第16話

 明日のために寝よう、私は玄関のキャンドルランタンを消してワンピースを脱ぎ、髪を下ろしてパジャマ代わりのシャツと短パンのラフな格好になる。


 いつもならベッドに寝転んで読書の時間なのだけど、今日は子犬をもふもふさせてもらった。


 真っ黒な毛で、もふもふか子犬ちゃんの尻尾を触ると、触ったなーと飛びついてくる。子犬ちゃんの余りの元気よさにびっくりしながらも抱き止めて、もふもふの体を撫でると「ワン!」と鳴き尻尾を振った。


「可愛い〜。君はふわふわ、もふもふで温かいね」


 子犬ちゃんを撫でていたら、あくびをフワッとしてコテンと寝転び、そのままスースー寝息をたてはじめた。


「あら、寝ちゃった」


(フフ、疲れていたのかな?)


 子犬ちゃん用に作っておいた寝床に寝かせて、体にタオルを掛けた。


「おやすみ、子犬ちゃん」


 私もベッド違うの、ランタンの火を消してベッドに潜る。今日は色々あった、あの嫌な感じには二度と会いたくないな。



 +

 


 そう思っていたからか、この日は学園の夢を久しぶりに見たが、夢にはカロール殿下が出てこず。一個上のシエル先輩と魔法の話をする楽しくて、幸せな夢だった。だからか、無性に先輩に会いたくなった。


 ――シエル先輩にまたいつか、会えるといいな。

 

 よい夢を見て目が覚めると、目線の端に一人で寝るのが寂しかったのか、へそ天で眠る子犬ちゃんがいた。


(気持ちよさそうに寝てる)


 ぐっすり眠る子犬ちゃんを起こさないよう、ベッドを抜け出して海側の窓を開けた。福ちゃんは私を待っていたのか、すぐ近くの枝に福ちゃんが止まった。


「おはよう、今日もいい朝だね」

「ホーホー」


 いつものように何気ない会話を福ちゃんとして、すぐ帰ると言う福ちゃんを見送った。部屋に備え付けのキッチンで、子犬ちゃんのご飯の準備をはじめながら「食堂の今日の定食は何?」と、近くの壁に貼ったガリタ食堂の定食表を確認した。


「今日は、生姜焼き定食の日かぁ」


 マカ大将さんが作る、生姜焼きのタレは生姜が効いて絶品だから、仕込み終わりの朝食が楽しみ。

  

「ワンワン」

「あら、目が覚めたの? おはよう、すぐ朝食にするね」


 食べやすく切ったバナナと桃をお皿に乗せて前に置くと、子犬ちゃんはひと鳴きして食べだした。その姿を眺め、長い髪をアップにして、ガリタ食堂の仕事着に着替えを始める。


 子犬ちゃんは小さく、もふもふで可愛いが食べる勢いは凄い。ものの数秒でバナナと桃が乗ったお皿は空っぽで、私の足元にゴロンと寝そべった。

 

「もう食べてしまったの?」

「ワン!」


「はい、ごちそうさま。子犬ちゃんも一緒に下へ行こうね」


 準備が終わった私は子犬ちゃんを抱っこして、階段をおりると、店の裏でチル女将さんが仕込みの準備を始めていた。

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