第2話
婚約破棄あと、私は王都から一時間かけて屋敷へと戻り、部屋へ駆けこみクローゼットから革製の肩掛けカバンを取り出し、必要な物をしまおうとしたとき。
「ロジエ公爵、ルーチェ嬢はこちらに戻ってきているか?」
屋敷のエントランスから聞き覚えのある、年配の男性の声が聞こえた。この男性の声は国王陛下の側近の一人、シアン様だ。王都はいま舞踏会の帰りで、混雑しているはずなに、何故こんなにも早く屋敷に来れるなんて。
(あ、まさか。王族が緊急のときだけに使用する、空を飛べる魔導馬車を使用した? なんのために?)
聞き耳を立てていた私に「ガンッ」と、エントランスから何かを叩いた音と。
「シアン様、その話は誠か!」
「その話、本当なのですか?」
お父様とお母様の怒りに満ちた声が聞こえた。
いまシアン様から、カロール殿下との婚約破棄を聞いたのだろう。ほかの人よりも体裁を気にするお父様とお母様だ、怒りに震えているに違いない。
あの日も、そうだったもの。
魔力測定で私に魔力がないと知ってから、両親は私を居ないものとした。翌年、魔力測定で有り余る魔力を持つと診断された弟を可愛がり、前よりも強く当たるようになった。歳をとり両親の魔力が衰えたから、私と弟に期待したのだろう。
『魔力がないだけではなく、お前はこんな簡単な問題も解けないのか!』
『公爵家の恥晒しめ!』
『簡単なことも出来ないなんて、恥ずかしいわ』
ダンス、礼儀くらいは出来ろと言い。出来なければ容赦なく両親は手を上げた。そのときの恐怖はいまも体に染み付いている。
「そこのお前! はやく、ルーチェをここへ呼んで来い!」
「はやく、呼んでちょうだい!」
エントランスから、お父様とお母様が私を呼んでいる。一刻もここからはやく出ていかないと……手をあげられる。
クローゼットから取り出した、カバンに舞踏会に着ていたドレスを乱暴に脱ぎいれた。このドレスだけで、カバンの容量は一杯になってしまうけど。このドレスだけでも売れば……しばらくは生活できるはず。
(うそ……カバンの中に入れたドレスがきえたわ?)
なら、ほかのワンピースを何着か入れてみたけど、カバンの容量はまだ余裕がありそうだ。
もしかして、このカバンは。とおそるおそる中に手を入れてみると底がなく空洞。……これって、ファンタジーゲームなどで見たことがある「なんでもしまえるマジックバッグ」だと、元オタクだった私は瞬時に理解した。
(このバッグは先輩から貰った誕生日プレゼント……この国にない高価な、マジックバッグがプレゼントだなんて先輩ったら、なんてものをくれたの! うれしい)
私は部屋を駆けまわり絵画、宝石、好きな本、溜め込んでいたお菓子をカバンに詰めこんだ。そして、最後に手にしたワンピース……
『ルーに似合うと思って、買ってきた……』
(照れながら、先輩はこのワンピースを渡してくれた……もしかして、このワンピースにも先輩の仕掛けがあったりして?)
なら着て行かなくっちゃ。と、先輩から貰った水色のワンピースに着替えたとき「コンコンコン」と部屋の扉がノックされた。
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