第14話

 足元に現れた、かわいい黒い子犬。


「こんにちは子犬ちゃん」

「ワン」


「君、お腹すいているの?」

「ワン!」


「じゃ、なにか食べる?」

「ワンワン」


(この子か食べられそうなドックフードは無いから、果物かな? そうだ、近くに果物屋さんがあったはず)


「子犬ちゃん、私といっしょに果物屋へ行こうね」


 私の話す言葉を理解したのか「ワンワン」と嬉しそうに私の後を飛び跳ねてついてくる、子犬と並んで港街の果物屋に向かった。子犬ちゃんが食べられそうな桃と苺のカットフルーツを買って公園に戻り、ベンチに子犬と座った。


 子犬ちゃんはそうとうお腹が空いていたのか、カットされた果物をバクバク食べていく。


「おいしい?」

「ワン」


 食べる姿が豪快な、子犬ちゃんに桃をとったときゾワッとした。


 ――な、何? この会いたくない気持ち、側に来てほしくない嫌な険悪感は?


 私には魔力が無いが……私が知った「何か」を感じた。

 ここから早く離れたほうがいい気がする。……もしかして公爵家から姿を消した私を、両親が探しているのかもしれない。


 ――楽しい、今の生活をなくすわけにはいかない、


 


「……捕まりたくないわ」

「ワン?」


 港街の人が少ない裏路地に向かい、先輩からもらった、緊急用の転移球をカバンから取り出した。その球を地面に投げつけ割る。その瞬間、転移魔法の魔法陣が足元に現れ、私の体を金色に光る光が包み込まれた。


 港街から景色が変わって、見慣れたガリタ食堂の二階にある私の部屋に着く。


(はじめ使ったけど、先輩の魔法は凄いわ)


「ありがとう……先輩」



 +



 私が港街から帰った、ほんの数分後のこと。

 多くの騎士を引き連れた、一台の黒塗りの馬車が港街の近くを通った。


「シエル、この街はまだ探していないな」

「えぇ、探しておりませんね」


 馬車の客車に乗る人物は紐を引き、外の御者に止まれの合図をだす。その合図に馬車のそばを走っていた、荷馬車、馬に乗る騎士たちが止まる。その中の一台、黒塗りの馬車から、黒いローブを身につけた切長の黒い瞳、黒髪の男が降りてきた。


 ローブの男はフードを深くかぶり、盛大にため息をつくと、近くで待機している騎士へ近寄り言葉を交わす。


「了解いたしました。我々はこの付近を捜索いたします」

「我々は街を探索します」


 男から、命令を受けた騎士達は辺りに散っていく。その姿を黒いローブの男は見送り、黒塗りの馬車に一礼すると、港街の商店街に消えていった。


 どうやら、この黒塗りの馬車に乗る人物が指示を出したようだ。

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