第4話:人類最高戦力
ラーヴァの口から語られた絶望の記憶。ジャニエルの強大さそして悪辣っぷりにミアとビークの2人は絶句していた。フリジットは怒りに震えていたが、ラーヴァが話し終わったところで口を開いた。
「ジャニエルは……おれの仇でもあるみたいだ。」
「もしかして……2年前島に来てくれた人の中に……?」
「ああ。1級産業資格符術師ロックビン……2年前この島に行って以来行方不明になっていた……おれの符術学校時代からの親友だ。」
「木材ばかりで石材や鋼材の建物が少ない祖国に北方大陸にもない凄いものを立ててやるって……意気込んでて……。」
あの日ゴミのように一掃された人々にも家族や親友がいて、夢があった。夢の為に彼らは弛まぬ努力をし、勉学に励んでいたのだ。実際に話を聞いてよりその実感を持ったことでラーヴァの中でのあの出来事への怒りはより強くなる。4人はしばらく無言で犠牲者達に思いを馳せていたが、フリジットは話すことで過去を振り切る事が出来たのか小さくため息をついた後また話し始めた。
「……すまない。辛気臭い話をしてしまったな!おれ達がここに来たのは過去の話をする為じゃない!今ここにいる島の人々を助けるためだ!」
「そうだね!フリジットさん!後少年自警団の成り立ちについても聞けてよかったね!やっぱり彼らはただの敵じゃない!彼らも助けてあげないと!」
「辛く忘れたい事でしょうに、話してくれてありがとうございます。ラーヴァさん。もう私達がこんな事は続けさせません。ここで共に戦い終止符を打ちましょう!」
「……皆さん……。底抜けに明るくて、良い人……ですね!」
三人の熱気が届きラーヴァも元気を取り戻していく。
「……でも、ここからどうやって出れば……。」
「それなら大丈夫だよラーヴァ君!おらー!」
メキメキメキメキ
ビークは鉄より硬い物質の格子を軽々と曲げ、脱出する。
「え、ええ!?」
「皆のも開けるね!!」
ビークは1分もしない内に残り4人の部屋の格子も破壊する。
「言ったでしょ!ボク近接戦担当って!」
「わー!お姉ちゃんありがとー!」
眼鏡を掛けた男児が言った。
「あっいやボクは女の子じゃなくて……」
「また更新されてしまいましたね。ふふっ。」
「……皆さんはどうしてそんな強いんですか?」
自分の牢も壊してもらったラーヴァが質問した。
「え?それはね……」
三人は口を揃えて言う。
「おれ達は」「ボク達は」「私達は」
「「「この島を救いにやってきた人類最高戦力」」」
「だからだぞ!」「だからだよ!」「だからです!」
「〜ッッッ!!」
ラーヴァがカルマがヒーローが登場する寓話や物語が好きだったのがわかった気がした。こんなにも彼らはかっこよくて、安心できて、希望を与えてくれる存在なのか。正しく救世主だ。
「あんまり自分達で名乗るのは好きじゃないけど……やっぱり人類最高って言われると安心感あるでしょ!」
「ジャニエルは恐ろしく強いみたいだが……安心してくれ!もう対策はある程度考えてあるぞ!」
「さて皆さん、この少年自警団のアジト、誰が攻略しますか?」
「えーお兄さんたち全員で行くわけじゃないの〜?」
「はい。出来れば外にいる機械ドラゴン達の討伐と、並行して行いたいと思っています。先程の話から推察するにジャニエルは後5日間ここには来ないようですが……少しでも時間が必要なので。」
「ふーん。」
「そういえば君の名前は?」
「あっボクはね、『グラス』っていうんだ!」
「グラス君って言うんだね!よしじゃあ小型ドラゴン討伐チームはグラス君を村まで送り届けるのを第一目標にしよう!この閉所での戦闘に巻き込まれたら危ないし!」
「それもそうだな!」
「2と2で分けるとして……ラーヴァさんはやはり少年自警団の……カルマさんとお話ししたいですよね?」
「あぁまぁはい!」
「では、パートナーを選択してもらってもよろしいでしょうか?」
「分かりました!」
(おそらく三人の誰を選んでも少年自警団の攻略は何とかなる……でもフリジットさんの冷気やビークさんの怪力は少々調節が難しそうな気がする……ここはやっぱり)
「ミアさんでお願いします!」
「分かりました。よろしくお願いしますね、ラーヴァさん。」
「女選んだ!ラーヴァお兄ちゃんえっちだ!!」
「いや!違う!これはきちんと考えた上の選択で……。」
「ミアさんみたいなきれいな女の人に応援されたらやる気出るもんね……。」
「ちょっ ビークさんまで!」
「まぁ広範囲を高速で進むのはおれとビークさんの方が向いてるからな!いい選択だぞラーヴァ君!」
「あっそうですそうです!そういうのを考えてなんです!」
「カルマ君も幼馴染が彼女連れてたら気になって出てくるだろうしな!」
「いや見せびらかしたいとかじゃなくてー!」
「こら。皆さんからかい過ぎですよ。」
「ごめんなさーい」
「ごめん。言い過ぎちゃったねラーヴァ君。」
「いやおれは純粋に作戦として……」
「言い訳無用です。」
「すまん!ラーヴァ君!」
「いや、そんな大丈夫ですよ!ま、まあ!とにかく行きましょうか!ミアさん!」
「はい。」
二人はスタスタと牢のある部屋から出ていった。
「あー行っちゃったお兄ちゃん。」
「よし、おれたちも行くか!」
「あれそういえばここ一番上の部屋だけどお兄さんたちどうするの?」
ボカーン!
ビークは壁に穴を開ける。高所の涼しい風が部屋に入ってくる。
「え……嘘だよね!?」
「ボクが抱っこして降りるから大丈夫だよ!」
「おれが落下の勢いを落とす術を使うから大丈夫だぞ!」
「う……うそ ヤダーッ!!」
二人の男と一人の男児は地上4階から飛び降りた。
「なんか悲鳴が聞こえるんですけど、大丈夫なんですか……?」
「大丈夫ですよ。特にリーダーは災害救助のエキスパートだったみたいですから。」
「はえ〜」
「……団員達が迫ってきていますね。」
「『攻撃聖術・影裂きの聖剣』そして『強化聖術・一眼の下一丸に』。」
「妙な音がすると思ったら何事だ!?」
「いたぞ!あれでも動かない……?」
監視担当の団員達が続々やってくる。ミアは敵の前で膝をつき、祈り続ける。
「な、何の音だったん……」
「『攻撃聖術・裁きの威光』。」
ピカーッ
「「「ぐわああああ!」」」
「うううう……」
「目がぁぁぁぁ」
「光による攻撃ですか!?」
「はい。非殺傷の術です。全方向に自動発動していますから奇襲対策もバッチリです。どんどん降りて行きましょう!」
「はい!」
かつかつかつ……
――アジト2階――
「大変です!プリンス団長!カルマ副団長!」
あのおしゃべりな男平団員が団長室にやって来た。
「焦りすぎるな。何があった?」
「天空牢にいたはずの三人が何処かに消え、残り二人も牢屋の中で固まっており、まばたき一つしていません!しかもその上非常に強い光を発する何かが動いているのですが術者と思われる人間の姿が見えません!」
「なんだぁそりゃあ!?そいつらは4階から降りてきてんのかぁ!?」
「はい!現在3階にいる団員が対処していますが光を見るだけで皆倒れてしまう上、何故か相手はこちらからは見えないのにこちらの位置が捕捉できるようです!そういう仕組みの場所でもないのに!私としてはおそらくあの光は偉大なるプリンス団長が持つあの術……呪術の近縁の術によるものかと思います!姿を消す術もそうでしょう!」
「解説ありがとね♡長ぇよハゲ。一行でまとめろ。」
「なっ仲間に対しても辛辣っ!?」
「理解した。3階の団員は全員下がらせてくれ。1−2階間の階段にロックをかけるのも忘れずにな。」
プリンス団長は目を閉じ神経を尖らせる。呪術に理解があるものは呪力で人を何となく察知できるのだ。
「光を発している……あぁ確かに二つ呪力の人の形が見えるな。背丈からいって片方はラーヴァか。ラーヴァでない方……呪力の強い方は僕が対処する。ラーヴァの方は……」
「オイラにケリをつけさせてくれぇ。団長。ラーヴァの奴も多分オイラを狙ってくるだろうからよぉ……!」
ニヤニヤしていたカルマ副団長の表情はラーヴァの話を聞いて急激に真剣なものへと変わる。
「わかった。使うのはあの部屋でいいな?」
「あぁ!待ってろよぉラーヴぁ……!おい、お前らぁ!槍持って付いてこい!」
「ハッ!しかしあの部屋は我々が一方的に攻撃する事が出来る仕組みになっていますよ!?因縁の相手と正々堂々勝負するには向かないのではないでしょうか!?」
「お前らを呼んでる時点で正々堂々タイマン勝負じゃねぇのは分かりきってんだろうがぁ!いちいち指摘してんじゃぁねえぞぉ!」
「も、申し訳ありません!」
「まっ、行きましょ副団長♡……団長の方見たかったな……。」
ざっざっざっざっ……
三人は団長室を出ていった。カルマの手にはあの後修理したお手製の変形武器、二人の平団員の手にはシンプルながら抜群の鋭さと子供が持てるよう軽量化が施された槍がある。プリンス団長は自室にまだこもり、自身の剣の状態を確認し、戦いに備えていた。
――アジト3階――
「「「ぐわあああっ!」」」
「凄い……想像の十倍くらい楽に進んでる……。」
「!ラーヴァさん!伏せて下さい!」
ミアはラーヴァの肩を両手で握り、屈伸のような姿勢を取らせる。
ビシュ!
壁の穴から矢が飛び出してきた。壁は相当硬いようで矢は壁に刺さらず落ちていった。
「うわっ 危ない!ミアさんどうやって……?」
「罠があるところは空洞になってますから、僅かに反響音に違いが出るのです。」
「同じ耳なのに気づかなかったです……。」
(滅茶苦茶頼りになる!ミアさんにしてよかった〜!)
尻を向けながら二人に近づこうとする団員などが現れるようになった頃、2階の階段がある方から先程の男平団員が指令を飛ばしに来た。
「皆さん!団長からの指令です!すぐに戦闘をやめて降りてきて下さい!繰り返します……」
団員達は次々と下に降りていく。
「……数で押すだけじゃ無理だと相手も察したみたいですね。」
「はい。本番はここからですね。」
「後、カルマ副団長の宿敵ラーヴァに連絡します!3階の中央部・2階への階段を基準として右向きに部屋があります!カルマ副団長が待っていらっしゃるので来るように、とのことです!とても狭い部屋ですから透明化してもそんなに効果ないと思いますよ!何より盛り上がりませんし!ちゃんとラーヴァと分かるように姿を現してきてくださいね!じゃないと勝負しません!」
「……追い詰められてる側なのに上からなの腹立つな……。」
「明らかに罠ですが……」
「……影裂きの聖剣を解除してください。ミアさん。罠でも、あいつらの思惑通りでも俺はアイツと決着を着けに行かないとなんで……!」
「分かりました。解除します。」
ピカーッ
「ギャーッ 目が痛い〜!!」
「あっ裁きの威光を解除し忘れていました……!すみません!解除!そして『強化聖術・健やかなれ肉体よ』!」 「すみませんありがとうございます……。」
ミアは基礎的な聖術をかけてラーヴァの目の状態を再生させた。数分してラーヴァは言われたところにある扉の前についた。
ガチャッ ギィィィィ……バタン!
部屋は両腕を水平に広げた成人男性が二人入れるかどうか程の狭い部屋だった。壁には無数の穴が空いている。しかしそれ以上に目を引くのは血痕だ。……どうやらカルマ達はこの部屋を使うのが初めてというわけではないらしい。
「まじかよ……カルマ……!」
「よぉ……入って来てくれたみてぇだなぁ?歓迎するぜぇ……?」
カチリ
ドアに鍵がかかる。
ジュッ
「!」
照明の光がいきなり消える。
「死を以ってなぁ!」
バシュ バシュ バシュッ!
暗闇の中三本の長物が飛び出す!
ギャリィン!
「わっ♡当たっちゃった♡おい誰だこれ。」
「自分です!ラーヴァには当てられませんでした!」
「あぁそうかぁ問題ねぇ。オイラのには当たったみてぇだからよぉ!」
「ぐっううっ……。腕が……。」
ラーヴァは左腕の二の腕の辺りを矛で突かれた。流血している。
(今の不意打ちで仕留めちまう気だったんだがな……致命傷を避けるとは運の良い奴!)
(一眼の下一丸に……解除してもらわなくてよかった。何となくだけど槍の来る場所が掴めた……!)
「よし次だぁ!!」
ボオッ
照明がつく。
「爆炎解放!」
ラーヴァは体に火を灯す。
「もうこれで暗闇にしても効果はないぞ!」
「へっ元からそれはビビらせる為の演出よぉ!二度は使わねぇ!」
(さて今度は……何処から来る!?)
ラーヴァは穴を覗いてみる。しかし穴の向こう側の様子は見えない。
「な……何だあ!?」
バシュ バシュ バシュッ!
「うおおっ!」
今度は間一髪で避けた。しかし槍を掴む前にすぐ引っ込められてしまった。掴む事さえ出来れば溶かし切れそうなものだが……
「次だ次ぃ!」
「ところでカルマ副団長!彼がこの穴から炎を送り込んできたら我々不味いのでは……?」
「!?」
ラーヴァは注目した。
「何の為の鍵だと思ってんだお前ぇ!それに鍵抜きにしても、あいつらここまで来るのに不殺だったんだ。どうせ殺しの覚悟はねぇ!」
ラーヴァが驚いているのは話の内容ではない。話が聞こえる場所である。動いている音は聞こえないにも関わらず、声の位置が変わっているのである!
「何だ!?穴からは相手の様子は見れないし、動いてる音も聞こえないぞ!?」
「困惑してて可愛いね♡死ねよブ……「説明します!この穴は監獄等で使われる斜め格子であり、我々の方からは視認できますがあなたの方からは視認出来なくなっています!この仕組みを使い看守達は囚人に見られないようにし、彼らの恐怖感を煽る事が出来たといいます!さらに!この部屋の中心を覆うこの通路の床面は防音設備とやらになっていて足音が聞こえなく」
「お前もう黙れ
「も、申し訳ありません!」
(じゃあ俺はさっきどうやって奴らを察知したんだ……?)
バシュ バシュ
「うおっ 危なっ!」
「……って二つ!?」
バシュッ! ずぶ……
「ぐっ!?」
槍を二つを避けた先を見透かす様な刺突。また最後の一人だけ突きのスピードが尋常で無い事を加味するにこれがカルマだろう。
「このっ!」
スカッ
当然矛を掴ませてはくれない。今度は右肩を刺された。
「次で決めるぞお前等ぁ!」
「はい!」
「頑張りましょうね副団長♡お前の策に付き合ってる時間ももったいねぇし。」
「お前も黙れぇ!」
「ハァ ハァ……。」
(集中しろ集中しろ!)
「……。」
「副団長!ラーヴァが静かになりました!……というか目を開けてません!耳も閉じてます!」
「死を受け入れたかぁ?よし最後の移動だぁ!」
(アイツラにはオイラが最後に喋ってから3秒後に槍を出すよう言ってある!……そろそろだ!)
バシュ バシュ バシュッ! ぱしぱしっ
「「「!?」」」
平団員二人の槍が掴まれた。
ボヒュウウウ!
「あわわっ 副隊長……槍が!」
「私のもやられちゃいましたぁ♡脳に目ん玉でもついてんのか気色わりぃ……。」
「脳に目か。あながち間違いでも無いな。……呪力だ。目が見えなくとも耳が聞こえなくとも呪力は視える……!」
(ミアさんの聴覚への集中力は一朝一夕で身につくものじゃない。これが今俺にできる全力だ!)
「……流石だぁ。やるじゃねぇかぁ。」
カチカチッ ガチャッ
「カルマ副隊長!?何処へ!?」
「別に逃げやしねぇよ。いや、寧ろ逃げてた事に向き合うっつうべきかぁ……。もう手出し無用だ。ご苦労だったなぁ。」
「ご武運をお祈りしてます副団長♡よっし仕事終わった〜待っててね団長……。」
カチッ ギィィィィ
カルマはラーヴァの部屋に入ってきた。
「よぉラーヴぁ さっきぶりだなぁ。」
「まさか真剣勝負をしにくるとはな。お前のその武器はこの狭い部屋だと取り回しが悪いんじゃないか?」
「それはどうかなぁ?」
カルマが武器をいじると持ち手の中心から二つに分かれ、それぞれが小さな鎌になった。
「武器の中に武器をさらに仕込んでるのか。」
「まぁなぁ。」
しばし沈黙。両者共に動かない。
「どうした?来ないのか?」
「……ラーヴぁ。お前が村に来てくれてホントに助かったぜぇ……。」
「何だよ急に。」
「オイラ達にも時間がなかったからよぉ……。あの出来事から……2年経つだろぉ?ジャニエルの奴の堪忍袋の緒も切れかけでよぉ。今月中にお前を捕まえられなかったら、オイラ達の村があった所を塵に帰してやるって脅されてたんだぁ。」
「……。」
「今ここでお前を殺せば、村は守られる。」
「何だよ。ハメ技の後は泣き落としか?」
「へへっ 手厳しぃなぁオイ。別にオイラ達に大人しく殺されてくださいって言ってるわけじゃねぇ。オイラ達にも負けられねぇ訳があるって言いたかっただけだ。」
「そうか。わかったよ。だがいつまでもお喋りする気にもならないな。……こちらから行かせてもらうぞ!」
先に仕掛けたのはラーヴァだ。前方のカルマへ前方豪炎噴を放つ。カルマは壁を三角蹴りして回避し、ラーヴァの背後に立ち回る。
「
両手の鎌を勢いよく振るうカルマ。ラーヴァはすぐに振り返り回避する。武器を下に下ろす形となってしまったカルマに勢いよく突っ込み手から熱を伝えていくラーヴァ。
ジュウウウ
「ギィッ があ゙あ゙あ゙あ゙っ!」
「このままゆっくり焼いてや…… !?」
カルマの左手が開いている!
「お前もう片方は」
ヒュンヒュンヒュン ザクッ
「へへっ どうだぁ
カルマは
「ぐっ」
ラーヴァの手の位置がずれる。カルマは攻撃の勢いが弱くなったところでラーヴァの腹を蹴る。
「おうらっ!」
ゲシッ
「ぐあああっ」
ラーヴァは血を撒き散らし壁に激突する。今までの傷からの出血もありすっかり部屋は血まみれだ。カルマは最後の一撃を入れてやらんとばかりに鎌を連結させ、ハンマーに変形させた。
「これでぇ……終わらせるぅ!頼む死んでくれラーヴぁ!」
「……俺が特訓してきたのは……何も殺す力を得るためだけじゃないぞ……?カルマ……。」
「何いってんだぁ!?」
ブオオオオッ!
カルマのハンマーが振り下ろされようとしている。ラーヴァの右手は力なく血まみれの床についている。
「殺さずに……相手を倒す力を得るためでもあるんだ。……『
ジジ ブッワァーッ!
ラーヴァの右の掌底から放たれる熱は部屋に飛び散った血によって伝わっていく。部屋の水分は一瞬で蒸発し部屋はサウナのように高熱の蒸気で満たされていく。
「あ……あああっあ……ぐぅ……」
高熱の蒸気を吸い込んだカルマは脳が一時的にオーバーヒートを起こし、思考力を失った。ラーヴァが部屋の隅に避けたにも関わらずそのまま気だるげにハンマーを振り下ろし、振り上げる気力も失いその場に倒れ込んでしまった。
「……これでよしっ と。」
ラーヴァはカルマが腰につけていたマスターキーのようなもので部屋から脱出し、因縁の二人の対決は想像よりも遥かに地味な決着を迎えた。……しかしそれこそがラーヴァの狙いであり、事実としてカルマの心の何処かに残っていたライバル意識を粉砕した。
――――――――――――――――――――――――――――――
「……副団長!カルマ副団長!」
パタパタ パタパタ
「ん……あぁ……」
「おぉ!目が開きましたね!お体は大丈夫ですか!?こうして風を送るとですね、体の周りの湿った高温の空気が飛ばされ、冷えた空気が送られることによって」
「あ〜何言ってるか理解できねぇ。やめろぉ。まだ頭がぼんやりしてっからぁ〜。」
「も、申し訳ございません!」
カルマは男平団員の膝の上で頭を回し、辺りの様子を確認する。ラーヴァはカルマ達の隣で座っていた。カルマが起きるのを待っていたのだろう。
「オイラはもう大丈夫だからよぉ布かなんか持ってきてやってくれぇ。あいつの怪我の止血に使うからよぉ。」
「ハッ!」
男平団員は何処かへ行ってしまった。女平団員はもとからいない。カルマとラーヴァの一騎打ちの最中にもう何処かへ行っていたのだろう。その場に残っているのはラーヴァとカルマだけだ。
「おいラーヴぁ……お前、すげぇ強くなったなぁ……。」
「お前も強くなってたよ、カルマ。」
「嫌味かてめぇ。こっちは殺す気でやってたのにそっちは不殺を貫いて、あまつさえ勝ってんじゃねぇか。」
「まぁそこは不殺の覚悟ってことでひとつお願いするぜ。」
「はははぁ……あーくそっ 4年前2年前に続いて……3回も分からされちまった。」
「オイラは……お前の隣に立てる……人間じゃねぇ……。」
「肉体も……精神も……敵いっこねぇ……!」
そこまで言うとカルマは涙を滲ませ始めた。ラーヴァはそんな事ないよとは口が裂けても言えなかった。彼が彼なりに導き出した結論さえ否定してしまう事は……戦闘が終わった今これ以上カルマのプライドを傷つける事はラーヴァにとっても避けたいことだ。
「……昼間は『もうやめろこんな事』なんて言ったけどさ……お前はお前なりに村を守ってたんだよな。あの子に殴って教えようとしたのもジャニエルが自分の文句を言うやつを粛清してるからだろ?」
「……まぁな。」
「それに……当時は裏切られたように感じたけど……今にして思えばお前達二人がジャニエルの下についたのは俺にとっては幸運だった。もしあそこで全員拒否していたら……きっと皆殺しにされてただろうし。俺はお前達を犠牲にして、自分の復讐心を見せびらかして我儘やってたんだ……。」
「そこまで頭回してあいつの下に行ったわけじゃねぇよぉ。単純に……これ以上自分達が足掻いたせいで誰かが理不尽に殺されるのを見るのは嫌だったしぃ……何よりアイツが怖かった。……オイラ達があそこに来れたのも、お前だけが看板を読めたからってことにしちゃったし……。」
「なぁ……ラーヴぁ……。」
「もう散々だせぇとこ見せたから言っちまうけどよぉ……」
「オイラ……もうこの組織しか……居場所がねぇんだよ。オイラが悪行してきたのは変えようのねぇ事実だしよぉ。もしお前の連れがプリンスを倒して少年自警団が解散になったら……オイラ生きてけねぇ。だからよぉ頼むよぉ……」
「オイラの事、今ここで殺してくれよぉ……!」
「それは……」
「それはいけません!副団長!」
男平団員が布を持って帰ってきたようだ。
「確かに副団長は人を殺してきた経験がありますし、後団の中でもうざ絡みが原因で嫌っている人もいましたが……」
「えっ オイ どういう事だそれぇ」
「副団長は色々自分達に教えてくれました!
槍の使い方や集団での戦闘法だけでなく、この国の歴史や、自然、動物についても!皆がやりたくない汚れ仕事もやってきました!たとえ団がなくなっても自分は副団長を副団長と呼びます!副団長は良いところもいっぱいあります!自分は死んでほしくないです!」
平団員が熱い思いを吐露する。ラーヴァが畳み掛けるなら今だと間髪入れずに話しかける。
「カルマ。お前が自分の事を俺の横に並べない人間だと言うのなら、お前の中ではそうなんだと思う。でも、お前が横に並んでくれなくなったとしても、俺にはお前が必要だ。先生を失った俺にとっての数少ない心の支えの一つなんだ。他にもお前を慕う人間はいるみたいだしな。……そして何より、ジャニエルを倒した後はとにかく知識人が必要なんだ。12歳までしか学校に行ってなかった俺たちでも、文字が読み書きできるだけで重要なんだ。」
「ジャニエルを倒すって……あの化け物をかぁ!?またあの日みたいに……」
「ならないために!俺は強くなってきたしお前が殴りかかったよそもんの人が……人類最高戦力の人達が来てくれたんだ!」
「頼む!カルマ!俺達を信じてくれ!そして……生きてくれ!!」
「……!!」
4つの瞳が絶えず少年に向けられる。
「……わかったぜぇ!オイラがどこまで役に立つか分かんねぇけど!償いにもならねぇかも知んねぇけど!生きる!生きて足掻いて苦しむぜぇ!」
「「……!!」」
「よかったです!副団長!」
「お前も……いつもありがとなぁ……!!」
二人は抱擁を交わしている。
(俺の怪我完全に忘れられてるな……でもまぁいいか。)
(こっちはなんとかなった。後はプリンスとミアさんか……。)
――アジト2階――
かつかつかつ……
階段を降りてきたミアの前には不思議な光景が浮かんできた。呪力を持ったリング……いや、人間によるリングが出来上がっているのだ。その中心には他を圧倒する呪力の持ち主……プリンス団長がいた。
「ん……?全方位への光の術は使っていないのか?」
「はい。あれは安全に道中を進みつつ、あなた達団長、副団長を引きずり出す為の作戦ですから。」
「なるほどな。透明化の術だけ使って暗殺に来なかったのもあくまで真剣勝負をするためか。」
「ええ。ただあなた達を倒せればいいという事でもないですからね。貴方が呪術師であり透明化等という小細工が通用しない事も知らされていますし。」
「……ラーヴァが伝えたことか。でもそれはおそらく2年前の情報だろう?今情報を更新させてやろう。僕の血継呪術はあの時以上に強化され、今では右手から光線を放つことも出来るようになっている。」
(呪術師の常套手段・情報開示ではないようですね。呪力出力の強化補正が発生していない……。)
「その情報開示で貴方は有利になっていないようですが……今の行為にはどの様な意味が……?」
「何の思惑もない。そのままだ。強いて言うならそちらの真剣勝負を望む姿勢に応えるため、といったところか。」
「実際に公平である必要は無いが……こうした真剣勝負には公平感が必須だ。そちらに勝負の結果に納得して貰うためにも、団員達に示しをつけるためにもな。僕は血継呪術の強化の為こうして団員を囲っているわけで……そのままでは不公平だろう?だから情報開示をした。後はついでに、僕は戦闘中そちらの質問に全て答える事を約束しよう。」
「団長かっこいい〜!」
「さすがだ〜!」
「愛してる〜!」
……途轍もない人望だ。血継呪術もさぞかし強いだろう。
「ふむ……そうですか。そちらがついでで縛りを足すならばこちらからもひとつ。私は今この場にいる他の団員達に向かって裁きの威光を使うことはしません。私は目が見えていませんが……先程の反応から察するに団員達は目隠しか何かで光対策をしているのではないでしょうか?」
「うわっ 当てられた!」
「相手もヤバそ〜!」
「それでは応援しづらいでしょうから、外してもらって構いません。皆さんにしっかり見てもらって、これが正当な決闘である事を証明してもらいましょう。」
「わかった。皆目隠しを外してくれ。……僕達の戦いに刮目するように。」
ウオオオオオッ!!
会場は大盛りあがりだ。互いに術の準備を始めた。今、呪術対聖術の戦いが幕を開ける――!
ぼくのかんがえたゆーとぴあ 炎氷雷 筋毒 @daiou12213069
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