第8話

 揚げたてのジャガイモの皮スナックはすぐに皿から消えた。


「うまい! いままで、捨てていたジャガイモの皮が食べられるなんてなぁ、勿体ないことしていた」


「ほんとそうだね。ルーチェちゃんが揚げてくれたスナックをアテに、お父さんとキンキンに冷えたエールが家で飲めるね」


「ああ、飲めるな。家に帰るのが楽しみだ」

「あ、親父、お袋ずるい、俺も欲しい」

 

「大丈夫ですよ。今日はたくさんジャガイモを剥いたので、ニックさんの分もあります」


「やったぁ!」


 揚げ終わり後片付けをする。いつもは片づけが終わるとすぐに帰るのだけど、明日はガリタ定食の定休日で、大将さん、女将さんたちはのんびり寛いでいた。


 片付けを終えた私も加わり、たわいのない話をして、みんなは「お疲れさん」と帰り。私も借りている二階の自分の部屋に戻った。


「ふうっ、疲れた……」


 ガリタ食堂の制服のまま、ゴロンとベッドに寝転んだ。


「マカ大将さんのコロッケ美味しかった」

 

 美味しい食べ物は前世でも、異世界でも、みんなを幸せにするんだ。あ、そういえば先輩に似ていたお客さんも、美味しそうに揚げたてのコロッケ食べていた。


 いま思い出してもあのお客さんは、学園で出会ったシエル先輩に似ていたかも。


「……懐かしい、シエル先輩に会いたいなぁ」


 学園で私の一個上、銀髪、赤い三白眼の瞳。その先輩と知り合ったのは、私が二年に上がったころ。一年のとき学科が違うがまだカロール殿下が好きで、設定が変わっているから、もしかしたら乙女ゲームの通りにならないかもと夢みていた。


 たが、現実は違った。


 カロール殿下ヒロインのリリーナさんは普通科の私と違い、同じ魔法学科で一緒に過ごす時間が多かった。あまり笑わらわず落ち着いた銀髪の髪と青い瞳の私とは違い、ふわふわなピンクの髪と大きな瞳、笑顔の可愛い真逆な彼女。


 彼女の噂は普通科まで聞こえてきた。すぐ魔法科で人気者になり、カロール殿下だけではなく他の生徒とも仲良くなったと。そして名前を聞いて驚く、彼女は入学してものの数ヶ月で、乙女ゲームの攻略対象たちを攻略していた。


 噂はまだまだ聞こえてくる。


 彼女は平気でカロール殿下と横を手を組んで歩き、人目を気にせず庭園で二人見合って微笑んでいたと。……そんなの嘘だと魔法科を見に行った。


 ――嘘。


 学園に入学してから私を見る殿下の冷めた瞳とは違い、彼女を優しい瞳で見つめる殿下の姿を見て、乙女ゲームの内容を知る私は、この恋を諦めるしかなかった。


(あの時は悲しくてたくさん泣いて、泣いて……殿下への恋心を奥へと追い込んだのよね)



 +

 


 幸い魔法科と普通科は教室が遠い、このまま学園内で会わなければ、殿下とは婚約破棄と国外追放だけで終わるのではないかと考えた。……だけど、ヒロインの彼女はそれを許さず、まるで私に悪役は悪役をやれと言うのか、知らないうちに根も葉もない噂が立つようになっていた。


 私はカロール檀家に人気のない場所へと呼び出され、


『ルーチェ嬢……貴様、リリーナの教科書を破っただろう!』


 と言われた。またある時は『ルーチェ、リリーナの悪口を言っていただろう!』と。


 つい先日に行われた、カロール殿下の誕生会でエスコートされなかった私が嫉妬して、リリーナさんの殿下色のドレスにワインをかけたとも言われた。

 

 私は学園の生徒で、まだ殿下の婚約者だからその誕生会に参加していだけど。エスコート無しで入場して、誕生会が終わるまでバルコニーで一人過ごしていた。その姿を見ていた学生も多くいて違うと助けてくれたが、カロール殿下は話を聞かず私がやったと決めつけた。


 ――心の醜いお前に会いたくない。二度と王城へは来るな!


 いままではカロール殿下が好きだから、何を言われても耐えていた。……だけど、ヒロインへ移ってしまった殿下の心と、進んでしまった物語を悪役令嬢の私では変えられない。


 きつい言葉で、傷付けられたくない。

 何をしてくるかわからない、彼が怖い。


 だから、彼には近付かない。

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