第4話 学園長との面談

 僕は学園長室の扉をノックした。すると、掠れた声で返事が聞こえた。


「お入りください」


 扉を開け、学園長室に入った。ロベルト学園長は柔和な笑顔で僕を出迎えてくれた。


「ユウ、待っていたよ。キミはボードゲームが好きかな?」


 僕は笑顔で答えた。


「はい」


 彼は笑顔でうなずいた。


「この部屋にはさまざまなボードゲームがある。面談は退屈かもしれない。ゲームでもしながら楽に話そう。リクエストはあるかな?」


 学園長室を見渡すと、さまざまなボードゲームのケースが縦に置かれ、棚に並んでいた。


「少し見てもよろしいですか?」

「構わないよ。キミが何を選択するのか楽しみだよ」


 僕は彼の言葉が引っかかった。彼は「選択」という言葉を使った。つまり、面談はすでに始まっていた。僕は慎重にボードゲームを選ぶことにした。


「このゲームにします」


 手に取ったのはリバーシだった。


「それでは、ゲームをしながら面談を始めよう」


 僕は彼の向かい側に座り、リバーシをテーブルに置いた。


「リバーシだね。このゲームは簡単に見えて奥が深い。キミに課題を出そう。面談の間に私と引き分けることができれば、特別ボーナスとして電子通貨をプレゼントしよう。ただし、引き分けを狙うのは難しいが、キミはどうするのかな?」

「確認したいことがあります。僕が話に乗らなかった場合、ペナルティはありますか?」


 彼は笑顔で首を横に振った。


「この結果で何か変わることはないよ。ボードゲームは私の趣味で、それをキミに付き合わせているだけだよ。でも、課題があったほうがおもしろいとは思わないかな?」


 僕は笑顔でうなずいた。


「わかりました。引き分けは難しいですが、挑戦します」


 彼は満足そうにうなずいた。そして、面談が始まった。


「筋は悪くない。キミほどの実力者が、わざわざわれわれのような小さな学園に来るなんて、普通では考えられない。もしかして、ここに来る以外の選択肢がなかったのかね?」


 僕は動揺してしまい、駒を手から落としてしまった。すぐに拾い、ゲームを続行した。


「僕のことを調べられたのですね」

「『アストリアのグリッドの若きチャンピオン、ベルトを返上する』だったかな。記事を読んだとき、まさかとは思ったが、本人が目の前にいる。アストリアのグリッド界で頂点を極めた者が、われわれのような学園に来る理由に興味が湧くのは当然ではないかな?」


 観念して彼に告白した。


「僕はチャンピオンの地位を維持するために力を誇示していました。しかし、対戦相手から『つまらない』と言われてしまったのです。僕はずっと考えていました。そして、思い出したのです。僕が思い描いたヒーローの姿を」


 彼は小さくうなずいた。


「それで、ベルトを返上し、一からやり直すことを決めたのだね?」

「はい、この決断に後悔はありません」


 僕と彼の目が合った。


「これは興味本位で尋ねるが、キミほどの実績があれば、学ぶ側ではなく、教える側に回るべきではないかな? それとも、アストリアでの経験だけでは満足できなかったのかな?」


 首を小さく横に振った。


「僕は自分のことが嫌いでした。そんな自分が他人に教えても、意味がないと思ったのです。アストリアでの経験がなければ、今の僕はいませんでした。だから、満足しています」


 彼は口角を上げて笑った。


「キミの目標や決意についてわかったよ。『ヒーロー』だったね。本当にそれを望んでいるのかな?」

「わかりません。しかし、それでやらない理由にはなりません」


 僕の答えに満足したのかわからないが、彼は笑顔でうなずいた。


「かつて私も“誰かを救いたい”と願った時期があったが、それは結局、自分の孤独を埋めるためだった。それがキミの目標とどう違うのか、知りたかったのだよ。勝負は私の負けのようだね。引き分けを狙うその冷静さと判断力、そして最後まで諦めない意志を評価するよ」


 僕は笑顔で返事をした。


「ありがとうございます」

「いつも他人を見下していた息子が珍しくキミの話をしていたよ」

「僕の話をですか?」

「長男のオリヴァーだよ。息子がユウのことを『気持ちのいいやつだった』と言っていたよ。グリッドの試合後、息子が『ユウはただ勝ちを求めているんじゃねえよ。俺のような相手も尊重している』と言っていたのが印象的でね。だから、キミが諦めさえしなければ、ヒーローになりたいという夢は叶うと思うよ」


 オリヴァーがそんな風に思っていたなんて、僕は知らなかった。僕は普通にグリッドを楽しんでいただけなのに――ッ! 僕はこんなにも簡単なことを忘れていたのか。今までの僕は楽しむことを忘れていた。だから、あの時、「つまらない」と言われてしまった。


「ユウ、もう一戦やらないかな? 私も負けたままでは悔しいからね」


 僕は笑顔でうなずいた。


「全力でお付き合いします。でも、次も僕が勝つつもりです」

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