第7話 毒を運ぶ橋

 小一時間ほど歩くと、橋についた。


 村とライプドルフの間には、小山があって、そこを超える途中に橋はあった。


 しっかりとした造りの、わりと新しい橋だった。


「この橋ができたのは、十年ほど前です。国に雇われた魔導士や錬金術師が協力して建築されたようです」


 夫が説明してくれた。


「なるほど」


 壊してしまえば話が早いと、俺は思った。


「お前たちは、この橋が落ちて困ることはあるか?」


 訊ねると夫婦は、ためらいを見せることなくノーと答えた。


 妻が、きっぱりと言った。


「私たちは、便利さや快楽よりも、毒から身を守って平和に暮らすことを重んじてます。幸せが多い人生より、不幸が少ない人生のほうが値打ちがあると信じています。自分の快楽のために子に毒を舐めさせるような、そんな堕落した人間になるつもりはありません」


 彼女の目には、力があった。


 俺はちょっと感動した。


 彼女の子供が、うらやましかった。


 まだ若いのに偉いなぁ。前世の俺も、こんな親の元に生まれたかった。


 夫が続けて言った。


「私たちの生活に、この橋は必要ありません。むしろ毒を運ぶ、いまわしき悪魔の橋なんです」 


 この夫婦、まだ若いのに、本当に立派だ。


 躊躇する理由は、なかった。


「では遠慮なく、この橋を落とそう」


 俺は、戦闘モードへとスイッチを入れた。


 周囲が、スローモーションになった。

 

 空を滑空していた鳥が、止まって見えた。


 俺は短剣を握りしめ、橋げたを吊っている太いワイヤーめがけて、振り下ろした。


 さっきソウルイーターを倒したのと同じ要領で、衝撃波でワイヤーをぶった切るつもりだった。


 ところが……


 思った通りの結果にならなかった。


 エアスラッシュの衝撃波は、ワイヤーの表面に、爪で擦ったぐらいの痕がついただけだった。


 ほぼ効いていない。


 スローモーションが解除された。


 俺は、女神に訊ねた。


「なぜ、効かない?」


「風雨に耐えるために、衝撃吸収プロテクションの魔法がかかっているんでしょう。建築に、魔導士が関わっていたと、さっき夫婦がおっしゃっていました」 


 ──そうか。ならば、本格的な高火力スキルが必要か。


「この近くで、なにか強力なスキルをラーニングできる場所はあるか?」 


 女神がすぐにおしえてくれた。


「となりの山で、ある凄腕の竜騎士ドラゴンナイトが修行をされているらしいです」


 夫が反応して言った。


「あっ、もしかして、エアハルト様のことですか?」


 どうやら、有名人のようだ。


 竜騎士か。

 

 竜騎士といえば〈飛翔〉。


 天高く飛翔し、隕石の破壊力を以って敵を頭上から襲う高火力スキル。


 そのスキルに、俺のチート級加速力を乗算すれば、こんな橋、プロテクション諸共粉々にできる。


「案内してくれ」


 俺は、即座に女神にお願いした。

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