第11話 毒裁者

 村に戻ると、俺は強制的に村人全員を中央の広場に集合させた。


 やり方は、悪魔の所業といってもよかった。


「集まらんと家に火をつけるぞ」

「子供をさらって売り飛ばすぞ」


 なんて脅し文句はまだ可愛い方で、相手が男ならチートを駆使して殴ってやったりもした。


 聞き分けのない女は縛って連行した。


 村人たちは、俺を、悪人を見るような目で見た。


 一向にかまわん。

 

 堕落した人間どもに崇拝される偶像になる気など更々無い。


 ここの子供たちの未来を思えば、バカになった大人たちの視線など、どうでもいい。


 俺は、集合したみなの前に立ち、宣言した。


「今日から俺がこの村を統治する。俺がこの村の支配者だ」


 ひとりの男村人が、からかいのヤジを飛ばしてきた。


「ひとりぼっちの支配者様に何ができるってんだ?」


 俺は、そいつに向かってエアデコピンを放った。


 素早さカンストの指先から放たれた衝撃波が、そいつを十メートルほど吹っ飛ばした。


 それを見て、村人全員の顔色がかわった。


 こちらが真剣だと、やっとわかりはじめたみたいだ。


 俺は、もう少し脅してやろうと思った。


 短剣を出し、エアスラッシュで、背後にあった大きな樹木を、三本ほど一気にぶった斬って見せた。


 カラスみたいな鳥が、ギャーギャー喚きながら、逃げていった。


 みなの顔が青ざめていた。


「逆らったらこうだ。覚えておけ!」 


 怒鳴ったら、シーンと静まり返った。


「今日からお前たちには、野良仕事に専念してもらう。当分は、荒れた畑を生き返らせる作業に専念してもらう。お前たちはもうライプドルフにはいけない。行きたくても橋がないから無理だ。一生懸命畑を耕し、自給自足の生活を取り戻せ。お前たちが生き残るすべは、それ以外にない。以上。解散」


 言い切ると、ライプドルフに行かない派のものたちは、すんなりと動き始めた。


 野良仕事は、彼らにとっては当たり前の作業だから、飄々としている。


 だが、ライプドルフに入り浸っていた派の者は、誰も動こうとしなかった。


 それを見て、俺はキレた。


「ボーっとするなッ! さっさと仕事を始めろ!」


 ライプドルフに行かない派の者たちが広場に戻ってきて、動こうとしない者たちを叱咤しはじめた。


「ほら、なにしてるんだ。橋が壊れた以上、ここで食べ物を作るしかないだろ。畑をもとにもどすぞ」


 俺は、その光景を見て、胸をなでおろした。この村には、まだ自浄の能力が残っている。まともな村人が、免疫細胞となって、狂った者たちを、ちゃんと治療する。それがわかったから。


 その日から、村の畑の復旧作業が始まった。


「なんで今更元の生活に戻らなきゃならないんだ」とぼやく者が後を絶たなかった。


 反旗を翻す者共もいた。


 ある夜のことだ。


 俺と女神は、村にあった空き家を借りて、そこで寝泊まりしていが、寝込みを襲ってくる者がいた。


 男が四名。女神を人質にとろうとしていたらしい。


 だが、女神が人間どもにおくれをとるはずもなく、たやすく御用となった。


 俺は、地下に穴を掘り、そこに牢獄を拵えて、襲撃犯の男たちを投獄した。


 縄で縛って吊るして、とりあえず一か月の禁固刑を宣告した。


 日に一度、市中引き回しにし、村人たちに晒した。


 目撃した村人たちの顔は、一様に青ざめていた。


 こんな一件もあった。


 アラサーの村人女がいて、日焼けして肌が痛むからと、農作業を放棄していた。


 俺はキレた。


 沼に女を放り込んで、顔面に泥を塗りたくってやった。


「泥にはデトックス効果があるらしい。そんなに肌が大事なら一生ここで泥パックをしていろ」


 と、言いながら、泥から懸命に這い上がろうとする女を何度も沼に突き落とした。


「この人でなし! 悪魔め!」


 女が叫んだ。


「俺は悪ではない。毒だ」


 俺は、その日一日、女を沼から解放することはなかった。

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