第6話

 ガリタ食堂の前には、今日も美味しい定食を求めて、港街から大勢のお客さんがやってきて長い行列つくる。


「ルーチェちゃん、今日も一日元気に働くよ!」

「はい。チル女将さん」


 開店の時間。店の前で並んでいたお客さんがどっと店の中に入ってくる、ここからが戦場だ。ガリタ食堂は家族経営で、おとずれるお客さんが増えに増えて、沢山あったメニューは日替わり定食と一品料理だけになった。常にカウンター席もあわせた三十席は満席だ。


「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

「ニ名様ですね、こちらの席にどうぞ!」


「お冷やとタオルです」


「日替わりとポテトサラダ二つ」

「はーい。しばらくお待ちください!」


 厨房から、ひっきりなしに唐揚げとコロッケを揚げる音が聞こえて、出来上がった日替わり定食とポテトサラダがカウンターに並ぶ。


「お袋、ルーチェ、七、八、九番が上がったぞ!」


「あいよ!」

「はーい!」


 ニックの合図でガリタ食堂のきょうの日替わり、揚げたての唐揚げとジャガイモのコロッケ、横には山盛りのキャベツ。大根と揚げの豆味噌のお味噌汁、白菜の浅漬けに山盛りご飯がトレーをお客さんへと運ぶ。


「次! ルーチェ、十番、十一番」

「はい! 日替わり、お待ちどうさまです」


 料理を運んでいると店の右の奥の窓側の席に、ローブのフードを頭からすっぽり被ったお客さんがいた。そのお客さんの指には魔法使いの証、青い指輪が嵌められている。

 

(あの指輪って魔法使いの人が身に付ける、属性と身分証の指輪だ。青色かぁ、このお客さんは水か氷の魔法属性なんだ)


「日替わり定食、お待たせいたしました。唐揚げとコロッケは揚げたてなので、ヤケドに気をつけてお召し上がりください」


「ありがとう、いただきます」


 揚げたての唐揚げをフォークに取り、ふうふう冷まして口に運ぶ時、フードからさらりとローブの男性の黒髪が見えた。


(……黒髪だわ)


 その黒髪はアンサンテ国では珍しい髪の色。でも私には懐かしい髪色で、もう二度と戻れない遠い故郷の色と思い出した。


「ルーチェ、次の日替わりが上がったぞ!」

「は、はーい、いま行きます」


 出来上がった料理を取り向かいながら、あの黒髪のお客さんが気になっていた。どことなく学園のときの先輩に、雰囲気が似ていたのだ。


(でも先輩の指輪は火属性を記す赤色で、私と同じ銀髪。いまは王城の魔法省にいるはず……あのお客さんの雰囲気は似ているけど、違う人ね)

 

 ――出来るなら、もう一度先輩に会いたかったな。

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