第1話 グリッド発祥の地

 僕らは、カリステアの首都グリッドに来ていた。カリステアは年中日差しの強い土地で、住民は半袖、ハーフパンツ、サンダルで生活していた。


 僕は笑顔を作り、彼女に感謝の言葉を伝えた。


「ナナ、ありがとう。僕だけでは半年以上かかる仕事を、キミは一日で済ませてくれた。まさか、こんなに早くアストリアから離れることができるとは思わなかったよ」

「いえ、これも仕事ですから」


 サングラス越しに青空を見上げた。


「事前に聞いていた通り、暑い土地だね」

「はい、カリステアは年中、この暑さですので、水分はこまめに取ってください」


 彼女のほうに顔を向けて、笑顔を作った。


「わかったよ。長旅で疲れたし、食事にしよう」

「わかりました。少し歩いたところに、おいしい肉料理を提供してくれるお店がありますので、案内いたします」

「案内は任せるよ」


 僕らは歩き出し、しばしの無言が続いたあと、彼女は僕に質問してきた。


「ユウは後悔していないのですか?」


 僕は笑顔で答えた。


「後悔していないと言えば、うそになるのかな。僕にもファンがいたからね」


 笑顔が曇り、ため息を漏らした。空港で泣いているファンを思い出してしまった。


「みんなを笑顔にすると言っておきながら、僕は悲しませてしまった」


 彼女は足を止め、僕に頭を下げた。


「無神経なことを聞いてしまい、申し訳ありません」


 僕は笑顔を作り、首を横に振った。


「ナナが謝る必要はないよ。だから、顔を上げてくれないかな」


 彼女は顔を上げた。僕の顔を見て、不安そうな表情はすぐに消えた。僕は彼女の笑顔を見て、うなずいた。


「今日はこのグリッドの街を観光しよう。案内は任せるよ」

「はい、お任せください」


 僕らは歩き出し、僕は彼女に質問を投げかけた。


「ナナ、気になっていたことがあるのだけれど、いいかな?」

「はい、何でしょうか?」

「カリステアの首都グリッド、これは偶然なのかな?」


 彼女は首を横に振った。


「いえ、グリッドはこのカリステアの首都グリッドが発祥の地と呼ばれています」

「この街で生まれたんだね。道理で空港の土産物売り場でグリッドのカードが売られていたわけだね」


 うなずいて、説明を続けた。


「ユウはご存じないかもしれませんが、有名な魔法士はプロモーションカードになっていますよ」


 僕は口角を上げ、うれしさのあまり笑い声を上げた。


「それは本当かい? グリッドでも使えるのかな?」

「グリッドを模したカードゲームでは使用できるようです」


 笑顔で聞き返した。


「僕のカードはあるのかな?」


 彼女は小さく首を横に振った。


「ユウはアストリアではチャンピオンですが、カリステアでは無名に等しいです」


 それを聞いて、僕は安堵あんどしていた。まだ心の中でほんの少しだけ不安が残っていた。


「ナナ、ありがとう。僕はカリステアで、みんなを笑顔にするよ」

「はい、サポートはお任せください」


 僕らはたわいもない会話をしながら、お店に到着した。


 お店の中は食事時ということもあり、混雑していた。店員が僕らに声をかけてきた。


Ziel二名 karet duon?ですか?


 彼女が店員とカリステア語で会話を始めた。


Zahはい

Izh karatお席に zir faご案内 rukunakいたします


 僕に顔を向け、説明してくれた。


「ユウ、席に案内してくれます。行きましょう」


 僕は笑顔でうなずき、ついていった。僕らが案内されたのは窓辺の席で、近くの公園ではカードゲームに興じる人々が声を上げて楽しんでいた。


 彼女は店員に料理を注文し、僕に説明してくれた。


「少し時間がかかるようです」

「混雑しているから仕方ないね。ナナ、待っている間、公園を見に行ってもいいかな?」

「はい、料理が来たら携帯で連絡します」


 僕はうなずき、席を立ち、公園に向かった。


 公園の片隅で、カードゲームを眺めている少年が気になった。


 僕は少年にカリステア語で話しかけた。


「キミは混ざらないのかい?」


 少年は僕の顔を見て、うつむいた。


「僕は弱いから、みんなが相手をしてくれないんだよ」


 僕は笑顔で少年の肩に手を置いた。


「キミのデッキを、僕に見せてくれないかな?」


 少年は僕の顔を見て、うなずいた。


「うん、見せるだけならいいよ」


 僕はデッキを手渡され、カードを見て、うなずいた。


「このデッキを借りてもいいかな?」

「いいけれど、どうするの?」

「僕がこのデッキでキミを笑顔にするよ」


 僕は一人の男性に声をかけた。


「よろしければ、お手合わせ願えますか?」

「兄ちゃん、見たことのない顔だな」

「はい、アストリアから来ました」


 彼は顎にそっと手を当てた。


「ルールの説明は必要か?」


 僕は笑顔で首を横に振った。


「飛行機で移動している間に、ルールを覚えたので大丈夫です」

「よし、いいぜ。初心者相手でも手は抜かねえからよ」

「はい、お手柔らかにお願いします」


 僕らは互いにグリッドテーブルの前に立ち、デッキをシャッフルし、勝負開始の合図を口にした。


「クロス!」「クロス!」

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