第7話
お昼のピークがすみ時刻は午後三時、ガリタ食堂は閉店した。片付け前にマカ大将さんとニックはカウンターの椅子で休み、チル女将さんは四人掛けのテーブル席で今日の売り上げの計算をしていた。しばらくして、売上帳を終えた女将さんは、
「ごくろうさま。なんと、今日は生姜焼きに続く売上がでたよ」
と声を上げた。
「まじか、すごいな。親父、お袋、ルーチェ、今日もお疲れさま!」
「お疲れさん。それにしても。最近、また客が増えたなぁ」
「えぇ増えましたね」
マカおじさんとチルおばさんはいつも仲がいい。
いつか私も結婚できたら、二人のような夫婦になりたいな。
「お疲れ様です、お茶がはいりました。大将さん、女将さん、ニックさん休んでください」
一声かけて、チル女将さんがいるテーブル席にお茶を運んだ。
「ありがとう、ルーチェちゃん」
「ありがとうよ」
「サンキュ」
マカ大将とニックもテーブル席にやって来て、私もみんなと同じテーブルに座った。今朝女将さんとむいた三カゴのジャガイモは定食のコロッケと、一品のポテトサラダの料理に変わり全て完売した。
「ルーチェ、揚げを失敗したコロッケを食べるかい?」
「揚げ失敗のコロッケですか? はい、いただきます」
「厨房にあるから、とってきて好きだなだけ食べな」
「いいな。俺も食べたい」
「私も、もらおうかね」
「いま持ってきますね」
コロッケを取りに厨房に向かうと、マカ大将さんが揚げを失敗したと言う、コロッケがキッチンのテーブルの上に、数個皿に乗っていた。私から見たらこのコロッケ、どこが失敗なのかはわからないのだけど、大将さんからみたら失敗らしい。
まだ温かいコロッケの皿を持ち、みんながいるテーブルの真ん中に置いた。ニックとチル女将さんはテーブルに置かれている皿とフォークを手に取り、コロッケをとって頬張った。
「美味しい、父さんの揚げるコロッケはやっぱり美味しいね」
「親父のコロッケは美味い! このサクサクがいい!」
美味しそうに食べる女将さんトニックを見て、私も隣に座りコロッケをかじる。
「うん、サクサクで味付けも最高! マカ大将さんが作るコロッケは格別に美味しいです」
「おやおや、何を言ってんだい。ルーチェちゃんが作る料理も珍しくて美味い」
「そうだ、俺達の知らない料理をたくさん知っている」
「あ、それは……書庫にあった本を読んで、たまたま知っていただけです」
「本を読んだだけで、作れるんだからたいしたもんだよ」
「女将さん、そんなことないです」
――そう、私がガリタ食堂で働きはじめて一ヶ月だった頃、マカ大将さんに余った食材は自由に使っていいと言われたので、夕食を作ろうと店のコンロを借りて簡単な卵のチャーハンを作っていた。
(ここにお米と醤油、色んな調味料があると知ったら、むしょうに食べたくなったのよね)
『ルーチェちゃん、それ炊いたお米を炒めているのかい?』
『はい。これはチャーハンという料理です』
『チャーハン? いい匂いで、美味しそうだね
と言われて、チル女将さんに食べてもらったのが始まり。
次の日から女将さんに「今日はなにを作るんだい?」と聞かれて。コロッケ、生姜焼き、唐揚げ、トンカツ、オムライス、ハンバーグなど、前世でよく作っていた家庭料理を披露した。
そこにマカ大将さんとニックさんがくわわり。
二人が、気に入った料理が、ガリタ食堂へ並ぶようになったのだ。
大将さん達は、明日の照り焼きチキンに何を付け合わせるか話し始めた。私はその話に加わらず厨房をかりて、天日干ししていたジャガイモの皮を揚げさせてもらうことにした。
「コンロ借ります。ジャガイモの皮、女将さんの分も揚げまさか?」
「ああ、よろしく頼むね。ルーチェちゃん」
「任せてください!」
ガリタ食堂で使用しているコンロは――魔導式コンロといって、火を使わず火の魔石を使用している。このコンロは屋敷にあった、魔力がないと使えないコンロとは違い、魔力のない私でも使えるコンロなんだ。
つけるのは簡単で、コンロについている赤い魔石にふれると、ポッと火がつく。薪で火を起こさなくても簡単に使えるから、このコンロは人気があって。ガリタ食堂以外にも、港街のほとんどの飲食店が使う魔導組み込み式コンロ。
それを作ったのは港町にある「魔法屋」という魔導具屋の若い店主だと聞いた。いちど、その店に行ってみたいと思っている。
(店の名前が魔法屋だもの、魔法に関する店よね)
コンロにかけた鍋の油があったまってきたら、天日干ししたジャガイモの皮を一気にいれて、揚がったら油を切り塩をふる。
「いい匂い、味見しよっと。んっ、サックサクておいしい」
「美味そう! ルーチェ、俺にもすこしくれ!」
「いいよ、いま皿にだすね」
揚げたばかりの、ジャガイモのチップスを皿にだした。
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