第9話

 王都都立学園には、古い魔導書などが置かれた第三書庫がある。この場所で乙女ゲームのイベントはない。殿下とヒロインに会うことがないとわかっているから、私は第三書庫に通い初めて、魔法科で一つ上の黒いローブを着た、銀髪、切長の赤い瞳のシエル先輩と出会った。


 ――はじめてシエル先輩に出会ったとき睨まれたなぁ。


『チッ、俺のとっておきの場所だったのに……』


 私とは初対面なのに舌打ちと、ムスッとした声をいまも覚えてる。この第三書庫は彼の昼寝の場所だったのだ。だけど、殿下たちから離れて、好きなことをはじめると決めた私は彼に食い下がった。


『すみません。……この第三書庫にしか魔法に関するの本が置いてないんです。お昼寝の邪魔にならないよう、書庫の隅っこで静かに本を読みます。私のことはお構いなく、いないものだと思ってください』


『ケッ、好きにしろ!』


 先輩も最初は「貴族の戯れか?」と思っていだけど。

 毎日通ううちに、私が気になったのか話しかけてきた。


『お前、毎日ここで魔法のを読んでるが、魔法が好きなのか?』


『失礼ですが私はお前ではありません、ルーチェといいますわ。魔法は好きですが、残念ながら私には魔力はありませんでした……すこしでも、好きな魔法に触れたいんです』


 そう伝えると、彼の赤い瞳が輝いた。


『ふぅん、俺は魔法が二年のシエル。お気楽な貴族にしては珍しいな……だが、いまお前、いや、ルーチェ様が読んでいる本は上級者向けで難しい。魔法に関しての本を読むなら……俺に着いてこい』


 彼の後に着いていくと、私に何冊か本を選んでくれた。


『ルーチェ様、初心者はこれとこれを先に読め……読んだほうがいい』


『わ、私に様は入りません。ここでは普段どおりにしゃべってください。その方が私も落ち着きますので』


『ここだけ? わかった』

 

 ぶっきらぼうに話て、本棚からポイポイっと二冊の書物を渡された。彼は私に本を渡すと、さっさと元の席に歩いて行ってしまう。


『ありがとうございます。シエル先輩』


『先輩だと? ……フン、読み終わったら言えよ、次の本を俺が選んでやる』


(次を選んでくれる? けっこう面倒見がいい人なのね)


 彼が選んでくれて魔法の本は私が選んだ本よりも、分かりやすく面白かった。お礼を言おうと彼の席を見てのだけど、いつの間にか眠っていたのでお礼に持っていた飴玉を二つおいて帰った。


 シエル戦は、はじめは怖い人なのかと思ったのだけど、優しい先輩。私は第三書庫に通うのが楽しくなった。

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