間話 カロールの話とリリーナの話

 カロールは体の熱さに目が覚める。

 学園では感じなかった熱さで。


 ベット近くのベルを鳴らしてメイドを呼び、あの男を寝室へと呼び寄せる。カロールは魔力過多症のため、魔力が体の中に溜まる。


(熱い、この熱をとってくれ……)


早朝、呼び出された男は不機嫌面で現れベッドで唸る、カロール殿下に向けて魔道具をしばらく掲げる。体内に残る魔力が魔導具に吸われ、カロールの熱はなくなる。


「殿下、これでしばらくは大丈夫でしょう。いつまでも逃げてばかりおらず、魔力操作の訓練を始めてください。そうすればご自身で魔力を体の外に出せるようになります」


 毎回来ては同じことばかり言う男にうんざりだ。カロールだって訓練を受けているが、なかなかうまくいかない事を知っていくるくせに。


「うるさい、終わったのなら出て行け」

「では、失礼します」


 頭を下げて、男はさっさとカロールの寝室から出ていく。あの男は学園時代、ルーチェ嬢と仲が良かった男。学園一の魔力を持つ男は今や、この国一番の魔力を持つ。


(そんな奴に頼らなくてはならないとは……あの嘘つきの女のせいだ。……ルーチェ、ルーチェ嬢はいまどこにいる? 早く側に帰ってきてくれ)


 幼い頃から側にいたが、別の女性に気を移して婚約破棄をルーチェ嬢に自身から伝えたくせに。身勝手なことを言っていることに気付かないカロール。


 しかし、いまやカロールはあの男が作った魔導具を身に付けないと、動くことすら出来ないでいる。




 +




 ここは王城から離れた屋敷。第一王子しかいないカロールがルーチェと結婚して子供に恵まれなかったときに、側妃を迎えるために建てられた屋敷。


 その屋敷に、この乙女ゲームのヒロインリリーナはいた。食事は出るもの、この屋敷には二日に一度メイドが掃除に来るだけで、あとは誰もいないリリーナ一人だけの屋敷。


 リリーナはかろうじて魔力があるため、入浴はできているが着替えも食事も一人。悪役令嬢ルーチェと婚約破棄をしたカロールと幸せに、贅沢三昧で暮らせると思っていたが。


 婚約破棄後、カロールは魔力過多症で倒れた。乙女ゲームでは出来たのに、私では魔力過多症治すことができず。周りに嘘だと言われ、城に勤務する魔術師がカロールを診ることになった。


 住む部屋もカロールの隣ではなく、こんな寂れた場所。


(私はこの乙女ゲームのヒロインなのになぜ? ゲームでは、私がカロールの魔力過多症を良くしたはずなのに……学園にいたときだって、私のおかげで一度も魔力過多症で倒れなかった。――あ、もしかしてカロールが倒れたのはルーチェの呪い?)


 一人、部屋で昼食をとっているリリーナはハッとする。


 ――私がこうなったのも。すべて、あの女のせいか!

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