魔力なし悪役令嬢の「婚約破棄」後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。

第3話

　そのノックに返事を返さず、黙々と準備をしている。

　扉向こうのメイドは、もう一扉を叩き。

「ルーチェお嬢様、旦那様と奥様がお呼びです。至急、応接間にお越しください」

　と、告げた。

「いやよ、いかないわ！　お父様とお母様に「応接間には行きません」とお伝えて！」

「で、ですが……」

（両親にどんなことをしても私を連れて来いと、言われたのね）

「行かないったら、ぜったいに行かない！」

「……わかりました」

　メイドが扉の前から離れる足音がした、私の言葉をお父様とお母様伝えたら部屋にくるはずと。私は自分の力で動かせる家具を扉まえに移動させて、すぐには扉が開かないようにした。

　これで逃げ道はバルコニーしかない。

　私はクッションの代わりに、バルコニーから自分の布団をすべて下に落とした。

「さて、いくわよ。……大丈夫、下は芝生だもの」

　飛び出そうとしたとき。

「ルーチェ！」

　両親は私の名前を叫び、部屋に走ってくる複数の足音と乱暴に部屋の扉が叩かた。カーチェお父様は大声で「開けろ！」と怒鳴り、ドアノブを乱暴に回した。

「ルーチェ、何をしている！　早く部屋から出てきなさい！」

「そうよルーチェ。はやく部屋から出てきなさい！」

「……いやよ、私は出ないわ。いま部屋から出たら、またぶつのでしょう？」

　痛いのは嫌だ。

　しかしお父様は。

「おかしなことを言うな、お前を打つなどしない。ルーチェ、よく聞きなさい。カロール殿下がお前を王城へと呼んでいる。お前との婚約破棄をなかったことに……」

　と言った。私はその言葉を最後まで聞きたくなくて、バルコニーからカバンを持って飛び降りる。

　頬にあたる風と、思っていたよりも高く落ちるスピードも速い……もうダメ、地面にぶつかると思った瞬間、ワンピースが淡い光を放ち、私の背中に真っ白い翼が生え、庭にふわりとおろしてくれた。

（私の背中に羽が生えた？　……これも、先輩の魔法なの？）

　やっぱり魔法って素敵。もう一度、魔法の羽が見たいなんて……だめよ、今は逃げるのが先。

　私がバルコニーから庭に飛び降りたあと、すぐにお父様たちは部屋の扉を蹴破った。たが部屋の中に私の姿がなく、バルコニーの扉が空いていた。カーチェお父様はバルコニーの上から、ランタンを照らして下を覗く。

（あれば魔導具のランタン ……他のランタンとは違い、明るさが倍以上違う）

「ルーチェ？　どこにいった戻ってきなさい。カロール殿下が魔法熱で倒れたと報告を受けた。早く側に行ってあげなさい」

「ルーチェ！」

（カロール殿下が魔法熱で倒れた？　婚約破棄のときは元気だった殿下が？　でも大丈夫、カロール殿下の側に癒しの力を持っているんだから）

　いくら呼ばれても無視して、私は庭園の茂みに身を隠した。庭は明かりが少なく暗闇だから安心だと思ったが、ライト魔法の明かりが見えた。

　いま、ライトの魔法を使ったのは王城の魔術師だ。ここに魔導士が来ているとなると、魔力を探る魔道具も使用するだろうが、魔力なしの私では魔力探知機には引っかからない。私は暗闇にまぎれ込み、音を立てず、必死に走って屋敷から逃げ出した。