第15話
見慣れた景色にホッとする。だけど、あの嫌な感じとあの魔力は両親? まさかとは思うけど殿下? 王都から離れた港街まで探しに来たの。
(もう、船に乗る料金が貯まるまで待てないかも、また港街に来たら……持っているもの全てを売って、海の向こうに逃げよう)
転移球を使って港街から戻ったけど、慌てていて……子犬ちゃんをここまで連れてきていた。
「ごめんね、いきなり連れて」
「ワン、ワン!」
とうの子犬ちゃんは寂しがっておらず、鼻をクンクン鳴らして部屋に入り探索しはじめた。私は玄関の壁に嵌め込んであるクリーン魔法の魔石を触り、部屋の中と自分を綺麗にする。
(この魔道具も、魔道具屋さんが作ったのよね)
「あ、待って、子犬ちゃん」
靴を脱いで後を追うと、子犬はちゃんは楽しげに部屋を歩きまわり、ベッドをみつけると飛び乗りゴロンと寝そべった。
(か、かわいい〜)
「子犬ちゃんはベッドが気に入ったの?」
気に入ったと鳴く子犬ちゃん。今日は日が暮れて遅いから、明日のお昼過ぎに時間をもらって、港街に連れて行こう。
「そうだ、洗濯物。外に干した洗濯物をいれてくるね」
洗濯カゴを持って、店の裏側に洗濯物をとりこみに向かった。ガリタ食堂の裏で、洗濯物を取り込んでいる私の元に、羽の音が聞こえて空を見上げた。
「あ、福ちゃん、こんばんは」
「ホホー」
夕焼けに染まる空に、福ちゃんが飛んでいた。
この時間帯に福ちゃんと会うのは初めてで、彼は空からまい降り、なんと私の肩にふわりと止まった。
「か、可愛い。でも、福ちゃんって見た目よりも軽いんだね」
「ホッホー、ホッホー」
「えぇ、私は丸くなった?」
「ホーホホー」
「まあ、福ちゃんは見抜いているのね。私がここに来て、五キロも太ったことを……」
「ホーホー」
「ほ、頬がふっくらした? もう、それ気にしてるのに……福ちゃんの意地悪!」
「ホホー」
「え、まえは痩せ過ぎだった? これくらいがいい? フフッ、ありがとう福ちゃん」
福ちゃんは洗濯物を全部とりこむのを見届けると、肩から羽を広げて空高く飛び上がる。
「ホー」
「もう帰るの? 気をつけてね、また明日」
福ちゃんも「また明日」だと言っているのか、頭の上をくるりと一周飛んで、何処かに飛び去っていった。福ちゃんと店の裏で別れて部屋に戻り、玄関と部屋にかかるランタンに火をともした。
「子犬ちゃん、戻ったよ」
静かな子犬ちゃんは、私のベッドでスヤスヤと眠っている。その可愛い寝顔をながめ夕飯の準備にとりかかった。
この部屋は元々ニックさんが住んでいた部屋で、魔力がなくても、最新の魔導式シャワーとトイレが付いている。ニックさんは仕事終わりに食堂で食事を済ませるからか、キッチンは飲み水のはいった水瓶とシンクだけ。私も店が休み以外は、下の厨房を借りて料理しているので困らない。
子犬ちゃんのベッドを作ろうと、タンスから使っていないカゴとバスタオルを出して、ベッド傍の空いたスペースに置いて飲み水も用意していた。
その音に子犬ちゃんが目を覚またのか、私の足元で一生懸命に短な前足で催促してくる。
「お腹すいたの? わかった。いま、ご飯にするね」
自分用と子犬ちゃん用に小さく切った、バナナとオレンジを入れた皿を目の前に置くと、子犬ちゃんは「いただきます」とひと鳴きしてお皿に飛びついた。
「一緒に食べようね」
「ワン」
久しぶりに、一人じゃない夕食を子犬ちゃんと過ごした。
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