第2話 同窓会

 都内のチェコ料理屋で十六時から始まった大学の同窓会には十人の同期生が参加した。留学したり大学院に進んだりして卒業時期も就職先もバラバラなのに、十人も集まったのは、幹事を務める奈津の人徳ゆえだろう。「茜が五年ぶりに一時帰国するって伝えたからだよ」と奈津は笑うが、それは嘘だ。あたしは当時からみんなと積極的に交流を持とうとはしなかった。かたや奈津はいつだって、好き勝手な方角に散りがちなみんなの求心力になっていた。

 樽生のチェコビール、酢漬けのソーセージ、ポテトサラダ、オープンサンド、燻製ウナギ、カツレツなど、チェコの居酒屋でおなじみのチェコ料理の数々。デザートには「棺桶」ケーキも出てきた。皆で競うようにうんちくを傾けつつ口に運ぶ。チェコ語というマイナーな言語を習得しようなんて、間違いなくとびきりの変人ばかりだ。同期たちは、簡単には他人に迎合しない。でも、いったん馬が合うと確信しあえば、とことん仲良くなれた。奈津なんて、いまでも毎月誰かしらと飲みに行っているらしい。今も場の中心になって、学科で一番厳しかったI先生の講義を身振り手振りで再現し、周囲を爆笑の渦に巻き込んでいる。

 あたしのはす向かいにはくせっ毛が目立つ痩身の男が座り、おっとりとした表情でコゼルの黒ビールを飲んでいる。山城青磁。九年前に付き合い始め七年前にすうちゃんに奪われた、あたしの元恋人。まぶしそうに視線を交わし合っていたふたりの姿は、七年経った今でも何かの拍子に鮮やかによみがえり、あたしを苦しめる。だけど、隣の白藤くんと静かにしゃべる青磁の横顔はまぶたの裏の鮮明な顔とはずいぶん違って見えて、あたしは落ち着かなくなった。

 懐かしい思い出を十分堪能してから店を出ると、二次会に行くよと声が上がった。「ほら、茜は強制参加。あんたぜんぜん飲んでないじゃん? まだ七時だし、次は日本酒のうまいお店に行こう」と奈津に背中を叩かれた。

「吉秋さん――」

 ふいに懐かしい声に呼びかけられ、頭に血が上る。背中に当てられていた奈津の手が、すっと離れる。店の灯りに照らされた青磁の青白い顔がこちらを見ている。

「山城くん、茜としゃべれなかった? じゃ、二次会行こ!」

 奈津の大声に青磁がほほえむ。「明日は朝早いんです」と断ると、こちらを見た。

「ぼく、喫茶店を始めました。向こうに戻る前にもしお時間取れたら、いちどお茶を飲みに来ませんか?」

 そう言いながら差し出した名刺には、『茶房カフカ』という店名と住所が書かれていた。カフカ、か。

「――明後日、日曜日の午後なら、空いてる。午後二時でどう?」

 そう言うとにっこり笑ってうなずいた。

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