第2話 見えぬ毒

 村に入った。


 人口百人にも満たない小さな村だ。


 木造の素朴な家が立ち並んでいる。 


 一見すると、別に何ら異常は起きていなさそうだった。


 通りですれ違う村人はニコニコしていて、愛想よく会釈してくれる。


「まぁ、毒とはそんなモンだ」と俺は思う。


 異常が可視化されていれば、誰かが声を上げ、事を起こす。毒はじきに粛清される。


 見える毒はさほど怖くない。


 本当に恐ろしい毒は、不可視毒ステルス・ポイズンだ。


 一滴では何の異変も起きない。だからみな迂闊に受け入れる。


 しかし、一滴では無事でも、長い年月をかけて蓄積されれば、重篤な症状が出始める。


 ただ、その毒が見える化されたときにはもう手遅れだ。


 みんな依存症になっているから、もはや抜け出せない。


 毒に自らしがみつく。


 それが毒の本質だ。


「村人たちの笑顔の裏に、何がある」


 女神に訊ねた。


「わざわざ裏なんか見なくても、表にすべて出ているじゃありませんか」 


 ──表に?


 俺の目のまえを、ひとりの老婆が横切った。


 俺は、老婆を注意深く観察した。


 すぐに気付いた。


 後頭部から、妙な植物が芽を出している。


 緑色のパイナップルみたいな姿をしていた。


 大きさは拳ぐらいある。


「寄生植物?」 


「ええ。この村を染める毒の正体は、寄生型植物モンスター〈ソウルイーター〉よ」 


 ──魂を喰うモンスター。


 俺は、別の村人に目を走らせた。


 あっちの奴も、こっちの奴も、みな、寄生されているらしく、後頭部から気味の悪い植物の芽が出ている。


 俺の視線は、ある男の後頭部の芽にくぎ付けになった。


 芽が、を開いたからだ。


 目だけじゃない。口も開いた。口が、こっちを見て笑うように三日月形にニュッと曲がった。


 奇妙な芽は顔を持っていたのだ。


 俺は、それを見てギョッとせずにはいられなかった。


「こんな気味悪いものに寄生されてて、村人は騒がないのか?」 


 女神に訊ねた。


「大半は平気な顔をしてるわ。異常に気付いて対策しているのは、極一部だけ」


 女神は、今からその方とお会いしましょうと言って、村の奥に向かって歩き始めた。


 俺は、その後を追った。

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