第1話
殿下と会ったあの日、この世界が乙女ゲームの世界だと気付いて十年のときが経った。ゲームの通り、殿下の婚約者に選ばれてから、いままでつらかった……ほんとうに辛かった。なぜかというと、乙女ゲームではあった魔力が私にはなかった。
乙女ゲームのタイトル「魔法学園で恋をしよう」の設定だと、他の令嬢よりも権力と魔力量を持つ私が、魔力過多症という魔力が体の中に溜まる謎の病気を持つ、カロール殿下の婚約者に選ばれる。私は魔力で魔道具を使い、殿下の魔力を吸い出す役割をゲームではしていた。
たが十歳の時、貴族達が受ける魔力検査で魔力なしと判断された。魔法がある世界で魔力が無いなんて落ち込んだりもしたけど、殿下の魔力を吸うという重要な役割をできない私が、カロール殿下の婚約者に選ばれるはずないと思っていたのに。
権力を持つ両親の裏工作か何かで、私は殿下の婚約者に選ばれてしまった。周りは魔力なしの私では、カロール殿下の魔力過多症が治るはずないと言われていたが。月一で起こる、魔法熱で殿下が倒れることがなかった。
(よかった……乙女ゲームの内容とは違うから、殿下の病気もないんだ)
厳しい王妃教育を乗り越え、カロール殿下とも仲良く過ごしてきた。そして時はたち、学園に入学してゲームヒロインが現れ、ゲームのように二人は恋に落ちてしまう。
(そうか……仕方がない)
その日から、ヒロインを虐めたなどと言われ、辛い目にあってきたけど……今夜の卒業を祝う舞踏会で全ておわれる。
――殿下、国外追放一択で願います。
はやる気持ちを抑え、騎士が開けた扉からエスコートなく、卒業を祝う舞踏会の会場へと一人で入場した。私が会場に現れると、カロール殿下は声を張りあげ名を呼んだ。
「よくきたな公爵令嬢ルーチェ・ロジエ嬢、魔力なしの使えない君とは婚約破棄をする。リリは僕の魔力を安定させてくれる、彼女なしでは生きていけない。それに彼女を愛してしまった」
「ごめんなさい、ルーチェ様。私もカロール様を愛してしまったの」
壇上で寄り添う酔狂な二人と、彼女の騎士になったつもりの「リリーナ親衛隊」はこの場でも、魔力なしの私を見下し、大袈裟に声を上げる。
「可憐な、リリーナさんをいじめた悪女め!」
「いままで、貴様がおこなったことへの謝罪をしろ!」
「そうだ、リリーナちゃんにあやまれ!」
カロール殿下と彼らは、私のことをリリーナさんをいじめる悪女だというが。じっさい彼女とは面と向かって会話をしたこともなければ、いじめたことすらない。
しいていうのならば、カロール殿下と新鋭隊の方が残酷だった。なぜかわからないのだけど、リリーナさんが私に虐められいるとでも言ったのか。
彼らはそれを信じて「お前にいじめられたと、リリーナが泣いている」身に覚えのない難癖をつけ、詰め寄られた。
その場所は階段が近く、私よりも身長の高い殿下と彼らに迫られ、怖くなった私は逃げようとして足を滑らせ階段から落ちてしまった。
たが、カロール殿下と彼らは助けることなく、階段から落ちた私を見て「自業自得」と言いその場を去っていった。あのとき、先輩が魔法で守ってくれなかったら、私は二度目の死か、大怪我をおっていただろう。
(……そのときはまだ殿下が好きだったから、冷たい瞳は辛く悲しかった)
悲しい出来事ばかりで、私は何度、声を殺して泣いただろうか。……いいえ、すべて終わったの。と私は心の中で首を振る。この断罪イベントを即座に終わらせて、悪役令嬢の私はこの場を退場いたしましょう。
「カロール殿下、婚約破棄を承諾いたしました。国王陛下、王妃へのご報告、婚約破棄の書類などはすべて、カロール殿下とリリーナさんにお任せいたします」
私は静かに、スカートを持ち礼をした。
「……わかった、父上には俺から伝える。ルーチェ嬢との婚約破棄がすみしだい。ルーチェ嬢がリリーナへおこなってきた罪への罰を伝える」
(え、この場で国外追放は言い渡されない? それは、それでまずいわ)
乙女ゲームだと婚約破棄と国外追放を知ったお父様に屋敷を追い出されて、私の出番は終わるのだけど。これだと婚約破棄を知ったお父様が、私になにをするかわからない。
――大声で怒鳴られて、また殴られる!
そんなのは嫌だ……こうなったら、公爵家から逃げるしかない。最後に好きだったカロール殿下を見つめ、急いで会場をあとにした。
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