最強なのに嫌われた魔法士、カードゲーム×バトル×アクションで笑顔の魔法をかけます!

@kinogi

プロローグ

 高速道路を走るタクシーの車内で、僕は窓から外の風景を眺めながら対戦相手に言われた言葉を思い出していた。助手席に座っていた僕のマネジャーのため息が漏れた。


「ユウ、次の試合に集中してください」


 僕はマネジャーのほうに顔を向けて、笑顔を作った。


「わかっているよ、ナナ」


 彼女はまたため息をついた。


「あの対戦相手の言葉が気になっているのですか?」


 彼女にはすべてお見通しだった。僕はうつむき、返事をした。


「うん、ナナには黙っていたけれど、僕はみんなを笑顔にするヒーローになりたかったんだよ」


 彼女が何も言わないので、僕は続けた。


「彼の言葉は僕の心に響いたよ。そして、思い出してしまった。幼い頃に憧れたヒーローのことを。どんな逆境に立たされても、ヒーローは諦めたりなんかしない。最後には必ず勝つんだよ」


 僕は拳を握りしめた。


「そのことを忘れていた僕は、強さを追い求めた」


 顔を手で覆い隠し、ため息をつき、自分に対して怒りをぶつけた。


「今の僕は対戦相手をリスペクトしていない! よくないうわさも耳にする! 僕は今の自分が嫌いなんだよ!」


 彼女が口を開いた。


「引退されるのですか?」


 僕は口角が上がり、皮肉な笑みを浮かべた。


「それが許されるのならね」

「はい、あなたはチャンピオンです。自覚をお持ちで安心しました」


 彼女の独り言が聞こえた。


「最近、忙しかったので海外旅行にでも行きたい気分です。しかし、私はユウのマネジャーですので、あなたの傍から離れることもできません」


 海外旅行……?


 それを聞いて閃いてしまった。僕はうれしさのあまり声に出して笑っていた。


「ナナ、海外での僕の知名度はどうなっているのかな?」


 彼女は首を横に振った。


「ユウの話題はネットニュースの片隅に載る程度です」


 僕は拳を握りしめ、決意した。


「ナナ、僕は拠点を移すけれど、キミはどうするのかな?」

「まだ報酬をいただいておりませんので、お供いたします」

「助かるよ。ちょうど通訳がほしかったところだし、あとのことは任せてもいいかな?」


 彼女はうなずいた。


「お任せください」

「ナナ、ありがとう。僕は海外で一からやり直して、みんなを笑顔にするヒーローになるよ」

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