第2話:少年自警団

早朝。穏やかな海原。木製の大きな船が島に接近する。

「み、ミアさん、フリジットさん、島が見えてきたよ。」

 身長150センチほどの小柄な者の発言だ。オレンジ髮で、左の横髪を編み込んでいるこの者はその背の低さも相まって小動物のような可愛らしさを醸している。

「4年前の一件以来……完全に外界との接触が絶たれていたわけですが、彼らは私たちを受け入れてくれるでしょうか……?」

オレンジ髮に呼ばれて顔を出してきた銀髪の女はこれから上陸する島の事で憂いているようだ。

「奴らを倒したいという思いは同じだと島の人達を信じましょう!ミアさん!」

 同じく顔を出してきた黒髪褐色の巨漢が女を励ます。

「……そうですね。」

「フフフ、フリジットさん!島で、ヤドカリみたいなのと交戦してる人がいるよ!」

 焦った様子でオレンジ髮が報告する。

「船の操縦は私と、リーダーに任せて下さい。」

 女とオレンジ髮が巨漢の方を向く。巨漢は大きく頷くと海に向かって飛び出した。

「ありがとう、リーダー、ミアさん!

 符術装着!『冷却・脚部フロストロード』!」 

 巨漢が靴の裏に札を貼り付け、札に浮き出た紋様を押すと足先に氷の刃が出現し、太腿の辺りまでが薄氷で覆われた。海に足が着くや否や、辺り一帯は凍りつき、氷の道ができた。巨漢はスケート選手さながらに高速で滑り島に向かっていく。

「フリジットさんのあの技、かっこいいなぁ……。」

 オレンジ髮はそう独り言を言って、巨漢を見送った。

─ ─ ─

「くっ……次はどうくる……!?」

 交戦している人とは、16歳にまで成長したラーヴァである。敵対する危険生物は硬い殻には入らず、その殻を使ってラーヴァを押しつぶそうとしてくる。

「喰らうかっ」

 ラーヴァは足をジェットのようにして飛び、回避する。あの日から特訓を続け直線的な移動はもちろん、自由自在にカーブをつける事も可能になった。危険生物の上空に移動すると、右手を真下に振り下ろす。

「『前方豪炎噴』!」

 超高熱の炎は青く輝きものの数秒で殻を溶かす。しかしこの相対する危険生物『首切りかむな』も愚かではない。殻を即座に捨てるとラーヴァと距離を取り、浜辺の岩を断ち切って硬い殻に変えていく。あの大鋏に挟まれたら最後、ラーヴァでも抵抗できずに両断されるだろう。安易に近づくのは愚策と考えたラーヴァはまた相手の方から接近してくるところをカウンターしてやろうと様子を伺っていた。しかし首切りかむなは体液によるマーキングするとその殻を海に投げ捨てた。

「くそッ まさかメスか!?」

 ラーヴァの勘は的中する。メスの匂いの付いた殻を被って、オスの首切りかむながでてくる。メスの方も体高3メートルはあったがオスはそれ以上に大きい。彼ら独特の『配偶者ガード』をしていない為番ではないようだが傷つけられたメスを見たオスはすっかりラーヴァを敵として認識したようである。数的不利となったラーヴァ。二匹の首切りかむなはすぐさま猛攻を始める。

 ジャキン ブオッ ギャシャン ギャシャン

「ふっ なにっ ひっ うわわっ」

 オスとメスで若干体高が違うのが効いてきている。殻がなく身軽なメスが仕掛け、ラーヴァはそれを回避する。しかし背の低いメスの攻撃を凌げる高さではその後来るオスの一撃を防げない。結果ラーヴァは一度エンジンを切ってからまだすぐかけ直すかのようなエネルギーロスの大きい動きを強いられている。

「それなら最初から……

 ゴンッ

「いぎっ」

 最初から高い所へ行き過ぎるとオスは近距離攻撃をせず、辺りの岩を掴んで飛ばしてくる。俊敏性で上を取っているラーヴァではあるが、スタミナ勝負では完全に相手に分がある。前方豪炎噴もある程度近距離でないとオスの岩の殻を突破出来ない。

「まずい……このままでは……。」

 そんな時だった。

「そこの君!そのヤドカリから離れてくれ!」

「誰!?」

あの巨漢がやってきた。

「符術解放!『凍結・放射コントラクトブリザード』!」

ビ ュ ゴ オ オ オ オ !

 彼は海上から半径50センチほどにまで圧縮した吹雪のような冷気を直線状に放射している。厳密には光ではないようだが、見た目上は冷凍光線という表現がしっくりくるだろう。

 オスの判断は速かった。体を回し岩の殻で冷気に被曝する表面積を減らしたのだ。

「うおおおお!?か、体が凍りそうだ……!」

 最短距離で攻撃から7メートルは離れているであろうラーヴァですら凍えそうな冷気だった。冷気の勢い、そして何より超低温によりラーヴァの足の炎は掻き消えてしまった。ラーヴァは目が開けられない中で咄嗟に受け身を取り、着地する。

 目も開けていられないような冷気が過ぎ去り、ラーヴァは様子を確認すべく目を開けた。

「……ッ!!」

 ……岩で防いでいたにも関わらず、オスの体は完全に凍結していた。岩からの熱伝導ですら彼を殺すには十分であった。水から氷になり体細胞内の水分子の体積が大きくなったために肉体は一部破裂し、自重と岩の重みに耐えられなくなった氷塊は脆く砕け散った。メスは直接攻撃を受けなかったため、辛うじて死を免れたようである。しかし一切動かない。すでに自慢の左の鋏は壊死して黒変してしまっている。ラーヴァはすかさず攻撃を繰り出す。

「『前方豪炎噴』!」

高熱で首切りかむなのメスを焼き払う。メスには一切抵抗されず、結果ラーヴァ達は首切りかむな2体の討伐に成功した。巨漢は上陸し、足に発動していた符術を一際太い符術符を操作して解除するとラーヴァに駆け寄ってきた。

「すまない!君にも余波が来てしまった!」

 巨漢はぺこりと大きく頭を下げる。

「いえ……あなたが来なかったらどうなってたか……助かりました。寧ろ感謝を伝えたいです。」

「そうか!?どういたしまして!」

 巨漢は爽やかな雰囲気を醸し出している。海を走ってきたからかかなり汗ばんでいるが、それすらも快活な男としての印象を作るのに一役買っている。ラーヴァは巨漢の顔をしばらく見ていたが、島民でないとすでにわかっていながらも質問をした。

「あの……ところで今……あなた海から来ましたよね?それも、その不思議な札を使って……もしかして……あなたは島の外から、来た人ですか……?」

 巨漢はラーヴァの質問の意図を完全に読み取ることは出来なかったが、ラーヴァを警戒させないよう身につけている武器である符術符を全て外し、先程までより少し落ち着いた声で話しかけた。

「ああ、そうだ。おれ達はこの島の人々をドラゴンから解放するために来たんだ。」

「……!やった……やっと助けが……来てくれた……!」

 嬉し泣きするラーヴァだが表情にはそれ以外の……不安の色もあった。巨漢は岩陰にラーヴァを座らせ、背中をさすってやった。

「やっぱり……ドラゴンに苦しめられてきたんだな。大丈夫だ。おれ達は味方だぞ!」

「ハイっ ありがとうござ……ひっひぐっ うっうっ

 うっううううっ……ふぅ、ふぅ……。」

 少し落ち着いたラーヴァは巨漢の発言を思い出し、巨漢に質問する。

「おれ『達』ってことは他にもお仲間がいらっしゃるんですか……?」

「ああ!おれよりももっとすごい人が2人がな!船でこの島に接近してるから……」

 ラーヴァの顔色が急に青ざめていく。

「やばい……ジャニエルに見つかる!」

「もしかしてここのドラゴンは巡回してるのか!?」

 二人は話しながらすぐに準備し海を見てみる。するとラーヴァの予想通り、船は襲撃されていた。すでに帆は折れ、右側から浸水し始めている。2つ人影のが慌ただしく動いているのが肉眼でもなんとか見える。すぐさま冷却・脚部フロストロードを発動しようとする巨漢。しかしラーヴァがそれを止める。

「もう……手遅れ、です……。」

「何を言ってるんだ!まだ

――一瞬、島全体の風が全て止んだかのように感じた。そして次の瞬間

 スバ……スバスバスバスバスバスバスバスバ

 船を一撃で両断するような風が数え切れないほど、大量に浴びせられた。ほんの1秒すら船の形を保つことが出来ずにかつて船の一部だった木材たちは海にばら撒かれた。

 ラーヴァの表情が巨漢に会う前の頃のように曇る。

 ……しかし巨漢の方は真剣な表情で海を見つめたままであった。ラーヴァの方を見ないままであるが彼を励ます言葉を巨漢は掛けた。

「2人は……死んでない。もうじき、来るぞ!」

 ラーヴァはあの風の恐ろしさを十分過ぎるほどに知っている。半信半疑、イヤ、ほとんど無理だろうと思っていたが、巨漢とともに海を見続けてみた。

「……嘘、だろ……?」

 ズモモモモモモモ バッシャーン

 海に影がかかったかと思うとオレンジ髮と銀髪の女が海から飛び出してきた。

「し……死ぬかと思ったよ……。」

「すみません、目をつけられてしまいました。」

 唖然としているラーヴァに巨漢が自慢気に話しかける。

「なっ!言っただろ!2人は死んでないって!」

「はい……!あっ 皆さんあっちの小屋へ……そこで色々話をしましょう!」

 ラーヴァは海から出てきた2人の服を乾かす為、そしてこれからの事について話し合うため3人を浜辺の掘っ立て小屋に案内した。

「すいません……ボロくって。あっ俺が作ったボロい服ですけどよかったら……。」

ラーヴァは麻で作った服をずぶ濡れの2人に渡す。

「ううん、全然ボロくなんかないよ!それに服も……ボクにはちょっとブカブカだけど……ほつれも少ないしとってもいい感じ!」

「それに作戦会議をするならバレづらい小屋の方がいいしな!」

「皆さんすみません、この小屋に仕切りはありますか……?」

「あ……着替えないとですもんね。左手の方に仕切りがありますよ!ミアさん!」

 オレンジ髮がラーヴァ達側から返事をする。疑問に思ったラーヴァがオレンジ髮に質問する。

「あれ、あなたもあちら側じゃなくて大丈夫ですか?」

「ええっ そんな事したらセクハラになっちゃうよ!」

「あっ……男なんですか!?てっきり女かと……。」

「ふふっ 連続記録更新ですね。」

「うぅ……やっぱこの編み込みやめたほうが良いかな……?」

「編み込みする前から続いてますよ?」

「あうぅ……。」

「まあでもカッコイイし可愛いし、リーダーはいいとこ取りって事だな!」

 (これが、男……?銀髪の女よりも背も低かったのに……?)

 オレンジ髮の男に少し懐疑的な視線を送っていたラーヴァだったが彼の裸を見てその考えは一瞬で改められる事となる。

「うおっ すげぇ筋肉……!」

膨らんでいるように感じた胸部は乳房でなく胸筋であった。細い線をした顔面とは逆に、肉体には文字通り太い線が大量に走っている。ラーヴァは筋肉の密度というものを否応なくわからせられた。男は下着も含め、服を全て脱ぐと巨漢に日当たりの良い所に干してもらった。その後すぐ仕切りの向こう側から黒を基調とした、女の修道服が送られてきた。これも巨漢が干してやった。乾かしただけで潮の匂いが取れるとは思えないが濡れたままの服を着用すると体温が冷えすぎてしまうため少しでも乾かすほかない。銀髪の女が着替えたといったのを聞いて

「そういえば、自己紹介がまだだったな!」

 と黒髪褐色の巨漢が言い、自己紹介をする流れになった。

「おれは『氷の符術師 フリジット』だぞ!君にもさっき見せたようにこの札を使って遠距離攻撃やサポートをするのが主な仕事だ!」

 (二つ名ついてるのかっこいいな。)

 ラーヴァは自分の順番が回ってくる前に二つ名を考える事にした。次に銀髪の女が服を着たため、壁伝いに歩き仕切りの向こう側から出てきて話し始めた。

「では私も……私は『見えざる一閃 クレイ・ミア』……と呼ばれています。『呪術』の派生……とも言える『聖術』を得意としていて、主な役割は強化によるサポートと、斥候です。」

「「そして我らがリーダーは……?」」

「えっええっ 二つ名も言うの!?これ!?」

「私も恥ずかしい思いをしましたので、お願いしますよ、リーダー。」

 ((え、二つ名って言うの恥ずかしいのか!?))

 ラーヴァとフリジットの気持ちが一致した瞬間であった。リーダーと呼ばれるオレンジ髮の男がどもりながらも話し出す。

「え、えっと、あの、そのぉ〜……ボクはっじ、『人類の希望 カーマイン・ビーク』ですっ!!……これ自分で言うの恥ずかしいよ〜!あっ役割は接近戦のアタッカーです!」

恥ずかしがるビークをミアが頭を撫でて労う。

 (あれ……仕切りは見えてなかったのに人は見えてるのか……?)

 疑問に感じたラーヴァだったが、自己紹介の流れを遮ってまで聞こうとは思わなかった。

「じゃあ最後に……俺は『爆炎の ラーヴァ・ジェノサイド』です。生まれつき炎を出して操れる体質です。ドラゴンを倒したい気持ちは誰にも負けない自信があります!」

 (なんか俺も恥ずかしくなって結局シンプルな感じで済ませてしまった……。)

「生まれつき!?呪術の一種なのか!?」

「あ、いえ、自分でもよくわからないんですけど、その呪術ってやつでもないみたいです。」

「それはまぁ。……少し似ていますね……。」

ミアは何やら含みのある言い方をした。

「そういえば、何であんなヤドカリと戦ってたの?」

「ああ、あいつらたまに村に来て荒らしてくことが有るっぽくて……。あと、今回はかなり大型で危険だったからそんな余裕なかったんですけど、意外と食べると美味しくて。」

「あそこまで氷漬けにしなければ大きい方は食えたかもな……すまんラーヴァ君!」

「いえ、気にしないで下さい。あぁ、そうだ、こっちからも質問があって……。」

 お互いの名前を覚えたため先程までよりも会話がよく進んだ。こんな心から笑って話すことができるのはいつぶりだろう……そんな事をラーヴァは考えていた。2,30分ほど話していた4名だったが話したいことをある程度出し尽くした後、ビークが真面目な表情になり、本題について切り出した。

「ラーヴァ君、この島の人達とも協力したいから近くの村辺りを案内してもらっても良いかな?」

「……!」

 ラーヴァは現実に引き戻された。少しばかり沈黙していたラーヴァだが、避けては通れない話だったので、目線を少し下げながら、話し始めた。

「村の位置は教えられますが、俺は今島中で指名手配されているので、堂々と案内することは出来ません……。」

「え!?何でだ!?ラーヴァ君は村を守ろうとしてる良い人なのに!?」

「指名手配というのはあのドラゴン以外にも狙われているということですか?」

「はい。あのドラゴン……ジャニエルのせいではありますが、ジャニエル以外にも、『少年自警団』という組織にも狙われています。後、おそらくよそ者の皆さんも命を狙われるかと……。」

「そうか!わかった!じゃあ行くぞ!」

「えぇっ!?フリジットさん話聞いてました!?」

「おれ達だけでなくラーヴァ君も命を狙われてるなら皆で隠れていけば良いってことじゃないか!それに、その自警団の人達も仲間にしたいしな!いずれは会って話さないとだ!」

「村人の中に、ラーヴァ君の協力者っていない?」

「……一人だけいます。」

「ならまずその子に会おうよ!少年自警団について色々教えてくれるかもしれないし!戦うにしても仲間にするにしても相手を知らなくちゃ!」

「隠密でしたら、ぜひ私にお任せを……。」

「……そうですよね。こんな所で時間を潰しているわけにはいかないですよね!村へ行きましょう!」

 ラーヴァは困惑しながらも頼れる仲間を得られたことに歓喜していた。服はまだ乾いていなかったのでジャニエルに見つからないよう掘っ立て小屋の中にしまい、4人は村を目指して動き出した。

 ――――――――――――――――――――――――――――――

「えっとまず……この浜辺から一番近いのはかつて王都があった所なんです。」

「『臨海王都アセテート』ですね。『肉傘海月』が名物としてこちらでも有名でした。」

「はい、まあ今は……。」

 右手を見るとそこは瓦礫の海だった。恐らく破壊されたときからなんの復旧作業も行われていないのだろう。

「……酷いね。」

「はい。……あの風のドラゴン、ジャニエルは文明的なものを酷く嫌う奴なんです。発展していた王都は最初に潰されたみたいです。」

「……。」

 あの明るいフリジットが何やら辛気臭い表情をしている。ほか2人もこの惨状を見て良い気持ちではないだろうが先程までのギャップも相まってラーヴァには印象的だった。

「ここまで来ると……町があったところですね。此処から先は人が住んでますから、自警団の連中を意識しないと……。」

「では、私の出番ですね。」

 そう言うとミアは地面に膝立ちの状態になり祈り始めた。

「……『攻撃聖術・影裂く聖剣』。」

 ズバン!

 ラーヴァは一瞬全身に衝撃を感じ、視覚を失った。

「な、何が起きて……!?」

「私たちの影を切り離しました。本来はそこに潜む悪霊の類を攻撃或いは一時的に隔離するための術ですが……応用として影をその場に留める……すなわち私たちの像をここに置き去りにする事ができます。」

「端から見るといきなり地面が凹んだり、食べ物が消えたりして面白いぞ!」

「凄い……。でもこれじゃ俺たちも何も見れないですよ!?」

 慌てて走り回るラーヴァ。

「そこに誰かいるんかー?」

「まずっ」

 ラーヴァは町の人に声をかけられ、姿が見えていないのに一目散に逃げ出した。

「はぁっはぁっここまで来れば……。」

「対策は有りますから、逃げないでください、ラーヴァさん。」

「えっ!?」

 すぐに3人に見つかったラーヴァ。

「少し止まっていてください。『強化聖術・一眼の下一丸に』。」

 ボアァ……

 彼女が術を唱えるとラーヴァは急激に聴覚が良くなっていき、そしてぼんやりと人の位置が分かる様になった。不思議なもので、顔を下に向けたままなのに自身の目の前に3人がいる事がわかった。脳で見ている……とでも言うべきだろうか。男子2人に比べて中央にいるミアの方がくっきりと知覚出来る。

「感じますか?それが私が見て、聞いている世界です。」

「今の術はミアさんの目や耳を分けてもらったって感じですか?」

「私が見ているのは光でなく生物が持つ『呪力』ですが、そういうイメージで大丈夫ですよ。」 

「ミアさんの影裂く聖剣では声は別に消えないから、そこは注意してね、ラーヴァ君。」

「先程の人ももうどこかへ行ったみたいですから、探索を再開しましょうか。」

 再び歩き出すラーヴァ達。ミアは時折人の少ない所で舌打ちをしてクリック音を鳴らし、壁がないかどうかを確認している。ラーヴァは音で壁の位置を把握する初めての体験に少々興奮していた。

「私が舌打ちしていても、あまり気にしないで下さいね。」

「はい。……あ、そろそろ村ですね。」

「……なんか人が一列になって作業してるぞ?それも、やけに小さい……。」

「それは多分、米を作ってますね。やけに小さいのは……。」

「大人は、ほとんど殺されているからです。」

「「「……!!」」」

 重苦しい空気になる。表情が見えねども、3人が何を思っているかをラーヴァはすぐに理解できた。

「……許せないね。ジャニエル……!」

「あぁ。しかし、想像以上に被害は深刻だな。王都もあの有り様だったし、もしかしてこの島に現地の人の代表者はもういないのかもな……。」

「代表者というのは……強いて言うなら……

「おい、そこぉ、何の話をしてるんだぁ?」

……少年の声だ。すでに声変わりを迎えているようだが、大人と言うにはまだ高すぎるその声を無理に低くして話しているようだ。……ラーヴァはその声に聞き覚えがあった。

 少年の質問に対し、10歳にも満たない小柄な男児が答える。

「僕たち話してないよ!」

「じゃあ今の声は何だ!……ジャニエル様の批判をしていたのだろう?許せないだとか言っていたのは聞こえてるんだぞ!」

 少年は男児に殴りかかる。一番早く動いたのはフリジットだった。

 ガシッ

「……ん?何だぁ!?空気に……止められ……?」

「ミアさん、影裂く聖剣を解除して欲しいぞ。」

「ミアさん、俺のも……。」

「……はい。」

ミアは2人の影斬の術を解除する。まともな肥料もなく、食べ物も人も大きく育たないこの島ではまず見ない190センチ超えの巨漢の姿が露わになる。

「な、何者だぁてめぇは!?」

 驚き彼を見上げるのは金髪の少年。

「……やっぱりか……。」

 ラーヴァはそう呟いた。騒ぎに気づいた重装備の少年がこちらに近づいて来た。

「何の騒ぎだ?カルマ……」


〈少年自警団 団長 プリンス・ユーゲンハルト〉


「団長ぉ!明らかに島の住民でない者が!牢屋へ送り込みましょうぜぇ!」


 〈少年自警団 副団長 カルマ・スミス〉


「今、話していたのはおれ達だ。不愉快に思ったなら詫びる。だからその子へ振り上げた拳を下ろしてくれ。」

 フリジットは淡々と話す。

「黙りなぁ よそもんっ!」

カルマは振り下ろす先を子供からフリジットに変え、彼の腹を殴りつけた。ゴッと重い音がするがフリジットの腹筋もよく鍛えられている。殴りかかったカルマの方がかえってダメージを負った。

「いってててて……っておい!そこにいるのは指名手配犯のラーヴァじゃねぇかぁ!」

 カルマはラーヴァの存在に気づいた。先に相手を認識していたラーヴァが思いを吐き出す。

「カルマ……お前いつまでこんな事やってんだ!それにそんな子供に手をあげるなんて……。もうやめろ!」

ラーヴァは怒りと、それよりたくさんの悲しみをもってカルマに訴える。

「いつまでこんな事だぁ?それはこっちの台詞じゃボケぇ!この指名手配犯!それになラーヴぁ!これくらいのガキってのは痛みがねぇと覚えねんだわぁ!」

「カルマお前……!」

 一度隠れて協力者に会うという当初の目標を忘れてヒートアップしていくラーヴァ。

「……もうボク達だけ隠れてても意味ないね。」

「……そうですね。」

 2人も術を解除し、先程までいなかった人間が突如合わせて4人も出現し辺りは混乱で満ちた。

「う、うわあ!また人が生えたぁ!?」

「もうよい、下がってくれカルマ。」

 カチャカチャカチャカチャッ

 団長と呼ばれる人物はものの数秒でラーヴァの腕に手錠を嵌めた。

「おい、お前達。こいつらを地下牢へ運んでくれ。」

「「ハッ!」」

他の少年自警団の団員に連行されるラーヴァ達。ラーヴァだけは抵抗しようとしたが、他3人の様子を見て、一度従順に従う事にした。

 ――天空牢――

「お前はここだっ入れっ!この牢屋はジャニエルの作った特別製……10億度?の超高熱でも溶けないんだぞ!出ようとなんて思うなよ!」

 ゲシッ

「痛った……。」

 男子の団員に牢屋へ蹴り入れられるラーヴァ。

「こんな島に辿り着くなんてかわいそうに……♡ジャニエルが次来たら始末されちゃうね……♡それぞれ別室にいろ。恩赦はねえ。精々最期の瞬間まで祈りを捧げるんだな。」

 残りの3名も女子の団員に牢屋へ入れられた。

「おい、辛辣すぎだろっ!」

「だって事実でしょ♡あの人一人も許した事ないもん♡いやマジで怖すぎ……さっさと死ねよあのジジイ……。」

 おしゃべりな団員たちはすぐに何処かへ行ってしまう。それぞれ個室に入れられたラーヴァ達だが幸い会話は出来る状態だ。

「すまない!ついおれがカッとなってしまって……。」

「謝る事ないよ。フリジットさんのした事は合ってるって、ボクは思ってるもん!」

ビークはフリジットを擁護する。

「はい。大丈夫ですよフリジットさん。それに……怪我の功名とでも言うべきか……。」

「その声は、ラーヴァ!?ラーヴァもつかまっちゃったの!?」

「俺の唯一の協力者も捕まってたみたいですから。」

「「「!!」」」

「ラーヴァさんの……協力者さんが……!?何故……?」

「えっとねーメガネかけてるとこ、あの怖い人たちに見られちゃってねー。それで、メガネは……えと……」

「眼鏡を掛けてる人間は知識がある人間のはずだという考えで捕まえておくように言ってるんだと思います。ジャニエルの奴は。」

7,8歳位の緑髪の男の子の発言をラーヴァは補強する。

「ひどい偏見だね……。眼鏡は視力矯正の道具なのに……。」

「はい……。結局アイツも、俺たちに知識があるかどうかなんて分からないですから、偏見とか意味不明な基準で人を殺してるんです。」

 「とことん胸糞悪いな……!」

「最初にここに来たのは正解だったねフリジットさん。こんなの、後一日だって続けさせたくない……!」

「……そういえば、ラーヴァさんはカルマさんという方と面識があったようですが……。」

ミアが話を変えた。

「はい。アイツは俺と同い年で、同じ村で育って、そして同じ志をもってジャニエルを倒そうとした戦友……でしたから。」

「今は完全に仲違いしてるのに!?」

 驚くビーク。しかし本人にも似たような経験があったのだろうか、

「あぁいや、でも……そっか……。」

と小声で言い、一人で納得した。ミアはつばを飲み込んだ後、ラーヴァに質問した。

「過去に何があったのか、話してもらう事は可能でしょうか?」

「……はい。お話します……。あれは2年前のことでした……。」

 すぐに了承するラーヴァ。

 (2年前……!やはり……!)

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 ザクッ ザクッ ザクッ

「はぁ……いつまでこんなのが続くんだろうな……カルマ。」

「もっと効率よくやる手段あるだろうになぁ。でもオイラ達だけじゃアイツには勝てねぇしな。まともな鉄製の武器も取り上げられちまったしよぉ……。」

 バサッバサッバサッ……

「おっ、ジャニエルのやつどっか行ったな。」

「あの小型のドラゴン達、見張りも兼ねてるっぽいぜぇ。修行にはまだ行くなよぉ。ラーヴぁ。」

「チッ……ってアレ、おいカルマ!ちょっと見てみろ!」

「?」

 ラーヴァが指差した先にいたのは頭部と胸部を鉄の装備で武装した兵士だった。

「!? 農業用以外の鉄の使用は認められて無いハズ……。」

 ザッザッザッザッ バッ

 兵士はラーヴァに向けて手紙を差し出す。

「手紙!?文字が書ける人がこの島に残っていたのか!?」

「貴方方がラーヴァ殿で間違いないでしょうか!」

兵士がラーヴァに話しかけた。

「あっ はいそうですけど……。」

「ちょっ いいからっ 手紙見てみろよ!」

「俺の連れのカルマも見て大丈夫ですか?」

「はい。どうぞご確認ください。」

「ありがとうございます。何々……? !?」

「何が書いてあったんだぁ?ラーヴぁ!」

 ラーヴァはカルマのに手紙を見せる。そこにはこう書いてあった。

 《ラーヴァ殿へ

 ジャニエル討伐作戦発足!

 王都跡 地下シェルターにて汝と会うこと願わん!

 レーヨン王国 国王 キングス・ユーゲンハルトより》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る