第5話 毒化した村人

 異世界転生後の初バトルは、チュートリアルだとしても物足りないものだった。

 

 素振りをしただけで終わったのだ。


 だが、神様と交わした約束を考えれば、妥当かもしれない。


 毒を制するための毒がひ弱では、話にならない。


 制する側の実力は、圧倒的チートでなければならない。


 だから神は、俺にちゃんと圧倒的チートな力を与えたんだ。


 俺はこの力で、神との約束を果たす。


「戦い方はずっとあんな感じでいいのか」 


「ええ。戦闘が始まれば、あなたの体は自動で戦闘状態に入ります。習得したスキルを使うときは、スキル名を心で念じれば、即座に発動します」


 戦闘では苦労しなさそうだなと思った。


 スローモーションの相手に技を入れるぐらいなら、たやすい。


 もはや、スキル不要といっても過言じゃない。


 女神は、ソウルイーターの死体のそばに落ちていた鉱石のようなものを拾い上げた。血のりがべっとりとまとわりついていた。


 素手でそれを触る彼女の目に、ためらいは無い。


「戦闘に勝利すると手に入る魔鉱石です。アルカディアスの各地に、これを買い取ってくれる専門店がありますので、そこでポルカに代えてください。ポルカとはこの世界での共通通貨です」


 さすがに俺は、素手で触れなかった。


 足元に大きな落ち葉が一枚あったので、それをハンカチ代わりにして魔鉱石を受け取った。


 さて、これで一件落着ではない。


 さっきの半人半獣の人食いモンスターの正体を調べなければ。


 女神が、事情を知っていそうだったので訊ねた。


「さっきのモンスターは何者?」


「いまさっきまで村民だった人よ」


「──村人が、突如モンスター化したのか?」 


「そういうことね」


 俺はハッとして訊ねた。


「もしや、あの寄生植物の仕業で?」


「その通り。後頭部にある芽が、成長を遂げて花を開く頃、半人半獣の食人モンスタ

ーに変身する」


 そのとき、女の嘆き声が聞こえた。


 恐怖のために腰を抜かしていた女が、頭を喰われた死体に向かって何か言っていた。


 女神が言った。


「食われたのはたぶん彼女の旦那さんね。モンスター化した村人のそばをたまたま通りかかったところを不運にもガブリとやられたのよ。きっと」


 泣きわめいている女の後頭部にもソウルイーターの芽はあった。


 そこそこ成長していた。


 今は被害者だが、明日には加害者になっているかもしれないと、俺は思った。


 気が付けば、人だかりができていた。


 その中に、さっきの夫婦がいた。


 俺は夫婦に近づいて、訊ねた。


「今回のことは、これが始めてなのか?」


「いいえ。三回目です。先々月に初めて起きて、先月にも一回ありました」


 答える夫の声は沈んでいる。


 ──三度目とは……。


「この村は、なぜこんなことになっている。ライプドルフに通うのは危険だと、みんな知らないのか?」


 夫はうつむいた。


 妻が答えた。


「彼らは何を言っても信じようとしません。そんなのはくだらない陰謀論だと、嘲笑するだけです」 


 言葉もでなかった。


 俺は、思った。


 毒の汚染度のフェーズは、相当進んでいるなと。


 依存状態が深刻になると、依存の対象に関するネガティブな情報をシャットアウトするようになる。脳が鎖国する。自分の血を吸う悪魔を自分で擁護するようになる。


「この村を救うのは、骨が折れそうだ」


 俺がぼやくと、女神が涼しい顔して言った。

 

「それをやるために、神はあなたに圧倒的力チートを授けたんです」

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