主戦場!ここで戦うのは避けたい!)

 しかしそんな考えが見透かされない筈もなく、三号は雪の壁の側面、斜め上から飛び出してくる!

 カチン!

「うっ!?」

 ミアの聖術付与がかかっている鎧なので体が貫かれるのは避けられたが衝撃はゼロに出来ない!勢いよく雪の壁の側面に叩きつけられたラーヴァは上に上がることが出来ずこのままでは嵌め殺されると理解し、足の炎を解除し、地上への脱出を諦めた。

「ハァ……ゴホッ ハァ……。」

 ラーヴァは先程の攻撃で臓器を痛めたようだ。しかし気を緩め倒れ込む事など許されない。いつどこから彼が飛び出してくるか分からないのだから!

 はぁ はぁ はぁ はぁ ブブブ……

「んっ!」

しばしラーヴァと茶髪男の呼吸音だけが響き渡っていた空間だがラーヴァは左足元の微かな振動に気付いた。先程の薬によって痛みに弱くなってはいるがその分振動に敏感になっているようだ。

 ジュイイイイ……

 (今か……まだか……?)

 ジュイイイ

 (もう少し……もう少し……。)

 ジ ュ イ イ イ イ !

 (今だ!ここだ!)

 ラーヴァは剣を振り下ろす!

 ギャキィン!

「当たった!これで

 ドズ!ジュイイイイ!

「ぐあああああああ!」

 ラーヴァは剣をドリルに当てたが、足元からのドリルはドリル部分だけで人間が付いていない!そして左後頭部への激痛!三号の真の狙いはこちらだったのだ!

「クソ……どいつもこいつも真正面から勝負しに来ないな……!」

「まだデータが不足しているからな!真っ向勝負を避けるに越したことはねえ!」

 ラーヴァもやられっぱなしではいられない。剣を高速で引き、持ち手部分を斜め上にいる三号に当てる!

 ゴンッ

「ごがっ」

 三号の胴体に剣の持ち手が命中したため左後頭部のドリルが逸れ、外れた。三号の攻撃をいなすとラーヴァは前方豪炎噴を足元から飛び出てきた無人ドリルに放つ。しかし中々溶けない!

「地球製ドリルだからな〜!そう簡単には溶けないぜ〜?」

 ラーヴァは出血覚悟で無人ドリルを掴み三号に向けた。

 ジュイイイイ!

「ぐうっ」

 手がどんどん削り取られていく!少しでも指がドリル先端に触れたら一瞬で巻き込まれて欠損してしまう事だろう!先程までの怪我もありはっきり言って瀕死状態のラーヴァだが火事場の馬鹿力というべきか、それでもなお凄まじい出力で炎を出す!

「頼むぜ俺の最高火力!煌牙竜殺爆炎掌!!」

ジュアアアア……ボ ォ ー ン ! 

「なにぃ!?」

 ラーヴァは左手でドリルを掴み無人ドリルの中心に右手から熱を加えその欠片を弾き飛ばす!

 ドシュッ!

「ぎぃあ!?」

 欠片の一つが三号の左手に当たり指を何本か吹き飛ばす!彼は悶絶の表情を浮かべ雪の中へ逃げていった。

「おい、どこに逃げるんだ?もう無人ドリルも壊した。さっきみたいな戦術はもう……」

 ジュイイイ!

「おい!オメーの頭上から何か音すっぞ!」

 茶髪の男がラーヴァに警告する。

 ドギュウン!

「うおおっ!?」

 ラーヴァの頭頂めがけて飛び出てきたのはなんと無人ドリルだった。上手く回避したラーヴァだが今度は先程怪我した左後頭部に向かって別の無人ドリルが飛んでくる!

「無人ドリルは一つじゃないのか!?強すぎるだろ!!」

「複数使役出来て当たり前よお!何せ俺は最新!最先端の!!第三号だからなあ!!今一つの痛手を負ったが……もうデータ収集は完了した!俺が直接手を下す必要はねえ!そのまま死にな?」

 雪の中で三号の声が響くと総勢八個はある無人ドリルが現れラーヴァ達を襲う!ラーヴァは避けることで精一杯だ。

「ウワ〜!コッチ来んなぁ!」

 茶髪男の脇腹にも無人ドリルが襲いかかる。それだけではない。

「やめろっ こいつはもう死んでんだ!これ以上傷つけんなよ!」

 ベージュ髪男の死体も狙われているようだ。茶髪男は片方の手で脇腹を押さえながらもう片方の手で遺体を動かし避けさせてやる。

「おい!俺以外を何故狙う!?」

「しゃーないだろ。これ自動だし。俺今雪の中でお前の事見えてないし。八個も手で操縦できるわけないじゃん。」

「まあそうだよな!お前の脳の容量じゃ!」

 ドズ

「うがあっ!」

 今度は怪我した左の腿の少し下を突かれ抉り取られた!

「脳じゃなくて手の問題じゃボケ!お前は手が八本生えてんのか!?ああ〜?」

 (何はともあれ自動操作だとわかった!でも俺達を狙う条件は何だ……?)

 ラーヴァは思考を回しながらドリルを避ける。その間狙われたのはラーヴァの頭頂、おでこ、左後頭部、左の腿付近。茶髪男の脇腹、ベージュ髪男の胸の中心だった。

 (……何か他の奴も狙われてるけど俺が狙われる確率が高い気がするな……。死体を狙ってる以上熱や動きによる探知ではないだろうし……。……あ!)

「おい茶髪!お前雪で傷口覆え!」

「はあ?傷口壊死するだろバ……チッわかったぜ!」

 ラーヴァの圧に気圧された茶髪男は自身とベージュ髪男の傷口を雪で覆い隠す。すると全ての無人ドリルはラーヴァに向かうようになった。

「うおおっ!助かったぞガキィ!」

「無人ドリルは血を探知してるんだ!」

 ラーヴァは急いで自身も傷口を雪で覆う。周り一帯雪なので無人ドリルにさえ気を付ければすぐに体を雪まみれにする事が出来るのだ。

「よし!これで……」

 ジュイイイ!

「まだかよっ!?」

 ラーヴァのおでこを勢いよくドリルが狙う。

「惜しいなぁ〜!最初は俺もそうしてたんだけどな〜!」

「ルセェ!卑怯者が!雪の中からピーチクパーチク言ってんじゃねーぞ!正々堂々正面から来ねぇか!」

「いやお前らもさっき先輩と俺の事奇襲してたけどな!?」

 ドリルの攻撃はラーヴァの頭部とラーヴァが雪を纏う際血のつけた部分の二箇所に集中する!

(不味いぜ……!ガキに攻撃が集中しまくってやがる!あのガキの足も怪我に加え雪の重みで限界が近そうだ……!)

「くそ!血を狙っているのは間違い無いはず……でも左後頭部の傷口を隠してるのに攻撃が来る!」

 (血は狙われる物の一つであって全てじゃないのか!?……そうかなら!)

 ラーヴァは自身の赤い前髪を一部引きちぎる!

「ガキお前何してる!?」

 そしてそれを勢いよく雪の壁の側面に突き立てた!すると八つの内三つのドリルがそこに集中する!

「……やっぱりな……!」

 (赤だ……!奴は赤を探知の条件にしている!ドリルの先端から光を飛ばし跳ね返ってきた物のの波長だかなんだかで相手を識別してるんだ!)

「茶髪!お前かベージュ髪の荷物を寄越せ!」

「わかった!多分お前ならなんとかできるんだなこの状況を!」

 ラーヴァは茶髪男が投げた荷物を弱火で焼く!

「何やってんだテメー!?」

「俺の炎は……強すぎたんだ。超高熱の青い炎じゃ駄目だ!」

 荷物を焼く眩い赤い炎にドリルが集中する!

「赤の炎!それが俺達の突破口だ!」

「何!?バレたかクソ〜!……でもどうするよ?」

「……あ!確かに荷物が燃えてる間は安全だけど……無人ドリルは破壊できてねえぞガキ!」

 (クソ……ここから一つずつ煌牙竜殺爆炎掌を撃っていくしかないか!?さっきのを鑑みるに指一本残ればラッキーと言った感じだが……!)

 その時ラーヴァは体に今までに無い熱を感じた!

(いや……何だこの感覚!?血が巡る度に全身にほとばしるこの熱は!?薬の力でも火事場の馬鹿力でもないこれは!?そうかあいつのおかげで……今ならいける気がする!)

「前方豪炎噴……」

「さっきそれで溶けなかっただろ〜?」

「『狐火』!!」

 ボッ  ヒュウウウウ!

 ジ ュ ア ア ア ア  ……

 無人ドリルは前方に放たれた今までに無い超高熱の炎で全て溶かされる!

「はあ!?なんだそりゃ!?俺のデータにねえぞおおおおお!?」

 三号は雪の中から困惑と焦燥の声を漏らす! 

「俺の生命力を……そのまま炎に変える!そうする事で威力を大幅に上げる!これが俺の……新必殺だ!!データに書き加えとくといい!」

 「……後、それからもう一つ……《俺はラーヴァに降参した》ともな!」

「この野郎!ぶっ殺してや……」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ……

「「「!?」」」

 雪の空間が崩れ始める!

「……あ!そうかお前が春先みてえに雪を温めちまったせいで……雪崩が始まんのかあ!」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ……

「オイオイオイ!で、出口も塞がっちまったぞ!」

「クソ……やりすぎたか……!」

 「ディ〜ッ ディッ ディッ ディッ!勝負アリだな!グッバァイ 諸君。」

 三号は雪の深くへさらに潜り坂の下手へ移動した。

 (さて……恐らく連中はこのまま雪崩でおっ死ぬわけだが……。でもそれじゃ俺がやったって証明できねえよなあ……。一号は納得してくれるだろうが……二号と流回竜の奴は絶対納得しねえ。グチグチ言ってくるのが目に浮かぶぜ……。それにあんだけ煽られて直接バラせねえってのも癪だな……!)

「……ならよおやっぱ俺のドリルでぶっ殺すしかねえよなあ!!いくぜ変形!からの出力最大だ!!」

 彼は左手の残った指で右腕のドリルのボタンを押す!するとドリルが変形を始め両手でようやく持てるサイズにまで巨大化した!ドリルの円になっている部分には左手を通す用の穴も出現し、彼はその穴に手を通し全身で回転運動を開始した!

(出力最大なら雪崩の勢いにも逆らえる!その上ここで待ち構えとけば雪崩に巻き込まれたアイツラが自動で運ばれてくる!)

 ド ザ ザ ザ ザ !

 雪崩が本格的に始まる。三号もそれに合わせて体をくねらせ回転を加速させていく!

「必殺だ!回れ!貫け!!削り取れ!!!『ディギングダイアモンド』お!!」

 ジュイイイイイイ!!

 三号は雪崩に逆らい雪を掘り続ける!

「ホリリのリぃ!!グルグル肉ミンチにしてやらああああ!!」

 ド  ズ  ッ  !!

「当たったあ!!」

 彼が勝利を確信した瞬間だった。

 ビリッ ビリリリリリ!

 暗い雪の中突如として発生した閃光。三号の体にはドリルを通じて電気が流れ彼は全身がバラバラにされたかの様な痛みにより自分が死に瀕していることに気付いた。彼が貫いたのは恐らくベージュ髪男の荷物だったのだろう。

「い゙ぎっ゙ お゙お゙お゙あ゙っ゙」

 (痛え痛え痛え痛え!あのベージュ髪野郎の札かこれ!くそったれ!上に……上に逃げねえと!)

 三号は急いで方向転換し雪の中からの脱出を図る。

 ジュイイイイ…… モゴモゴモゴ ドッパーン!

「よっしゃあ! ハァ ハァ 外に出れ…… あっ」

 三号が顔を上げると出たそこにはラーヴァ、フリジット、データにない水色長髪の少女、茶髪男、ベージュ髪男(死体)の五人がいた。彼らはフリジットの作った氷の板にのり坂をかけ下り、雪崩の勢いに乗って三号に接近してくる!

「すまないラーヴァ君!おれは発見できなかった……!」

「気にしないでください!というか先輩氷でこんなものまで作れるんですね!かっこいいです!」

「私の耳と鼻で見つけたんだから私も褒めてよ!」

「ああ!お前の鼻とお前から得た力が無かったら死んでいた!幼老狐もありがとう!」

「……ワリい、フリジット。俺大人しくあの家にいるよ……。」

「ああ!よければ庭で『クアリア』君の埋葬を手伝ってほしいぞ!」

「ああ……。」

「先輩!奴を捕捉しました!」

「あ……あ……逃げなきゃ!」

 三号は逃げ出そうとするが肉体は麻痺し、もはやまともに動けない。

 ガシッ

 「ああっ」

「終わりだ!煌牙竜殺爆炎掌!!」

 キィィン……ボバ ボバ

 ボ ッ カ ァ ァ ァ ン !!

「ぎぃやあああああ……」

 下半身を爆発させられた三号は雪崩の中に消えていった。

「横にそれるぞ皆!」

「はい!」

 フリジットは雪崩の発生していない横の雪原に逸れていった。

 ドザザザザザ……

 雪崩の終着点は谷底であった。下半身を失った三号も当然谷底に落ちていく。

「覚えて……ろよ……必ず……お前を……。」

 ――幼老狐の家――

「はあー……死ぬほど疲れた……。」

「ご飯もう一回食べ直す?」

「お前の飯は二度と食わねえ!」

「じゃあお風呂にする?」

「覗かれそうだから嫌だ。」

「あはは……さっきはごめんね!久しぶりの男の子だったから意地でも私のモノにしたいな〜って思って!生き急いじゃった♡大丈夫♡覗いたりしないよ♡」

「嘘こけ……。」

「う〜んご飯にする?お風呂にする?ときて全部駄目だったから……」

「私にする!が正解だねこれは!」

「お前話聞いてたか?そのまま干からびて死ぬぞ俺……。」

「埋葬終わったぞ!二人共!」

「雪と土が混じった奴って何であんな汚く感じるんだろうな。……風呂入りてえ……。」

 庭でベージュ髪男の埋葬をしていたフリジットと茶髪男が帰ってきた。

「二人はお風呂行くみたいだけどどうする?」

「……じゃあやっぱりついてく。でも本当に覗くなよ!」

「はーいはい♡」

 三人は大きな浴場に案内された。水は天然水から引いてきているらしい。ラーヴァがさっと水を湯にしたのですぐに入れそうだ。

「当たり前の様に風呂もデケえなこの家……。」

「幼老狐の奴ここでよろしくやってたんだろうな……。」

 口ではそういうラーヴァだがジャニエルが来て以降久しく入っていなかったお風呂に実はかなり興奮していた。

「このシャンプーは自家製かな?凄い良い匂いがするぞ!」

「フリジットは体がデケえ分垢も凄そうだし、ガキはまともに風呂入ってなさそうだし、お前らちゃんと体洗ってから湯船つけよ。」

「お前も正直戦闘中脇臭かったぞ茶髪男。」

「それは脇腹の血の臭いだろ!」

「い〜やあの腐った様な臭いは血だけじゃないね。先生が言ってたな。こういうのはワキ……」

「命の恩人といえどそれを言ったら殺すしかねえぞガキ……!」

「二人共足滑らしたら危ないからここで喧嘩は駄目だぞ!」

 フリジットの仲裁もあり、取り敢えずはお風呂を堪能することになった三人。ササッと体を洗った茶髪男、意外と丁寧に洗うフリジット、お風呂に慣れていないラーヴァの順に湯船に浸かっていった。

「あ゙〜気持ぢ良い〜!」

「極楽だぞ〜……。」

「幸せ〜!」

 三人はしばらく心地良さに身を任せていたが幼老狐がいなくなったのでラーヴァがフリジットに質問をする。

「あっ……そういえば先輩の故郷に伝わってる言い伝えって結局どんな内容だったんですか?命の危険があるとかなんとか……まあ実際危険な奴でしたけど。」

「百万喰いのメグメグ伝説ってタイトルで……あどけない幼女にも可憐な美少女にも妖艶な熟女にも見える容姿で男性を巣に招いては捕食し、その男性の血肉で大地を耕すっていう……恐ろしくも偉大な地母神的な扱いの話だったな。ラーヴァ君が怯えすぎると良くないから話して無かったんだ。」

「捕食……ねえ。」

「婉曲表現ですね……。」

「ちょっとなにそれ!百万は流石に嘘だよ!」

「じゃあ何人だよ。」

「たったの12,503人!証拠のない話を広めるのはやめてほしいね本当!」

「へ〜って12,000も頭おかしいわ!」

「503人を抜かないでよラーヴァ君!!」

「え?ああごめん!……ん?」

 湯船にはさも当然かのように幼老狐が浸かっていた。

「……いや何浸かってんだお前!?」

「楽しそうに話してたからつい〜♡」

「ヒィィ 変態女にあそこ取られる!」

「逃げるぞラーヴァ君!」

「はい!」

 三人は急いで湯船を出ると体を拭き、服を着た。少しして幼老狐も出て来た。

 ―― ―― ――

 「……でもう真夜中な訳だけど、誰も寝ないの?」

「お前の前で寝られるかよ……!」

「ごめんってば!今度こそ大丈夫!絶対襲わないから♡ね♡」

「一日でここまで大丈夫の価値を落とせるの凄えよ本当……。」

「あ、でもお前らが見張ってんなら大丈夫か。俺は寝るぜ。」

 茶髪男は就寝した。

「うわそっか!おい俺達を置いて寝るなよズルいだろ!」

「……おれが見ておくから……ラーヴァ君も寝てて……いいぞ……。」がくっ

 傷が治ったとはいえ疲れまでは回復しきっていないフリジットは入浴後のポカポカとした心地良さに抗えず、眠りに落ちた。

「うわあああ!先輩まで……!」

「後は警戒心の強いラーヴァ君だけだね♡」

「絶対寝ない絶対寝ない絶対寝ない!」

「よしじゃあ睡眠導入マッサージをしてあげよう!疲労回復効果もあるよ!」

「マッサージと称していやらしいことするやつだろそれ!」

「だいじょ……え〜と安心して!今日やるのはそっちじゃない方だから!」

「言い方変えりゃ良いって話じゃないぞ!?てかいやらしい方のマッサージもあるのかよ!」

「それ〜♡」

 もみもみもみもみ……

「うあっ……。あ〜そこきくっ!あ〜……あ……。」

 すー すー ……

 ラーヴァはものの数分で眠らされてしまった。

「ふふっ♡……おやすみなさい。」

 ――朝――

「ふああ……よく寝た……。」

 ラーヴァは一番遅くに起きたようだ。フリジットはもう身支度をしている。

「先輩おはようございます!あれ?茶髪の男は……?」

「あの人は二番目に起きて、おれが起きてすぐの時に出発したぞ!もうおれ達を襲う意志は無いらしい!」

「本当ですかね……。あっ 俺もすぐに着替えて出発します!」

 ラーヴァは急いで身支度をする。フリジットより符術札の確認等必要な事が少ないこともあり、彼と殆ど同時刻に身支度を済ませた。

「よし!準備完了だな!」

「はい!行きましょう先輩!」

「ラーヴァ君が強くなる為にもこれからは私の仲間の所にも向かってこうね!」

 二人の間に幼老狐が挟まってきた。

「ん?ああお前ついてきてくれるのか?」

「この流れで私が味方にならないって事ないでしょ!二人が嫌って言ってもついてくからね〜!」

「何はともあれ新たな仲間を得られたな!次は学術都市アルパカへ行くぞー!!」

「はい!」「お〜!」

 こうして新たな力と仲間を得たラーヴァ達は次なる地へ向かうのであった!

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