第6話 粗治療

 村人の脳に巣くった毒を追い払うには、それなりの毒が必要だと、俺は思った。


「粗治療が必要だな」


「ええ。患者を震え上がらせる、拷問のような治療が必要です」


 女神の方が乗り気な感じだった。


 俺は粗治療と言っただけだ。それに対して女神は拷問なんて言葉を引っ張り出してきた。


 俺は彼女の瞳に、サディストの片鱗を見た気がした。 


 俺たちは、夫婦の家に戻り、会話した。


「村の子供たちはどうなっている?」 


 俺は、まずそれが心配になった。


 妻が答えた。


「どの家庭のお子さんも、まだ芽は出ていないようです。……でも、時間の問題でしょう」 


 その通りだ。親が毒に感染し、ばい菌を家庭に持ち込めば、間違いなく子供は感染する。


 子供にはまだ毒と薬の分別がない。だから親が分別をつけねばならない。親がその使命を放棄すれば、子に未来はない。


 毒に感染した子は、大人になって苦しむ。


 そのころになってやっと、親が自分に毒を感染うつしたと気づく。


 そして、親を怨む。


 そういう者は親を愛せない。


 子供を守ろうとしなかった親は、子から愛されない。

 

 仕方あるまい。


 だれも悪くない。


 子を見捨てたのは、自分だ。


 俺はふと、前世のことを思った。


 うちの家庭もそうだったと、思い出して、嫌な気分になった。


 俺は、子供に毒を感染うつしている村人どもの家を一軒一軒まわって、一発づつ顔面を殴打したくなった。


「説得は通じそうか?」


 俺が訊ねると、夫婦ともに首を横にふった。


 ──だろうな。


 馬鹿に説法しても、馬の耳に念仏だ。


 せっかく神様から賢い脳みそを与えてもらったのに、それを使わずに、欲望に任せて楽に走り、毒の依存症に堕ちる。

 

 情けないというか、罰当たりな奴らだ。


 俺は、ひとつのアイデアを思い付いたので、夫婦に訊ねてみた。


「この村を隔離して、隣街に行けないようにすればいいと思うが、何かいい方法はないか?」


 夫婦は考え込んだ。


 なかなかいいアイデアが浮かばないようだ。


 ややして、妻が、半信半疑の感じでこんなことを言った。


「ライプドルフに行くには、絶対に通らないといけない大きな橋があるんですが、そこを閉鎖すれば、行き来を封じられると思います」


 ──橋か。


 俺はその橋を見てみたくなった。


「案内してくれるか」


 お願いすると、夫婦は快諾してくれた。

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