第5話

 ここ、アンサンテは魔法国と呼ばれている。この国に生まれた貴族、平民が大小なり魔力を持ち、魔導具、錬金術師、魔術師として活躍していた。


 その中で私は、乙女ゲームではあった魔力がなかった。

 公爵家では冷たい両親と弟、学園では婚約者だったカロール殿下、他の攻略者対象たちに大変な目に遭わされたが、ようやく婚約破棄できた。


 婚約破棄後、両親に捕まりそうになって逃げてきてしまったけど、やっと自由になれた。……カロール殿下が倒れたと聞かされたけど、魔力がない私には関係はない。


 ――殿下の側には彼を癒す、ヒロインのリリーナさんがいるのだから。



 +

 


 あれから半年経った。――私はベルテ大陸の中央にある王都から離れた西の端、モール港が見渡せる丘の上建つ、マカ大将さんとチル女将さんが営むカリダ食堂で住み込みで働かせてもらっている。

 

 早朝六時、目覚めた私はベッドをぬけだして海側の窓を開け、朝日に照らされキラキラと光るモール海を見渡していた。バサバサと窓近くの木の枝に羽音を鳴らして、一匹の梟が止まった。


「ホー、ホー、ホー」

「あっ、福ちゃんおはよう」


 ガリタ食堂の二階に住んでからのお友達、フクロウの福ちゃんだ。彼のモフモフな胸に飼い主がつけたのだろう、とても高そうな、エメラルドのネックレスを付けている。


 毎朝どこから飛んできて、窓を開けた私に挨拶をしてくれる。出会って半年もたったからなのか、なんとなくだけど福ちゃんの話す言葉がわっていると、私は思っていた。


 そんな福ちゃんは挨拶の後、バサバサと羽を使い私に文句を言う。


「ホホー」

「まぁ今朝は昨日よりも、お寝坊ですて?」


 この福ちゃんは一分でも窓を開けるのが遅れると、口うるさく文句を言うのだ。私はその訳を言うために急いでベッドに戻り、古本屋で見つけた本を福ちゃんに見せる。


「起きるのが遅れたのはこの本のせいなの。この本が面白くって寝坊しちゃった、ごめんね」


「ホー」


 へーって……福ちゃんの興味のない表情を私に見せた。この本の内容は、魔法使いとお姫様の熱烈な恋のお話。二人の濃厚なラブシーンに胸をときめかせて、少しだけ読もうとしたのだけど面白くって、結局はまるまる一冊読んでしまった。


 だけど福ちゃんには、この話は興味がないらしく。


「ホーホホー」


「え、朝ご飯の時間だから帰るって? フフ、わかった。気をつけて帰ってね。また明日!」


「ホー!」


 近くの枝から飛び立ち、翼を広げて飛んでいく福ちゃんを見送り。私は真っ白なシャツとネクタイ、黒いタイトスカート、お店のロゴ入りエプロンを着けて一階にある食堂へいく準備を始めた。

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