第2話 ユウの挑戦

 僕はデッキトップから三枚のカードを引き、手札に加える。手札は悪くない。しかし、少年のデッキはストラクチャーデッキ。バランスはいいが、アタックは低コストのカードが多い。だから、この二戦はわざと負ける!


 コスト二のアタックを裏側でセットし、残りの二枚を裏側でドロップゾーンに捨てる。


 男性は得意気に笑っていた。グリッドの腕に自信があるのだろう。


「にいちゃん、いくぜ」

「コール!」「コール!」


 互いにセットしたカードを表側にした。彼はカウンターをセットしていた。


「アタックはカウンターには弱い。まずは、俺の一勝だな」


 勝ったプレイヤーは表側に、負けたプレイヤーは裏側にしてフィールドの端に置き、有効打を多く与えたプレイヤーが勝利する。デッキは三十枚存在し、このやり取りを十回繰り返す。


「コール!」「コール!」


 互いにセットしたカードを表側にした。彼はコスト三のアタックをセットしていた。


「同じアタックだった場合、コストが高いほうが勝ちとなる」


 彼は鼻を鳴らして笑った。


「コスト二か、惜しかったな」


 これでいい。彼は僕がアタックしか出さないと思い込んでいる。これから格の違いを見せてやるよ。


「コール!」「コール!」


 互いにセットしたカードを表側にした。彼は僕がセットしたカードを見て、驚愕の表情を浮かべた。


「ここでスペルだと……!?」

「はい、スペルは有効打にはなりませんが、カウンターはスペルに対して意味がありません」

「だが、俺はまだ二勝している」


 僕は笑顔でうなずいた。


「スペル一の効果で、手札のコストを二倍にします」

「くっ、セット」


 キミの戦術が手に取るようにわかるよ。


「セット」


 彼の手が震えていた。


「震えていますが、大丈夫ですか?」

「問題ねえよ!」

「コール!」「コール!」


 僕が表側にしたカードを見て、彼が大きな声を上げた。


「なっ! またスペルだと!?」

「はい、カウンターをセットされると思いましたので、スペルをセットしました」


 彼の目を見て、笑顔で確認する。


「スペルは有効打にはなりませんが、『三回目の使用に成功すると勝利する』とルールブックに書いてありました。合っていますよね?」

「合っている」

「それでは、スペル二の効果で手札を一枚、ドロップゾーンのカードと入れ替えます」


 僕は手札のカードをカウンターと入れ替え、それをセットした。


「セット」「セット」


 彼に笑顔を向け、セットしたカードを教えてあげた。


「僕がセットしたのはカウンターです」

「くっ!」

「コール!」「コール!」


 互いにセットしたカードを表側にし、彼の歯ぎしりが聞こえた。


「僕の有効打ですね。これで一勝です」

「くっ!」


 そのとき、視線を感じた。ふと目を向けると、赤い髪の少女が静かに盤面を見つめていた。そして、僕に顔を向けた。


「キミ、名前は?」

「天城ユウです」


 彼女は僕の手首を掴んで高らかに上げた。


「この勝負、ユウの勝利とします」

「えっ?」

「お兄ちゃん、推薦状を出して。早く」

「わかった」


 彼はハーフパンツのポケットから封筒を取り出し、僕に差し出した。


「これは?」


 彼女が説明してくれた。


「グリッド養成学園の推薦状だよ。学園を卒業すれば魔法士になれるんだよ」


 なるほど。そういうことでしたか。あの少年は彼女の弟というわけですね。それはそうと――


「そろそろ手を放していただけますか?」


 彼女は思い出したかのように手を放してくれた。


「ごめんね。キミが来るのを楽しみにしているよ」


 そう言って、彼女は立ち去った。


「まるで嵐のような人でしたね」


 彼は申し訳なさそうに謝罪した。


「にいちゃん、騙すようなまねをして、すまなかった」

「いえ、事情があるのでしょう」


 うなずいて、説明してくれた。


「アストリアにも魔法士がいるよな」

「はい」

「カリステアにも魔法士がいた。そして、グリッドには大規模な大会があった」


 僕は妙な言い回しに首をかしげた。


「なぜ過去形なのですか?」


 彼はため息をついた。


「八百長が横行してな。疑惑のある魔法士を全員追放したんだよ。当時はクレームばかり来て、おやじは苦労したんだよ」

「つまり、実力のある者を集めて、再起しようとしているのですね」

「そういうことだな。そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はオリヴァー・アルヴェリック。妹はソニア。弟はファルコだな」

「オリヴァー、せっかくですし、最後までやりませんか?」


 オリヴァーはうれしそうに笑った。


「気持ちだけ受け取っておくぜ。正体がバレた以上、ここにはいられねえからな」

「わかりました」


 僕らはカードを片付け、デッキをファルコに返した。彼の目は輝いていた。去り際に彼が手を振りながら言ってくれた。


「優しいおにいちゃん、ありがとう」


 それが僕にとってうれしかった。

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