第3話 グリッド養成学園
僕はお店に戻り、ナナに事情を説明した。彼女は僕の話を冷静に聞いてくれた。ひと通り説明を終えると、彼女は小さくうなずいた。
「わかりました。私はユウのマネジャーです。でも、魔法士になれないとわかった以上、契約を打ち切られるのは当然です」
「ナナには本当にお世話になったよ。これまでの働きに応じた額を銀行に振り込んでおくけれど、それでいいかな?」
彼女はほほ笑んでいたが、その笑顔にはどこか影が差しているように見えた。
「はい、ユウが『みんなを笑顔にする』魔法士になれることを願っています」
僕らは最後の食事をしながら、これまでのことを振り返った。彼女なら、きっと新しい魔法士ともうまくやっていけるだろう。
お店の外で、僕らは静かに別れを告げた。もし彼女が魔法士になりたいと言っていたら、僕は迷わずグリッド養成学園の管理者に掛け合っていただろう。それほど、彼女は惜しい存在だった。
銀行で、彼女の口座に少し色をつけて送金した。僕が彼女のことをどれだけ高く評価しているかの証と思ってほしい。新しい魔法士と良い契約が結べることを心から願っている。
僕は推薦状の中に地図が入っていることを知り、タクシーを拾い、運転手に地図を見せてグリッド養成学園へ向かった。
◇◆◇
運転手の声で目を覚ました。
「お客様、到着しました」
僕は時差ボケでぐっすり眠ってしまっていた。早くこの環境にも慣れなければならない。運転手に料金を支払い、タクシーを降りた。
目の前に広がるグリッド養成学園の敷地は想像を超える規模だった。高くそびえる門、敷地内に点在するモダンな建物群。門の脇に立つ守衛に推薦状を見せ、事情を説明すると、彼は親切に受付の場所を教えてくれた。
受付の女性に推薦状を見せると、ルールを説明してくれた。
「グリッド養成学園にはいくつかのルールがございます。まず、外出される際には事前に申請をお願いいたします」
「申請ですか?」
「はい。申請書に必要事項をご記入いただき、こちらで期日を設定させていただきます。この期日までに戻られない場合は、学園を退去していただくことになりますので、あらかじめご了承ください」
僕は少し気になったことを尋ねた。
「それでは、学園内で食料が必要になった場合はどうなるのですか?」
彼女はほほ笑みながら首を横に振った。
「学園内には、食料品を含むさまざまな施設がございます。ただし、外部で使用される通貨はお使いいただけません」
僕は顎に手を当て、考えた。
「それでは、どのように代金を支払うのですか?」
「後ほど、専用端末『グリフォン』をお渡しいたします。グリフォンには学園専用の通貨機能が備わっており、学園内でのお支払いはすべてこれを通じて行えます」
なるほど。一般的な電子通貨とは異なり、学園内で完結する仕組みというわけですね。
「万が一、グリフォンを破損または紛失された場合は、受付で再発行の手続きを承ります。他人のグリフォンを悪用された場合は厳重な処罰がくだされることになりますので、十分にご注意ください。また、拾われた場合は速やかに受付にお届けください」
「それで、これから僕はどうすればいいのかな?」
「はい、グリフォンとお部屋の鍵をお渡しいたします。鍵を受け取られた後は、お部屋でお待ちいただけますでしょうか。こちらにお部屋までの地図をご用意しております。グリフォンを起動後は地図が不要となりますので、適宜処分いただけますようお願い申し上げます」
「わかったよ。ありがとう」
僕はケースに入ったグリフォン、鍵、地図を受け取り、地図を見ながら部屋に向かった。
静かな廊下は、まるで人がいないように感じられた。建物も奇麗で、つい最近建てられたようにも見えた。
僕は部屋に入り、荷物を置いた。帽子とサングラスを外し、グリフォンを取り出した。グリフォンは一昔前の携帯と瓜二つだった。手早く登録を済ませ、グリフォンを使えるようにした。椅子に腰掛けて待っていると、グリフォンから通知が来た。
『天城ユウ様、ロベルト学園長との面談時間になりました』
僕はグリフォンと鍵を持ち、部屋を出た。グリフォンには地図機能があったので、ロベルト学園長がいる学園長室は、すぐにわかった。
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