中編

月光に体を乗っ取られるという

不思議な体験をした葵は、

人通りのほとんど無い

いつもの帰り道を

急ぎ足で歩いていた。


すると、

満月がいきなり欠け始めた。


(あれ?

月食かしら?)


葵はついつい、

その天体ショーを見るために、

立ち止まってしまった。

満月はみるみる欠けてゆき、

あっという間に、

皆既月食になった。


葵の立っている世界は、

不吉な雰囲気の漂う暗闇になった。


すると、

今度はその皆既月食が創り出した闇が、

葵の体内へ侵入してきた。


(嘘でしょ?

さっきは光。

今度は闇が

入ってくるわけ?)


皆既月食が創り出した闇は、

ぬるぬるぬるぬる、

まるで溶けた蛆虫うじむしのような感触で

葵の体内へ侵入してきて、

またたくまに、

葵の体を占拠した。


闇に体を乗っ取られた葵は、

闇が自分なのか、

自分が闇なのか、

区別がつかなくなっていた。


(今度こそ、

本当にヤバいかも)


葵の不安は的中した。

葵の体内にひしめく、

太古のような闇が、

ぞわぞわぞわっと揺れたかと思うと、

青白い卵を一つ、

葵の体内に産み落としたのだ。

そして、

その卵がパカッと割れると、

中から、

小さなブラックホールが現れた。


(ヤバッ。

私、

死ぬのね。

殺されるのね)


葵が絶望的な気分になっていると、

小さなブラックホールは、

葵の内臓、血液、骨、

さらに服、持ち物まで、

葵の内側から吸い込んでいった。


葵は、

神隠しに遭ったように、

忽然と帰り道から消えて、

そこには、

小さなブラックホールが、

まだまだ、

物欲しげな感じで、

宙に浮いていた。






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